セリ12歳〜もう一つの真実〜
ある日新聞を賑わせたのは、王太子のあってはならぬゴシップだった。
相引き宿で平民の女と密会している最中に、錯乱状態に陥り、病院に搬送されたと言うのだ。
宿主は、まさか王太子が自分の宿でイケナイ事をしているとは思いもよらない。
薬物使用による事件として、警邏隊まで呼び寄せた。
運ばれる最中も、全裸で暴れた男女。
それを目撃した者の口に戸を立てる事などできない。
あっという間に噂は広まり、新聞にデカデカと掲載されるに至った。
「良かったわ、本当に死ななくて」
私は、ハシリドコロに水をやりながらホッとため息をついた。
フキやタラノメに似ていて、誤食した人が走り回るからハシリドコロって名付けられたとセージさんが言っていた。
用法を守れば、痛みを止める役割もある。
だけど、多すぎると命の危険もあった。
薬と毒は、紙一重。
何事も、使い方を間違えないよう、人間自身が気をつけなくてはならない。
とりあえず、これで、オダマキ殿下が跡を継ぐことはなくなったわね。
じゃぁ、もう王太子じゃなくて、ただの第一王子?
王籍も剥奪かしら?
まぁ、どうでもいいわ。
終わったことですもの。
それよりも、私の気持ちを揺さぶるのは、別の事。
今回、セージさんが調べてくれた内容に、思いもかけない事実が記載されていた。
それは、チューベローズが成り代わったシャジク家の孫娘が、本当は、誰なのかと言う話。
シジャク家の一人息子が愛した女性の名は、テマリー。
彼女は、子供を孕った事を恋人の両親に知られ、ほぼ何も持たされずに屋敷を追い出された。
そんなテマリーが頼ったのは、無論、自分の母親だ。
その母親が、なんと、我が家のメイド長。
そう、シャジク家の本当の孫娘は、クローバーなのだ。
多分、前世で、チューベローズは、その事を知っていた。
だから、事実の発覚を恐れて、私と一緒にクローバーを娼館に売り払ったのだ。
なんて恐ろしい女だろう。
それはさておき、私は、この事実をクローバーに知らせるべきなのか頭を悩ます。
「ふぅ…」
「セリお嬢様、溜息ばかりで、いかがなさいました?」
クローバーが、私の横で草むしりしながら声を掛けてきた。
私は、鼻の奥がツンとして、泣きそうになった。
前世でも、今世でも、私を支えてくれるクローバー。
彼女が幸せになるならば、手放すべきなのよね?
「ねぇ、クローバー」
「はい、セリお嬢様」
「もし、もしもよ、貴女のお父様が誰か分かったら興味あるかしら?」
私の質問に、クローバーは、ふふふと笑うと首を横に振った。
「全く以て、興味ゼロですね」
「え?」
「だって、私の家族は、おばあちゃんを含め、このディオン家にいる人全員ですもの。今更、他に家族なんて必要ありません」
キッパリと言い切るクローバーに、私は、涙が止められなかった。
「クローバーーーーーー」
ジョウロを放り出し、クローバーに抱きつく。
「まぁまぁ、セリお嬢様、いくつになっても赤ちゃんみたいですね」
私にのしかかられるような形で地面に寝転がったクローバーは、怒ることもなく、トントンと背中を叩いてくれる。
結局、私は、グズグズ泣き続けて、そのまま眠ってしまった。