セリ11歳〜地味な報復〜
じっくり取り組んで広めた化粧品事業は、ディオン家の代名詞になる程の成長を遂げた。
効果抜群の美容液は、社交界でお母様が広告塔となって広めて下さったお陰で、一番の売り上げ。
地味な私も、お肌だけは一級品。
リラックス効果のある香水や、吹き出物を抑える薬用化粧水も売れ筋よ。
そして、男性陣へのルドベキア様の著書、『骸骨騎士漫遊記』の貸し出しも順調。
いつかは、大手出版社から販売する予定だけど、今は、エーデルワイス家でのみ貸し出しを行っている。
そう、あくまでも貸し出し。
直筆だからね。
写本は、オッケーよ。
この本の人気は、実際にルドベキア様が学園内での剣術大会で優勝した本物の実力が支えている。
あのヒョロヒョロの体から繰り出される軌道の読めない太刀筋は、まるで冒険活劇の主人公みたいなカッコ良さ。
直々指導をしてくださる騎士団長からも、卒業後は是非来て欲しいと熱烈オファーをもらっているらしい。
闘技場の最前列で叫ぶ私を、誰も叱ることは出来ないと思うの。
お母様は、はしたないって怒ってらっしゃったっけ。
でも、こうして、私達二人は、いつしか人の輪の中心に立つようになった。
あんなに自信なさげに壁に張り付いて立っていた二人が、嘘のよう。
でも、私達だって、ちゃんと努力してきた。
ルドベキア様の体調管理は、私が万全を期したことで、バッチリ!
胃痛も、貧血も、筋肉量が増えない悩みも解決された。
ひたむきに剣術の練習をされたのもルドベキア様自身。
誰に恥じる事もない。
それでも、目立つ者を気に入らない人もいる。
その筆頭が、王太子。
ここ最近大活躍のルドベキア様と何かと比べられて、相当腹立たしいんだろう。
剣術大会でも、思いっきり負けたしね!
ふん!ざまーみろ!
この日も、わざわざ取り巻きを連れて、学生食堂までやって来たオダマキ殿下は、私達の悪口を声高に話す。
「最近は、人ならざる者が、学園に紛れ込んでいるそうだ。骸骨ならば、墓地に帰るが良い」
ワーワーギャーギャー。
それが自身の人気を落とす原因だと、なぜ気づかない。
私は、ウェイトレスを呼ぶと、王太子の席に、海老のカクテルサラダにレモンをかけたものと、タコとアワビのソテー、サツマイモとバナナのケーキをお届けするように申しつけた。
「ほぉ、女の方は、なかなか分かっているようだなぁ」
ちらりと私を見て頷かれるオダマキ殿下。
貴女が探して久しい『セリ・ディオン』とは、私のことですわよ。
おほほほほほほ。
奴らは、貢物とでも勘違いしたのか、満足げにテーブルの上に並べた料理を平げ始めた。
よしよし、よーく噛んでお食べ。
食べ合わせの悪い食べ物オンパレードフルコースをね。
蛯に含まれる銅とレモンのビタミンCは、ミネラルである銅がレモンの薬効を打ち消すだけじゃなくて、毒素を発生させる事もあるわ。
タコとアワビは、特に消化しにくい食べ物ダブルパンチ。
お腹を膨らませるサツマイモと体を冷やすバナナの相乗効果で、さらに胃腸の動きを鈍らせたら、あら不思議。
今夜辺り、皆様、腹痛で苦しまれるのではなくて?
地味な顔の女は、地味な仕返しを致しますのよ、ごめんあそばせ。
「セリ、なんだか楽しそうだね」
「ルー様と一緒の食事は、いつも最高に楽しいですわ」
私は、地盤を固めつつ、こうして地味な攻撃を時折織り交ぜる素敵で楽しい学園生活を過ごした。