セリ12歳〜ないんペタンつるん〜
人脈とは、なんとも恐ろしいもの。
前回の人生では見えなかったものが、見えてくるようになった。
派閥だけじゃない。
人と人の相性や、長い月日を重ねた結果の確執。
時には、他人の秘密も『貴女だけに』という修飾語付きでやって来るまでになった。
今、密かに噂になっているのは、王太子が元平民の女に入れ上げて、宝物殿の宝石を一つ横流ししたというもの。
下手したら、国家反逆罪にも問われかねない醜聞だ。
これが、公然の秘密として囁かれている時点で、オダマキ殿下の現在の地位は、かなり危ういと言える。
殿下のお相手の名は、チューベローズ。
今は、シャジク伯爵家に引き取られ、一応貴族令嬢の体を成している。
かつて働いていたメイドの娘らしく、事故で亡くなった跡取り息子の血を唯一引く子らしい。
自ら名乗り出たと言うし、かなかな根性の据わった人なんだろう。
だって、私なら、妊婦であった母親を追い出した家に、のこのこ行ったりしない。
冷たくあしらわれる可能性の方が高いもの。
皆が言うには、危険な快楽を餌に、何人かの令息を既に虜にしていると言う噂は、随分前から流れているそうだ。
危険な快楽って何?
麻薬に近い何かかしら?
そんな物を、十八の小娘が手に入れられるご時世って、本当、怖い。
以前の人生でも、彼女の名前には聞き覚えがあった。
大抵が、女子生徒による悪口。
もしくは、男子生徒の聞きたくも無いユルユルなお付き合い相手。
次から次へと蝶のように貴族令息を渡り歩くらしいけど、今考えたら、光に寄ってくる蛾よね。
お胸も、ボヨーン。
お尻も、プリーン。
お目目も、パチリ。
娼婦なら、一級品よ。
でも、王太子まで虜にしたとは、初耳だった。
多分、前世でも、よろしい仲だったんでしょうね。
私の『ないんペタンつるんボディー』じゃ、太刀打ちできないはずだわ。
「もぉ、私、胸が苦しくて」
ヨヨヨッと儚げに泣くのは、今世で王太子妃筆頭に名前の上がるオミナエシ・ブルーム侯爵令嬢。
筆頭と言うことは、まだ、確定したわけじゃないってこと。
王家、まだ、私を狙っているのか?
私よりずっと愛らしいお顔と『たわわな胸』をお持ちなのに、見向きもしてもらえないなんて、腹立たしいこと極まりありませんわよね!
「そんなに泣いては、美しい目が、赤く腫れ上がってしまいますわ」
私は、彼女の涙を、優しくハンカチで拭いてあげる。
ごめんなさい。
私が逃げたばかりに、貴女が苦しむ事になってしまって。
でも、まだ筆頭で良かった。
彼女の経歴にバツが付かないから。
王太子が失脚したら、別の素敵な殿方をご紹介するわ。
ルドベキア様のお友達も、かなり優秀ですのよ。
もし出来たら、うちの兄をよろしくお願いします。
変わり者だけど、優しくて優秀で見た目もピカイチですのよ。
ちょっとシスコン過ぎますけど、悪気はないんです。
えぇ、悪気がないから、余計タチが悪いとも言えますが…。
「オミナエシ様。チューベローズさんの事は、きっと先生方が、どうにかしてくださいますわ」
そして、私がね!
地味〜に、追い込んで差し上げるわ。