ホップ7歳
僕の兄の婚約者(仮)は、滅茶苦茶印象が薄い。
多分、他所で会ったら分からない。
僕が悪いんじゃないよ。
だって、いつも側に居るメイドさんも、時々見失ってるもん。
でも、良い奴だっていうのは分かってる。
だって、ルドベキア兄さんが、彼女の話をする時、凄くいい笑顔を見せるから。
普段、母上同様、表情が乏しい兄さんにとっては、奇跡に近いことだ。
ほんの数年前まで、兄さんは常に青白い顔をしていた。
髑髏って揶揄されてたらしいけど、あながち間違いとも言えないから辛い。
食事もあまり摂らず、運動も苦手で、カクカク骸骨っぽい動きに見えた。
それが、あるパーティーに出て以降、メキメキと体力を取り戻し、今では毎朝素振りをしている。
切っ掛けは、セリがくれた胃腸薬らしい。
それを飲むと、ゲップが減り、胸のあたりがスッキリするんだとか。
そして、更に贈られた紅花茶は、ルドベキア兄さんの血行を良くしたらしい。
難しい事は、良く分からない。
ただ、そのお陰で、食欲が湧いてきて、モリモリ食べるようになったルドベキア兄さんは、グングン背が伸びた。
僕は、それが羨ましくて、真似をして沢山食べて沢山運動をした。
すると、僕の体もドンドン大きくなって、弟のニレも真似するようになった。
急に逞しくなった僕たちを見た友達が、しつこく理由を聞いてくる。
その場所が、あの王妃様主催のパーティー会場だったから、あまりセリの話はしたくなかった。
仕方ないから、『沢山食べて、沢山寝て、沢山勉強して、沢山運動した』って教えてやった。
『そんなの真似できないよ』って言うけど、どうしてだろう?
ルドベキア兄さんが出来て、僕が出来て、一つ下のニレすら出来るのに変なの。
余程納得がいかなかったのか、ある双子がしつこく僕を追い回して理由を聞いてきた。
女の子だったし、セリと同じ歳になるし、悪い奴らじゃなさそうだし。
だから、コッソリとセリの事を教えてやった。
すると拝むように何度も頭を下げるから、ちょっと居心地が悪かった。
「「伯爵家の人間が、公爵家の御子息に失礼を働き申し訳ありません」」
とか言って、泣きそうになるのも勘弁して欲しかった。
まるで、僕が泣かしてるみたいだろ?
逃げるようにその場を立ち去ったけど、その後友達に、『美人姉妹と友達か?紹介しろよ』と煩く騒がれたから早々に帰った。
そんなに気になるなら、自分で声を掛けりゃいい。
人を頼るくせに自分は動かないなんて、赤ちゃんじゃないか。
アブアブ〜って泣き声が可愛い分、赤ちゃんの方が十倍マシだ。
最近、セリを知ったせいで周りの子が幼く見えて仕方ない。
いや、僕も七歳で幼いんだけど。
アイツは、何故か、お婆様のような不思議な余裕を醸し出す。
弟のニレは、完全にセリの犬状態だ。
楽しげにアイツの周りを駆け回っては、頭を撫でてもらってる。
一歳しか違わない上に、ニレの方が背が高いのにだよ?
やっぱり、セリは、変な奴だ。
でも、ルドベキア兄さんの婚約者になることは大歓迎!
お菓子をもっと作ってきてくれたら、言うことなしだと思っている。