セリ17歳〜隣国テールへの旅〜
ルー様が卒業されて、四年が経った。
そして、来年、私は、卒業の年を迎える。
同時に結婚式も挙げる予定になっているから、ゆっくり出来るのも今年まで。
だからこそ、どうしても行ってみたい場所があった。
それは、隣国テール。
私が前世で人生の半分以上を過ごした場所。
複雑な思いはあるけれど、海外一号店は、テールと決めていた。
あそこには、私の知る人間も少なくない。
一人でも多くの人を幸せに出来ればと願っている。
そして今、あちらで『女神の花園』の支店が開店を控えていた。
その視察を兼ねて、久しぶりに休暇を取れたルー様やケイトウお兄様、ダリアお母様にヒルタお義母様まで巻き込んで、旅行をすることになった。
馬車二台に分かれて乗り込み、いざ出発!
最初は、エーデルワイス家とディオン家に分かれて乗るはずだったんだけど、気付いたら、ホップくんもニレくんも参戦してて、男性、女性に別れて乗ることになった。
お母様達は、今では姉妹のように仲良しで、離れがたかったみたい。
ルー様は、ちょっとご立腹。
「なんで、セリと別なんだ!」
って拗ねてらっしゃったけど、私も、同意見ですわ!
ただ、婚姻前の男女が同じ馬車に乗る事は憚られますから、我慢ですわねルー様!
おしゃべりに疲れて車窓を眺めていると、懐かしい風景が広がっていった。
テールの中心街。
大通りの両側にパン屋や花屋、様々な店が並んでいる。
戦争の最中、銃撃戦で、この辺りは惨劇の現場になった。
それが、今、活気に満ちた人で溢れ、小さな子供も楽しそうに駆けている。
ここの治安が、とても良い証だろう。
そして、私達のお目当て、『女神の花園』テール支店に到着すると、更に胸が熱くなった。
「いらっしゃいませ。お久しぶりです、セリさま!」
並んで微笑むのは、過去に私と娼館で働いていた二人。
四年前、研修を受けた後、リーダーとして研鑽を積んだ彼女達を、満を持してテール支店の店長に据えた。
地元を知り尽くす彼女達だからこそ、テール特有のお客様の要望にも応えてくれると信じている。
「いよいよね。貴女達なら、必ずやり遂げられるわ!頑張ってね!」
あの苦しかった娼館ですら笑顔を絶やさなかった二人。
しかも、その面立ちは品が良く、洗練されている。
看板娘としても申し分ない美女に、既に、店の外から興味津々に覗く少女達の姿も見えた。
いつか、あの子達も年頃になれば、この店を訪れるだろう。
商品を買ってくれるお客様になるかしら?
それとも、共に働く従業員になるかしら?
額をペタッと窓につけて熱心に様子を探る姿は、夢と希望に溢れている。
私は、開店客に配るように準備してあったハーブクッキーの小袋を幾つか手に取ると、店の外に出た。
カランコロン
扉につけた小さなカウベルが音を立てると、少女達は驚いて、ピンと直立不動になった。
「はい、皆で、分けてね」
手渡された袋と私の顔を何度も見比べると、パーッと顔を明るくしてペコッと一斉に頭を下げた。
そして、キャアキャア声を上げながら走り去っていく。
その後ろ姿を見て、私は、胸が熱くなった。
生まれ変わってから十七年。
やってきた事が間違いじゃなかったよと、認められたような気がした。