セリ5歳〜愛しの髑髏(しゃれこうべ)令息〜
私は、運命の五歳になった。
この年、私は、王太子の婚約者になる。
理由は、一つ。
王太子と丁度良い年齢で、最も位の高い公爵家の娘だったから。
我が家は、既にケイトウお兄様という立派な後継がいる。
私を嫁に出しても、なんの問題もなかった。
しかし、今の私は、ノーサンキュー。
地味な顔がお好みでなかった王太子には無視され続け、最後には、冤罪で国外追放。
娼婦に落とされた上に、王になったオダマキ殿下は、この国すらも破滅に導いた。
誰が好き好んで、お近づきになるというのだ。
私にだって、好みがある。
ずっと、ずっと、ずーっと憧れていた方と、今度こそ結ばれるのよ。
王太子主催のパーティーには、年頃の似た子供達が呼ばれた。
側近候補とお妃候補。
殆ど出来レースだけど、死に戻りの私が、大人の思惑を打ち壊してやるわ。
ケイトウお兄様のエスコートで会場入りすると、既に煌びやかに着飾った少年少女でホールは埋め尽くされていた。
お兄様も、お友達を見つけて、談笑し始める。
私は、キョロキョロと周りを見回して、お目当ての方を探した。
ルドベキア・エーデルワイス様。
エーデルワイス公爵家の長男でありながら、ヒョロ高い背と骸骨の様に頬が痩けた容姿で敬遠されている。
だけど、厳しい王太子妃教育で苦しんでいた時、皆が無視する中で、一人だけ気遣って下さった優しい方。
国外追放される時も、コッソリと隠れて食べ物やお金を渡して下さった。
地味な容姿と根暗な容姿。
中身は全然違うのに、見た目だけで判断されて、共に辛い思いをしてきた。
今度こそ、私は、彼も幸せにしてみせる。
そして、私の幸せに、彼は、絶対必要なの。
「あの、もし宜しければ、コレを」
私は、お水の入ったコップと自家製の胃腸薬をルドベキア様に差し出した。
「君は?」
突然声をかけてしまって、淑女らしくなかったわ。
だけど、冷や汗をかいている彼を放っておけない。
「申し遅れました。セリ・ディオンと申します。コレは、胃腸薬です。胃の辺りを抑えられて、とても苦しそうに見えましたから」
「あぁ、君は、ケイトウ・ディオンの妹さんなんだね」
噂の地味顔に納得したのか、ルドベキア様は、私が差し出したお薬を受け取って下さった。
「僕の名前は、ルドベキア・エーデルワイスです」
「存じ上げております」
「僕が、『髑髏』って渾名されているのも?」
「私が、『空気』と呼ばれていることもご存知でしょう?」
ふふふふふ
誰も私達のことなんて気にしていないのに、二人で声を潜めてコッソリ笑う。
それが、なんだか秘密を共有しているみたいでドキドキした。
ルドベキア様は、私の渡した薬を躊躇なく飲んで下さる。
繊細そうに見えて、意外と豪胆な方なのよね。
「ふぅ・・・楽になった気がする。ありがとう、セリ嬢」
「ルドベキア様、流石にそんなに早くは効きませんわ」
「いや、僕の場合は、緊張すると特に酷くなるから。君がそばにいてくれるだけで、落ち着いた気分になる」
な!なんなの!その殺し文句!
いやだ、ルドベキア、実は、ジゴロの才能があるんじゃないかしら?
目を白黒させる私に、ルドベキア様は、近くを通ったメイドが運んでいたオレンジジュースを一つ取って手渡してくれた。
「さぁ、飲んで」
「は、はい!」
私は、はしたなくも、がぶ飲みしてしまった。
その後、私達は、たわいのない話をした。
お互いの兄弟のことや、気になる本の話。
とても、楽しかった!
騒がしいパーティー会場の中で、私達二人の周りだけ、穏やかで優しい時間が流れていった。