セリ7歳〜失神するほど幸せ〜
「セリ嬢、お手をどうぞ」
エーデルワイス家に招待された私は、大きなお屋敷の前で、ルドベキア様にお出迎えを受けた。
馬車から降りようとする私に、手を差し伸べてくださる姿が神々しい。
益々背が伸びた彼は、まだまだ痩せ気味だけど、精悍さを帯びてきた。
誰?彼をこんなに変えたのは?
そう、それは、私です。
ふふふふふ。
『髑髏』などと侮っている皆さん、もう少ししたら後悔することになるわよ!
「ありがとうございます、ルドベキア様!」
私が手を取ろうとすると、それよりも早く動いたルドベキア様が、両手で私の腰を掴んだ。
フワッとダンスでターンをする時みたいに体が浮いて、地面に着地させてくれる。
「こっちの方が、早いから」
頬を染めながら顔を背けられても、可愛いだけですわ。
などと冷静なフリをする私も、林檎並みに顔真っ赤ですけども。
「セリちゃん、いらっしゃい」
一部始終を横で見ていたルドベキア様のお母様、ヒルタ様が、安定の真顔で立ってらっしゃいます。
最初見た時は、嫌われてるのかと思って心配したけど、この方の表情筋は少々曲者。
本人の意思に関係なく、ずっとストライキをしているらしく、生まれた時からこんな感じだと聞いた。
とてもお美しい方なのに、残念だなとも思うけど、最近は、微妙な表情の差を読み取れるようになってきて密かな楽しみでもある。
「お邪魔いたします、ヒルタお義母様」
まだまだ王家からの横槍が激しく、本当の婚約は結べていない。
だけど、ヒルタ様は、『お義母様』と呼ぶ事を熱望された。
きっと、子供が息子ばかりだからね。
「セリ〜」
ドアを開けて走り出てきたのは、ルドベキア様の弟さん達。
私と同じ歳のホップ君と一つ下のニレ君。
天真爛漫を絵に描いたような二人は、兄ルドベキア様を心から尊敬する可愛い子。
私を呼び捨てにする度に、ルドベキア様が普段見せない焦った顔をするものだから、面白がって止めようとしない。
「こら、ホップ、ニレ、お行儀が悪いですよ」
ヒルタ様に怒られて、やっと静かになりました。
「さぁ、先ずは、お茶でも飲みながら、ゆっくりお話ししましょう」
ヒルタ様のワクワクが、微かに上がった口角から読み取ることが出来る。
本当は、私とルドベキア様の親交を深める為のお茶会の予定なんだけど、毎回皆さん全員集合しちゃうのよね。
「母上、今日のオヤツはなに?」
ニレ君がヒルタ様の手を引っ張って応接室へと歩き出した。
私とルドベキア様は、苦笑しながら視線を交わした。
『ごめんね』
ルドベキア様が、声を出さずに唇だけ動かす。
きゃー、幸せすぎて、失神しちゃいそう〜。
「あ、そうだわ、ヒルタお義母様、お土産にお菓子を焼いてきたんです。クローバー、お渡しして」
クローバーには、焼き菓子三種が入った大きな籠を持ってもらっている。
香草を混ぜたクッキーとマフィン、そして今回は特別に、フィリングに紅茶とスパイスを混ぜたタルトも用意した。
「お口に合えば…」
言うより早く、ホップくんが、クローバーから籠を奪い取り応接室へと駆けていった。
いや、せめて、説明くらいさせてよ〜。