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ルドベキア22歳


十七になったセリは、『女神の花園』のオーナーとして相応の威厳を備え始めていた。


確かに派手さはないが、『目に映らないほど地味』と言う形容詞は、取った方が良いだろう。


長年、婚約者である僕だから、彼女を見つけられるんだと言われてきた。


それはそれで嬉しかったけど、セリが必要以上に自分を卑下するのは好ましくないとも思ってきた。


しかし、ここ数年、『女神の花園』が、基礎化粧品のみならず、口紅や白粉と言ったラインナップを揃えるようになったことで状況が変わった。


実験台と称してセリがそれらの化粧品を使うようになると、徐々に、でも、確実にセリは美しくなっていった。


セリの専属メイドクローバーによるメイク技術も良いのだろう。



『お嬢様のような地味顔は、化けるのです!』



と力説していた事は、セリには、秘密だ。


本人は気づいていないけど、さっきから街を行き交う男性がセリをチラチラ見ていく。


折角、隣国テールに来たのだからと買い物に出たのだが、こんな事なら個室のレストランでも予約しておけば良かった。



「どうかしましたか?ルー様?」



僕と腕を絡めて隣を歩くセリが、不安そうに見上げてきた。


また、難しそうな顔をしてしまっていたのだろうか?



「ルー様は、お腹が空いたんですか?」



「お腹が空いたのは、セリだろ?」



ポッと頬を染めて視線を外すのは、図星を指されたからだろう。


表情が良く動くセリが、先程から露天で売られている食べ物をキョロキョロ物色していたのは知っている。



「何が食べたいの?」



「あ、あれを…」



指さしたのは、串に鶏肉を刺して焼いた料理。


確かに、香ばしい香りが鼻を刺激する。



「でも、立って食べないといけないよ?大丈夫?」



「一度、やってみたかったんです!」



興奮気味に手を握りしめるセリが可愛くて、僕は、早々に焼き鳥を買って手渡してあげた。


市民のように、歩きながら食べるのは難しいだろう。


セリを壁に向かって立たせ、自分は、人から彼女が見えないように立った。



ハフハフハフ



熱々の肉を頬張るセリは、木の実を頬に入れたリスみたいだ。


僕も一緒に食べると、シンプルな塩味で食べやすかった。


肉汁が滴り落ちるほど多くて、臭みも無いのは、新鮮な肉を使っているからだろう。


僕達は、婚約者となってから初めて、外での立ち食いをした。


普通の貴族令嬢なら、こんなこと絶対あり得ない。


でも、僕は、こんなセリだから、益々愛おしくなっていく。


僕らは、食べ終わると一度店に立ち寄った。


ベタベタになった手を洗いたかったから。


しかし、再び店を出ようとした時、一人の年老いた女性が店に入ってきた。



「ここの責任者は、誰だい?」



しゃがれた声で一声あげると、店員達が驚いて一斉に老婆を見た。



ドン



威嚇するように杖で床を叩かれると、ビクンと体を震わす。


開店準備中の店舗に怒鳴り込んでくるとは、ただごとではない。


ここは、僕の出番か。


僕が一歩踏み出そうとした時、セリが僕の腕を引っ張って止めた。


そして、満面の笑みで、



「ようこそお客様、『女神の花園』へ。私が、オーナーのセリ・ディオンでございます」


と挨拶をした。


その微笑みは、まるで旧友を迎えるような親しさに溢れ、



「さぁさぁ、こちらへどうぞ」



軽やかな足取りで女に近づくと、セリは、彼女の手を取ってVIPルームへと誘う。


こうなると、老婆の方が目を白黒させ始めた。



「ちょ、ちょ、引っ張らないでおくれ!」



抵抗する彼女を、部屋に押し込むセリは、何やら悪い顔をしている。


しかも、



「お客様にお茶とケーキを!ルー様は、少しお待ちくださいね〜」



と言うと、



パタン



ドアを閉めてしまった。


シーンと静まる店内。


店員全員の視線が、僕に注がれる。



「あ、あの、私達は、どうしたら?」



「…まずは、お茶とケーキを…」



「は、はい。その後は?」


「…さぁ?」



皆、そんなガッカリした目で僕を見ないでくれ。


口下手な僕を、女性だけの店内に一人残していくなんて、セリ、君は本当に罪作りな女の子だよ。

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