オダマキ17歳。
11歳の時、俺は、六歳下の公爵家の女と婚約する予定だった。
名前は、セリ・ディオン。
一つ下にいるケイトウ・ディオンの妹だと聞き、さぞ美しいだろうと期待していた。
だが、手元に届いた姿絵は、画家がかなり盛った上で、この程度なのかと愕然とするほどの地味さだった。
こんなのを俺の妃にしなければいけないのか?
腹立たしさに、姿絵を破って暖炉の火にくべた。
いくら公爵令嬢と言え、コレでは他国に連れて行った時に侮られるではないか!
ムカつきは治らず、部屋にあった花瓶を掴み上げて壁に打ちつけた。
母上主催の顔合わせパーティーも、ムカムカとした腹立たしさしかなかった。
会ったら『お前の地味顔など反吐が出る』と、怒鳴りつけてやろうと思っていた。
しかし、奴は、最後まで来なかった。
しかも、迷子だと?
俺を馬鹿にしているのか?
だが、あの地味顔から逃れられるなら、目をつぶってやってもいい。
他の候補は、俺の横に立つには少々劣るが、セリ・ディオンより何万倍もマシだ。
もう、コレで良いじゃないかと母上に、まだ1番見た目のマシな女を指さすと、伯爵令嬢だから駄目だとヒステリックに叫ぶ。
なら、何故呼んだ。
母上は、自分が公爵令嬢だったことを誇りに思っている。
それも、異常なほど。
公爵クラスじゃなきゃ、人じゃないと思っているふしもある。
しかも、側妃の産んだヤブランを敵視していた。
伯爵家の女なんか選んだら、アイツ(ヤブラン)と同格に扱われると髪を振り乱して喚く。
父上が何かと理由をつけて近寄らないのは、その性格のせいだろう。
鬱憤を、此方に向けるのは止めてくれ。
事ある毎に、俺の学年順位が下がったと不満げだが、あれは教師の教え方が下手だからだ。
剣術の授業では、常に学年一位なのだから。
全ての要望が聞き入れられるはずの王太子なのに、思うようにならないことが続出してイライラが溜まる。
ケチの付き始めが『セリ・ディオン』だ。
ソイツが入学してきたと聞き、また、ムカムカと腹立たしくなった。
一年の教室へ行って殴ってやろうと思ったら、またもや見当たらない。
その上、『王太子は、幽霊に驚いて一目散に逃げた』と噂を立てられた。
ふざけるな!
広めた奴を、処分してやる!
そう思ったのに、いくら調べても大元まで辿り着くことができなかった。
王家の影を使ってもだ。
俺は、背中に嫌な汗をかいた。
誰も居ないのに後ろから突き飛ばされたのは、間違いない。
「セリ・ディオンを探しにいくぞ!」
俺の言葉に、取り巻き連中が引きつった表情を見せた。
怒りが再燃しては、あの女を探し出そうと躍起になったが、見つかるどころか、顔すら一度も拝めていない。
そして、その度怪奇現象が起こって、仲間の何人かは骨折をしたこともある。
今や、実在しないのではと、真顔で言う奴まで現れてきた。
セリ・ディオン自体が、幽霊じゃないかと。
お前ら、壁に張り出されている学年順位も見ていないのか?
3年生の一位に、クソ女の名前があるだろう!
あぁ、腹立たしい!
セリ・ディオン。
いつかこの世から抹殺してやる!