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チューベローズ18歳


「アンタ、貴族の子になりなさい」



部屋に飛び込んできた母さんが、突然私に詰め寄ったのは、11歳の時だった。


なんでも、昔働いていたお貴族様の息子さんが事故で亡くなったらしい。



「なによ、意味が分かんない」



「持ってるのよ!あの軟弱貴族が恋人に宛てた手紙をね!アンタ、成り代われるわよ!」



後輩メイドが、そこの次期当主と恋仲だったらしい。


そして、子供を孕んだのを親に知られて、屋敷を追い出されたそうだ。


母さんは、その後輩が憎らしくて、ずっと虐めていた。


手紙も無理矢理奪い取ったと自慢げに語る姿は、天晴れと言うところか。


前々から、下衆な人だと思っていたけど、本当に人間のクズだった。


私は、年頃が同じらしく、自分で言うのもなんだが顔も良い。


何せ、母さんが入れ込んだ女垂らしの血が入っている。


その男のせいで娼館に落とされたのに、未だに未練があるらしい。


あー、馬鹿らしい。


でも、この母親から逃れられるのならソレもありだなと思って話に乗ることにした。


だって、今まで一度だって世話を焼いてもらった事なんてないんだもの。


私は、母さんから、当時の屋敷の状況や、亡くなった男の特徴を事細かく聞いた。


もちろん、若い二人の恋のエピソードも。


怪しまれた時に、あたかも母親から聞きましたと涙ながらに語れば、年老いた男の両親は、両手を上げて喜んだ。


どうやら、このままでは、血筋が途絶える所だったらしい。


全く、うちの母さんは、カッコウ並みね。


オオヨシキリの巣に、勝手に自分の卵を産みつけ育てさせる托卵の名人。


でも、正式な手続きを踏んで養子縁組が組まれた後、不思議なことに、母さんとは連絡を取っていない。


なんでも、突然母さん好みの男が現れて、いい歳した母さんを本気で口説いたんだって。


奇特な人が、いたもんね。


でも、身受け出来るお金も持ってないし、二人で逃げることにしたそうだ。


足抜けを決行する日時を決めて、母さんは、身の回りにあるものを全てお金に換えて娼館を抜け出した。


ただ、不運だったのは、その男が、時間になっても来なかった事と、全てが娼館側にバレてた事。


その後、どうなったかって?


借金の返済もせずに足抜けするなんて、娼館では重罪よ。


私の知ったこっちゃないけど、まぁ、生きてたら感謝するべきじゃないかしら?


もし、今後会うことがあったら教えてあげる。


貴女の信じた男は、娘が雇った役者ですよーって。


でも、騙されたのは、自業自得だから怒られたって困るわ。


十一歳の娘なら上手く操れると思った、自分の残念な脳味噌を恨みなさい。


私、下衆な貴女の娘なのに、信じるなんてホント馬鹿ね。


こうやって、上手く潜り込んだ貴族社会は、蜂蜜より甘く、人を騙すのは呼吸をするより簡単だった。


最初は、良い子を演じて信頼を得る。


出来が悪くても、平民で苦労して来た孫が精一杯やってますーって見せかければ、チョロいもんよ。


十四歳を超えると、周りの男子が変な目で私を見るようになった。


そりゃそうよね。


私、胸の発育だけは、並外れてたもの。


私を養子に迎え入れたジジイまで執拗に胸元を見て来た時は、反吐が出た。


仮にも孫よ?


まぁ、最初から信じてなんかいなかったんでしょ?


そんなにお家存続が大切なのかしら?


一度も見たことのない父親が授けてくれた美しい顔立ちのお陰で、蜜に寄ってくる蜂のように、馬鹿な男達は群がって来た。


少し刺激を増やしてやると、面白いほど喜ぶ。


そして、とうとう王太子にまで辿り着いたわ!


別に、王妃なんて興味もないけど、側妃の一人くらいに据えてくれたら将来安泰よねー。


ま、オダマキ殿下の子供を産むかは、定かじゃないけど。

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