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クローバー18歳


スヤスヤ眠るセリお嬢様を他のメイド達と協力してお部屋まで運ぶ。


お嬢様の泣き濡れた顔に、皆がもの言いたげだ。


私は、シーッと人差し指を口元に当てて、皆と一緒に部屋を出る。


廊下に出てから、私達は、メイド控室へと移動した。


ことの成り行きを説明しないと、多分、全員納得しない。


私は、皆にお菓子と紅茶を振る舞うと、一呼吸置いてから話し始めた。


多分、セリお嬢様は、私の本当のお父さんを知ったのだ。


そして、私を思って手放そうとして下さっている。


皆に、その話をすると、



「セリお嬢様ならあり得るわねぇ」



とため息をつく。


公爵令嬢らしくない優しい人柄は、ここにいる人間なら誰でも知っている。


でも、六歳の時に初めて小さな赤ちゃんを見て以来、私の生きる場所は、常にセリお嬢様の側だと心に決まっていた。


今更、それが覆ることは無い。



「でも、クローバーは、本当のお父さんの事気にならないの?」



私を心配げに見つめてくれる同僚達。


ほんと、泣けちゃうくらい優しいんだから。


だから、私は、敢えてあっけらかんと、



「知ってるもの」



と言い放った。



「えぇーーーー!」



皆の驚きの声の大きさに、私が驚くわよ!


どうして?どうして?と煩いから、お母さんが残した日記を出してきた。


おばあちゃんは、中身を見ていないと言う。


娘である私だけが見る資格があるからと、十歳になった時に渡された。


ちゃんと勉強して、文字が読めるようになったからね。


そこに書かれていたのは、愛した男性への誠心誠意の思いと、決して結ばれないと分かっていた乙女心だった。


お母さんは、覚悟の上だったんだ。


自分達が結婚出来ないと言うことを。


それでも、愛する人の子供が欲しくて孕んでしまった。


日記には、生まれてくる我が子へ、自分の我儘で父親のいない子供にしてしまった事を詫びる文章も書かれていた。


謝らなくて良いのにね。


だって、二人の愛がなければ、今私は、ここに居ない。


セリお嬢様に出会えることも無かったし、幸せを感じることも無かった。


昔、一度だけシジャク家の屋敷の前を通ってみた事がある。


呆然と大きな屋敷を見上げる私に、メイドの一人が水を引っ掛けた。


その一事をとっても、この家のレベルの低さが見て取れる。


身重のお母さんを何も持たさずに追い出したことも、許してない。


だって、その時点では、お腹の中にいる私が死んでも良いと思っていたってことでしょ?


メイド仲間は、激しくウンウンと頭を上下に振ってくれた。


皆、納得してくれたみたいで嬉しい。



「私は、セリお嬢様が嫁入りする時も付いて行く気満々だから!」



ガッツポーズをすると、拍手が起こった。


私の人生は、セリお嬢様と共にあるのよ!


フンスと鼻を鳴らして勢いこんでいると、



「アンタ達!何サボってんの!」



突然怒鳴り声が響いた。


気づけば、お婆ちゃんがドアを開けて仁王立ちしている。



「ごめんなさーーーい!」



私達は、蜘蛛の子を散らしたように退散した。


でも、皆、満面の笑顔だった。

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