セリ、3歳〜天才と書いてズルと読む〜
私が、三歳になった頃、執事のグロリオサが、ハスお父様に詰め寄った。
「セリお嬢様は、天才でございます」
もう!
あまりの鼻息の荒さに、お父様が仰け反っるじゃない!
「グロリオサ、お前、ケイトウにも同じ事を言っていなかったか?」
「いえ、旦那様、確かにケイトウお坊っちゃまは、史上稀に見る記憶力の持ち主。右に出る者がいない天才でございます」
拳を握って高く振り上げるグロリオサに、周りのメイド達まで引き始めた。
彼、職場で浮いてないか、心配になっちゃう。
お父様も呆れ顔だけど、普段冷静沈着なグロリオサが熱弁を振るうものだから、最後まで聞いてあげるみたい。
「大袈裟な。で、セリは、何の天才なんだ?」
「人心掌握の天才でございます」
聞いてる私が、恥ずかしい。
ケイトウお兄様の膝に座らされて、お父様の執務室でおやつを食べているだけでも、レディーとしてどうなんだ?って感じなのに。
「お嬢様の素晴らしいところは、その観察眼でございます。メイド達の手荒れに心を痛められ、ハンドクリームをお配りになられました。また、最近腰痛に苦しんでいた私には、湿布薬を。更に、便秘に悩んでいたメイド長には、便通の良くなるお茶を。我ら、使用人達のセリお嬢様への忠誠心は、日々高まるばかりでございます」
あ、グロリオサ、後でメイド長に、ボコられるわね。
女性の便通事情なんて、公の場所で話す物じゃないわ。
「セリが皆に優しいのは良いことだが、だからと言って、天才は言い過ぎだろう」
「お嬢様が、全てを手作りされていると聞かれても、同じ事をおっしゃられますか?」
「手作り?」
あーん、もお、話を大きくしないでよ。
ハンドクリームは、市販の馬油とハーブを混ぜただけ。
湿布は、アロエを擦り潰してガーゼに塗っただけ。
便秘解消のお茶は、桃の葉を乾燥させたものを刻んだだけ。
どれも、娼婦時代の知識を使った簡単な治療法ばかり。
天才とか、正直、荷が重いんですけど。
「グロリオサ、おおげしゃよ(大袈裟よ)」
ピョンとお兄様の膝の上から飛び降りると、直ぐに抱っこし直されて、また、膝の上に戻った。
「おにーたま、はなして」
「離れる必要がどこにある?」
「おちっこ!」
「じゃぁ、僕が、連れて行こう」
トイレに付いてこようとするお兄様から、クローバーが私を奪い取ってくれた。
クローバー、グッジョブ。
「お嬢様のお世話は、私の仕事です。取らないでください」
お兄様は、私の五歳上の八歳。
クローバーは、六歳上の九歳。
たとえ一才違いでも、子供の頃の女の子の成長を舐めちゃダメよ。
クローバー、お兄様の握り拳二個分は、大きいんだから。
「だっこ」
クローバーに両手を伸ばすと、慣れたもんで、ヒョイッと抱き上げてくれた。
近づく彼女の顔に、もう、うっとり。
クローバーって、一応平民のはずなんだけど、とっても品があるのよね。
チラッとお兄様を見ると、恨めしげな視線で此方を見上げていた。
こっちも、美形よねー。
まさか、そっちが、本当の姉弟?
美少年のお兄様と美少女のクローバーに挟まれて、地味顔な私は、小さく溜息をついた。