見かけは0歳、中身は38歳、元公爵令嬢の娼婦は、タフになって死に戻る
目を開けると、そこは、私の部屋だった。
もう、何十年も前に、幼い私が暮らした場所は、何故か、出来立てホヤホヤの美しさを保っていた。
「まぁ、セリ、目を覚ましたの?」
横になる私を見下ろしてくるのは、ダリアお母様。
豊かなブロンドの髪に包まれる小さなお顔は、記憶よりずっとずっと若い。
その横には、ケイトウお兄様の顔もあった。
産毛が部屋に差し込む太陽の光に輝いて、天使のような美しさ。
身長は、ベビーベッドにやっと届くくらいらしく、背伸びをして、格子の間から私を覗いている。
「ははうえ!セリは、なぜ、じみなのですか?」
お兄様の直球の質問に、お母様も困り顔だ。
華麗で、気品に溢れ、優雅なお母様。
お洒落で、気取り屋で、変わり者のお兄様。
二人は、社交界でも有名な美形親子だった。
それに比べて、私は、地味。
目も鼻も口も、平均よりもこじんまりとしていて、髪の色も何処にでもある濃いめのブラウン。
同じく地味なハスお父様の顔をそのまま引き継いだ私は、隣に立っていても気付かれないほど、その他大勢に紛れ込んでしまう。
昔、お兄様と鬼ごっこをして、夕方まで見つけてもらえなかった時には、絶望すら感じたわ。
「うえっ、うえっ、うえっ」
私は、己の容姿の貧相さに悲しくなって泣き出した。
体が上手く動かせなくて、バタバタ上下に振ってみると、小さな手が目に映った。
私は、どうやら赤ちゃんのようだ。
「ケイトウが酷い事を言うから、セリが泣いてしまったではないですか」
お母様が手を伸ばして、私を抱き上げて下さる。
肌から伝わる体温が、本物のように感じられて、胸がキュッと痛んだ。
クンクン匂いを嗅ぐと、甘い匂いがする。
私は、切なくなって、お母様の豊かな胸に顔を押し付けた。
「ぼくは、じみがわるいなんて、いってない。セリは、かわいいよ!だいすきだよ!」
慌ててお兄様もさっきの発言を否定して、私を覗き込もうと椅子の上に乗ってきた。
昔から、こんな地味顔な妹を、何よりも大切にしてくれた。
お友達が、私の事を『空気』と渾名した時だって、
『空気がなきゃ、死ぬんだぞ!』
と訳の分からない反論をして下さっていたわ。
私は、温かなお母様の腕に抱かれて、小さいお兄様の手が頬を撫でくれると、こんなに愛されていたんだと実感する。
死に際の夢にしては、とても、幸せな光景。
公爵令嬢に生まれたのに、人の悪意に翻弄され、最後は、娼婦として38年の人生の幕を閉じた私への、神様の最後のプレゼントかしら。
「あぅ」
両手を突き出して、お母様の頬に触れた。
温かくて、本当に生きているみたい。
断頭台に登らされた家族とは、最後のお別れすらできなかった。
これが、夢じゃなければ良いのに。
「まぁ、なんて可愛いのかしら」
お母様は、私の手に頬を擦り付けるように頭を動かした。
「あぁ!ははうえ、ずるい!」
お兄様も、私に撫でてもらおうと、頬を寄せてくる。
お父様と恋愛結婚したお母様は、地味顔好きだった。
そして、お兄様も、私を溺愛してくださっていた。
最後に、この二人に会えて、本当に良かった。
ホッとしたからなのか、
ブリブリブリブリ
私のお尻から、物凄い音が聞こえた。
「まぁ、セリ、オムツを換えなくては。クローバー、クローバー」
お母様が私専属のメイドを呼ぶ。
オムツ片手に部屋に入ってきたのは、国を追放される時に、最後まで付き添ってくれたクローバーだった。
幼いながらにメイド服に身を包み、私の産着を慣れた手つきで脱がしていく。
「はーい、セリおじょうさま、じっとしててくださいねぇー」
お兄様もいる前で、神業的早さで私はお尻を丸出しにされて、綺麗にフキフキされた。
や〜ん、お尻が、スースーするわ。
ん?
え?
現実?
「うんぎゃー(やめてー)」
言葉にならない泣き声に、私は、これが夢じゃないんだと思い知らされた。