スズナ8歳
セリさまが、我が家に来た!
ナズナと並んでお出迎えする。
目を皿のようにしていないと、すぐ見失っちゃうから大変!
「「今日は、おいで頂き感謝しております」」
ナズナと何度も練習した言葉を発し顔を上げる。
すると、綺麗なメイドさんはいるけど、セリ様が消えていた。
ど、何処?
「ここです、ここです」
キョロキョロ目を動かす私達に気づいたセリ様が、目の前で大きく手を振ってくださった。
あぁ!こんなに近くにいるのに見過ごしていたなんて!
「「申し訳…」」
「頭を下げると、また見失うわよ」
頭上からセリ様の笑い声が聞こえてきた。
私達は、真っ赤になって頭を上げる。
「さぁ、こうすれば大丈夫よ」
右手で私、左手でナズナの手を持つと、三人並んで歩き出した。
「さーて、妹のスズシロさんは、何処かしら?」
「「あ!こちらです!」」
二階へと上る階段へと導き、三人でスズシロの部屋へと入った。
妹は、いつもと変わらぬ青白い顔で。
今にも消えてなくなりそうで、凄く怖い。
思わず手に力が入って、セリ様の手を握り込んでしまった。
慌てて手を緩めると、逆に、セリ様が手を握り返してくれる。
『大丈夫よ』
私とナズナだけに聞こえる小さな声で囁かれた。
そして、スズシロの前まで行くと、微笑まれた。
「初めましてスズシロさん。私は、セリ・ディオンと申します」
三つのスズシロにも、セリ様は、ちゃんと挨拶をしてくださった。
スズシロは、ボンヤリとした表情で声のする方を見上げている。
「少し、触りますね」
セリ様は、スズシロの手を取ると爪の色を確認した。
「かなり白いですわね。では、スズシロさん、目を見せて貰いますね。そのままの状態で上を見てみて」
セリ様は、スズシロの目の下側を少し引き下げて中側の色を確認した。
「んー、やはり、かなり白いわ。スズシロさんは、血が足りないようね」
「「血ですか?」」
そんな事、今までお医者様に言われた事ない。
「血になる食べ物。例えば赤身のお肉とかレバーとか、あまり食べないんじゃなくて?」
「「は、はい!その通りです!」」
スズシロは、お野菜が好きで、特にお肉はあまり好きじゃない。
臭いが苦手だって、何度も言ってた。
「クローバー、あれを」
側にいた綺麗なメイドさんが、大きな包みを出してきた。
「我が家で作ったテリーヌです。少し食べてみませんか?」
ピンク色の四角い棒状の物をスライスすると、人参やグリーンピースが模様のように配置されていて凄く綺麗だった。
驚いて目を丸くしたスズシロが、珍しく自分からフォークを持つ。
一口食べると、
「おいちぃ」
と呟いた。
後でセリ様に尋ねると、あの料理の中には牛乳で臭みを取った鳥レバーが入っているらしい。
「調理法次第では、匂いや食感は、どうにでもなるわ。はい、レシピ。ディオン家の料理長が協力してくれたの」
私とナズナは、分厚いレシピノートを受け取ると、涙が止まらなくなった。
たった一回、それも不躾に頼み事をした私達に、セリ様は、最後まで優しい。
「お姉ちゃん達は、本当によく頑張ったわ」
まるでお婆様のような優しい声。
二人まとめて抱きしめられると、更に涙が止まらなくなった。