ダリア25歳
十八で、夫と結婚して、二十歳でケイトウが生まれた。
周りの方々は、後継の誕生と夫、ハスに似なかったことを喜んだ。
私には、理解できませんでした。
無論、ケイトウを愛する気持ちは揺るぎませんが、夫の何処がいけないと言うのでしょう?
確かに身長は、成人男性としては、低めかもしれません。
しかし、低すぎるということではなく、私としては、横に並んだ時の収まりが絶妙に良いのです。
少し顔を上げただけで、あの小さく黒目がちな瞳が、愛しげに私を見て下さっているのが見える。
高くもなく低くもない声は、耳障りが良くて、聞いているうちに眠ってしまいそうになる程心地いい。
貴族には、やたらと自分自慢をしてくる男性が多いのですが、彼には、自慢らしきものが一つもないというのです。
でも、何もかもを平均値で出来ることは、自慢できる事ではないのでしょうか?
確かに、褒めそやされる事はないでしょう。
しかし、誰にも迷惑をかけず、己の足で立ち、実直に仕事をする姿は、カッコ良い以外の何ものでもありません。
偉そうに人に命令するしか出来ない方々は、一体何を見ていらっしゃるのかしら?
「ダリア、今日は、良く来てくれました」
「お久しぶりでございます、カサブランカ様」
側妃として王家に輿入れされたカサブランカ様は、私の学園時代の同級生。
華やかで、ゴージャスな彼女が、本来は王妃になるのだと誰もが思っていた。
それが、気づけば王様よりも二つも年上のサラセニア様が、正妃になられていた。
当時、王様がサラセニア様のご実家に、弱みを握られたと言う噂がまことしやかに流れました。
真偽の程は分かりませんが、結婚式に新郎が苦虫を噛み潰したようなお顔をなされていたので、あながち嘘ではないのかも知れません。
「ヤブラン殿下も、お久しぶりでございます」
ケイトウより一つ下の第二王子は、カサブランカ様の容姿をそのまま受け継いだ美しくも気高い方。
ただ、王妃様と第一王子のオダマキ殿下が何かとヤブラン殿下を気にされる為、出来るだけ目立たぬようにされている。
本来は、とても快活で明るいお子様なのに、一度外に出れば、影を探して歩くような慎み深さを全面に押し出していた。
「はい、健やかに過ごしております。あの…赤ちゃんを見せていただいても宜しいですか?」
「ええ、もちろん」
私は、ヤブラン殿下が見やすいように、眠っているセリを抱き直した。
「とても…地味なお顔で…羨ましいです」
心からの本音なのでしょう。
蕩けるような優しい眼差しで、セリの事を見てくださいます。
旦那様似のセリを、親族の者は良く言いません。
ただ、派手で目立つことだけが素晴らしい事ではないのだと、ヤブラン殿下は、既にお気づきなのでしょう。
「セリ嬢が、幸せで、笑いの絶えない人生を送れますように」
ヤブラン殿下は、セリの前で膝を突き、祈りを捧げて下さった。
すると、パチリと目を開けたセリが、ジッとヤブラン殿下を見つめます。
突然赤子に凝視され、きっと困惑されたことでしょう。
しかし、セリは、何故か此方の言葉が分かっているような素振りを見せることがあるのです。
ほら、セリの手が、胸の前で組まれたヤブラン殿下の手に伸びていく。
「あ、あ」
セリが短く声を発すると、殿下の瞳から一筋の涙が溢れました。
「あ、あれ、おかしいな。なんで涙が…」
年相応の言葉遣いで驚きを口にし、ご自身の目をゴシゴシと擦る姿は、先程までの大人びた表情とは全く違うものです。
「殿下…セリは、きっと、『貴方様も、幸せで、笑いの絶えない人生を送れますように』と祈ったのですよ」
私の言葉に、側妃様も、深く頷きました。
子を持つ親の願いとは、ただ、健やかにスクスクと育って欲しい。
ただ、それだけなのですから。