セリ5歳 〜髑髏騎士〜
寝込み始めて一ヶ月。
完全に、私が王太子妃候補から外れた頃、一人の少年が我が家を訪れた。
それは、ルドベキア様。
幼いながら、ちゃんと訪問のお伺いを手紙でしてから、手順を踏んで来られた事に、我が家の印象もかなり良い。
見た目が少々…だけど、学業での成果も目覚ましく、話してみれば人柄の良さも伝わってくる。
そして、一番なのは、迷子になった私を最後までエスコートして下さった事。
私がミスリードを誘って、お兄様に会わないようにさせただけで、あのパーティー会場でも、必死に親元に返そうと頑張ってくださった。
私が感謝の気持ちを沢山皆に吹き込んでおいたお陰で、使用人達までもが、ウェルカムな空気を醸し出している。
「セリ嬢、体調は、いかがですか?」
「はい。まるで嘘のように治りました」
ニコッと微笑むと、ルドベキア様の頬も緩む。
「良かった。今日は、君に、これを持ってきたんだ」
花束と一緒に渡されたのは、一冊の本。
「ベッドの上ばかりだと、退屈すると思って」
開けてみると、そこには手書きの文字が。
「これ・・・もしかして、ルドベキア様がお書きになられたのですか?」
「うん。街で売っている本だと、持っている可能性もあると思って。僕は、小さい弟達にせがまれて、自分でお話を書くようになったんだ」
眠る前に語り聞かせていた創作童話を気に入った弟達は、いつでも読めるように本にしろと訴えたらしい。
「これは、その初版本。面白かったら良いんだけど」
ルドベキア様の本は、剣と魔法と夢の詰まった冒険活劇だった。
主人公は、『髑髏騎士』と呼ばれる色白でガリガリの男。
しかし、一度剣を持てば、バッタバッタと敵を倒し、困った人を見かければ、治癒魔法で病を治してあげる。
竜を友とし、大空を駆け巡り、世界の平和をたった一人で守る英雄。
あぁ、なんて素敵なお話!
「ありがとうございます。凄く嬉しいです!」
「良かった。嫌がられるかと思った」
「何故ですか?」
「だって、気持ち悪いだろ?男がお話を書くなんて」
ルドベキア様は、恥ずかしそうに俯いてしまった。
確かに、今の風潮は、腕っ節の強い奴が、我が物顔で威張り散らしている感じがする。
オダマキ殿下も、学年では負けなしだと威張っていた。
でも、前世で私は、嫌と言うほど経験してきた。
腕力では、女は、靡かない。
本当の強さは、腕っ節では測れない。
「ふふふふ、私の父は、私の為にパンケーキを焼いてくださいますのよ」
「え?」
ルドベキア様の驚いた顔も、レアで素敵。
「寝込んでいる間に、何が食べたいか聞かれましたの。だから、パンケーキだって答えたら、お父様自ら焼かれて」
「ディオン家では、男性でも厨房に入れるのか?」
「いえ。初めて焼いて、真っ黒な炭の出来上がりですわ」
「ぷっ、ははははははは」
ルドベキア様が、初めて大声で笑われました。
同席していたクローバーも驚いている。
見るからに物静かに見える少年が、突然笑い出したらビックリだよね。
でも、その後から、ルドベキア様の雰囲気は、初めて会った時よりも、ずっと、ずーーーっと親しげなものに変わった。
やったね、嬉しい!
「じゃぁ、読み終わったら何時でも連絡を入れて。また、持ってくるから」
「ありがとうございます!」
ポンポンと優しく頭を撫でてくださり、私の幸せは最高潮。
その夜、私は、ルドベキア様が作った世界を夢に見た。
私は、骸骨騎士となったルドベキア様と共に旅をする竜になっていた。