セージ 年齢不詳
俺は、新聞に躍る腐敗貴族の一覧に、笑いを止められなかった。
あのチューベローズとか言う女、盗賊にでもしたら、首領にでもなれたんじゃないか?
それくらい、肝の据わった女だった。
王太子と側近候補、更に、学園教師を巻き込んだ、チューベローズとの爛れた関係は、彼女の手記で全国民が知ることとなった。
王家が慌てて止めようとしても、既に、王太子が取り押さえられる時に全裸で暴れている。
今更、捏造だと言われて、誰が信じる?
彼女一人に罪を被せる事が出来なくなり、そうそうたる高位貴族の後継達が、その地位を追われた。
無論、第一王子オダマキ殿下も巻き添えを食い、王太子から降ろされた上に、北の塔での謹慎を言い渡された。
謹慎と言えば、反省すれば出て来れそうな錯覚を与えるが、実質は、永久幽閉だ。
毒杯を賜らないだけマシと思うべきなのか、いっそ、一気に息の根を止めてやった方が幸せなのか分からない。
「セージさん、セリの姉御は、すげーですね!」
今回、セリ嬢に協力をしたメンバーは、口々に彼女を褒める。
どうやら、セリ嬢に情報を流した後、心配で最後まで見届けようと学園内で潜んでいたらしい。
隠密活動に特化して仕事をさせているコイツらが見失うほど、彼女は、見事に気配を消していた。
「すれ違った事さえ気付かせない程気配を消せるなんて、天才としか言いようがありませんよ!」
いや、それ、多分生まれつきだからな。
興奮状態の配下は、セリ嬢を『姉御』と呼ぶ。
ヤクザじゃないんだから、止めなさい。
しかも、お前ら、年上だろ。
まぁ、しかし、あの小さな少女が、薬を入れ替えた事も驚きだが、その効果が、ああ言う大衆受けしそうな失態に繋がった事も痛快だった。
公爵令嬢が、薬草に精通していだけでも異常なのに、そんなヤバい種類のブツまで操るとは、末恐ろしい。
時折見せる、悟りを開いたような表情は、相当な修羅場を潜った人間のようだ。
能天気にセリ嬢を溺愛する家族を見るに、そんな経験をどこでしたのか見当もつかないが。
「ふっー、それにしても、まさか、チューベローズが死罪を免れるとは思ってもみませんでしたね!」
誰かが、感嘆のため息をついた。
俺の元で働いてるとは言え、コイツらは、まだ十代の青年だ。
最果ての修道院に収監されるチューベローズを一目見て、セリ嬢の対局にある『女』を感じたようだ。
手錠をかけられ引っ立てられる時も、馬車に押し込まれる時も、チューベローズと言う女は、無駄に色気を垂れ流していた。
チラリと流し目を送られれば、思春期のコイツらなど、ひとたまりも無いだろう。
それに、長年、貴族に苦しめられて来た人々にとって、奴等を手玉に取った彼女は、ある意味ダークヒロインだ。
平民達の中では、良くやったと褒める奴すら居る。
確かに、彼女の暴露で、多くの悪者が捕縛されたらしいから、あながち間違いでもないな。
「ほら、油売ってないで、さっさと仕事しろ!」
俺が、パンパンと手を打つと、皆、慌てて部屋から逃げ出した。
いつまでも、終わった事に想いを馳せている場合じゃない。
今日も、俺は、セリ嬢からの注文に応えるのに忙しくてしかたないんだから。