セリ6歳〜怖い、キモい、ヤバい〜
私は、六歳になった。
ルドベキア様との交流は、手紙を通して続いている。
節度を持ったおつき合いに、両親も、家のメイド達も微笑ましく見守ってくれていた。
そんな中、ルドベキア様と同じ歳の兄だけが、事ある毎に、
「アイツだけは、やめなさい」
とお説教してくる。
理由は、ルドベキア様が、学園内で浮いているからでも、骸骨と渾名されているからでもない。
「お兄様、この前、ルドベキア様に剣術の授業で負けた事を、まだ逆恨みしているんですの?」
ここ最近、ルドベキア様は、メキメキと剣術の腕を上げている。
体力もついて来て、血色もいい。
体質改善の切っ掛けは、私が贈った紅花茶。
紅花の花弁を乾燥させた物で、血流を良くしてくれる。
そこに、体を温めるシナモンや生姜、虚弱体質改善のクコの実等を入れた。
多分、ルドベキア様は、我慢強い。
だから、冷え性で、胃腸が弱くても我慢してしまっていた。
そこさえ改善すれば、食欲も進み、自然と体力もついてくる。
「そんな小さな事で反対しているわけじゃない!」
「じゃあ、なんですの?」
「アイツは、アイツは・・・ちょっと、怖い」
「はぁ?」
なに、その曖昧な理由は!
私がプンと顔を横に向けると、お兄様は、慌てて弁解を始める。
「ち、違うんだ。怖いじゃなくて、キモいだ」
「もっと悪いです!お兄様、頭いいのにもっといいようがあると思います!」
「あぁ、ごめん、キモいじゃなくて、ヤバいだ」
「ケイトウお兄様!」
私は、怒り心頭だったけど、あんまりお兄様が必死に縋るから、一応話を聞くことにした。
お兄様がおっしゃりたいことをまとめると、ルドベキア様の私に対する態度と他の人への態度が違いすぎるということみたい。
「アイツは、二重人格かもしれない」
真剣に怯えないでください。
ただ単に、私に心を開いてくださっているということではないのかしら?
だったら、凄く嬉しいんだけど。
「もぉ、そんな心配いりません。ルドベキア様は、ただ人見知りで、人付き合いが苦手な方なんです」
いくら諭しても、執拗に恐怖を訴えるお兄様に、仕方がないからルドベキア様から借りた『骸骨騎士漫遊記』を見せてあげた。
「幼い弟さん達にせがまれて、こんな素敵なお話を書かれる方なんです。失礼な事言わないでください」
最初こそ、訝しげな顔で本を受け取ったお兄様だけど、ものの数分で物語の虜になった。
「セリ!なんで今まで見せてくれなかったんだ!」
「だって、お兄様、本の扱いが雑なんですもの」
完全記憶を持っているせいか、本を読むのは一度で済んでしまうお兄様。
読書後は、用無しとばかりに、ポイッと捨ててしまう。
「これは、大切な本なんです。破ったり、壊したり、捨てたりされたら困るんです」
私の言いたい事が伝わったのか、叱られた犬のようにお兄様は、ションボリとしてしまったら。
「分かりました。本を大切にすると誓ってくださるのなら、ルドベキア様にお願いして、他の本も貸していただけるようにします」
「本当か?セリ!ありがとう!」
ケイトウお兄様は、ルドベキア様の本を胸に抱きしめて、ニッコリと微笑まれた。
もう、本当に現金ね。
でも、愛らしいお兄様のためなら、私も一肌脱がなくてはね。