10年前に腹違いの妹に陥れられ、婚約破棄され辺境送りになった元悪役令嬢の魔女は考える。対価を持たずに僕とよりをもどせ! とやってきたこの元婚約者をどうしたらいいのだろうかと…。
「アリシア、僕が悪かった!」
「……」
「どうして君みたいな素晴らしい女性と婚約破棄したのか、僕はあれに騙されていたんだ!」
「……」
「僕とまた婚約してくれ、君みたいな優秀な魔女ならみなも文句を言うはずがない!」
「バカがここに一人」
「え?」
私はローズマリー・ウェスト、元侯爵令嬢、このアデルカ魔法協会の魔法師をやっています。
目の前にいるのは元婚約者のクリストファ様ですけどね。ローズマリーは魔女としての名前ですわ。
「私、あなたみたいなバカが大嫌いですの。大馬鹿王太子殿下♪」
「ア、アリシア……あの」
「バカだと思ってましたけどぉ、魔女に対するお願いっていうのは対価が必要ですの♪ 私の対価は『心』が限定ですわ。この大馬鹿、あなたの心なんて汚くてとても対価にできませんわよ!」
私は実は10年前の15歳の時、このバカの婚約者になって浮かれてました。
見かけだけがいいのですわこのバカ。
しかしねえ。
『アリシア・コーデル。お前を妹のリアンカをいじめた罪により婚約破棄して、辺境追放とする!』
魔法学園のなんと入学式にこの宣言をされましてね。
私の腹違いの半年違いの妹リアンカは美貌を知られた令嬢でしたが、このバカもあの見かけに騙されたのかと思ったのも後の祭り。
私は馬車に乗せられ、辺境の魔の森に捨てられました。
アデルカ魔法協会支部長のウィル様に拾われたのですわよ。
ウィル様も昔婚約者に無実の罪で婚約破棄されたって言ってましたが、どれだけ流行ってますの婚約破棄!
私は魔法使いの素養があるから学園に入学できたのであり、それが認められ隣国ルーディアのアデルカ魔法協会支部の魔法師になりました。魔女ともいわれますが。
10年たってこの馬鹿がよりを戻してやるって言ってくるとは思いませんでしたがね。
「対価なんて僕たちに必要じゃないよ!」
「魔法使い、魔法師、魔女と呼ばれる存在は「対価」がないと願いを叶えることができませんのよ。対価は特定のものに限られる魔法師もいますの、私は心を対価としなければ願いを叶えられませんわ」
私は闇の力、つまり破滅を願う精霊を使役する魔女、闇の力の願いを頼りにする人なんて大体が呪いとかがメインでしたわ。
しかし呪いよりも占いなどの力も闇がメインでしたので、私は占いを今はメインにして仕事を受けていましたの。
「僕の愛が対価だ!」
「美しい光でないと対価にはなりません」
私はふっと遠い瞳をして笑います。金髪碧眼の甘いマスクの美青年、ええ。顔だけはいいのですわ、こいつ。
最近、リアンカが違う金持ちの男に乗り換えて、この馬鹿王太子から逃げ出し、王太子妃に逃げられた馬鹿は焦ってもっとよりステータスのある女を婚約者にと探し回っているのは聞いてましたわ。
でも自分が婚約解消して、自分が辺境送りにした女のとこまでくるとは……やっぱり馬鹿ですわ。
「あ、ローズマリーの大馬鹿元婚約者本当に来たんだね。すごーい、賭けにうちが勝ったんや!」
「災華、あんたねえ!」
同僚の魔女がやってきて、ぱちぱちと楽しそうに手をたたいてますわ。腹が立ちますわ。
応接室にやってきた黒髪の魔女を見て目をぱちくりするクリス様。
「……美しい心って……」
「初恋の心、ちょっとした優しさ、なんでもいいのですわ、思いやりでも優しい記憶の一つでも、それを対価にして願いを私は叶えますの」
光を闇は求める。でも闇を闇は求めない。
「あなたのばばっちい心は対価にはなりませんわ、帰れ、バカ!」
「ああ、君は怒っているんだね、僕が君という素晴らしい婚約者を袖にして、あのあばずれに騙され……」
権力者特権というものがありましてねえ、魔女へ願いを求める面会を王族はとりやすいのですわ。
隣国の王太子ならねえ。
私、隣国の王弟が面会相手って聞いてまして、騙しましたわね。災華!
「賭けはうちの価値やな」
「支部長に言いつけますわ……」
「それはやめてえな、ローズマリー」
「僕の話を聞いてくれええ!」
俺の歌をきけええといった音痴を直したいって男もいましたわよね。私はそんなことを思い出しながら、私はよりは戻しませんし、違う女を探せといって扉を指さしましたわ。
「ああなら、災華といったな、君でもいい! 僕の婚約者となってくれ」
「うち、呪いが専門やねん、だれを呪い殺したらええんや?」
「……え?」
「あんたの元嫁はんを呪い殺したらええのん? うち流石に、同僚の妹を呪い殺すのは気が引けるんやけど」
「呪い殺す対価は、あなたの命ですけど、死んでもいいのですか? クリス様」
「いや、いやだああ、死にたくない!」
あ、クリス様腰を抜けたようですわ。しれっと言う同僚ですけど、まあ、殺したことはないですわよさすがに、うん、痛めつけたことはこの子ありますけど。
「帰る、帰る。帰るう!」
「……お帰りはあちら」
私は扉を指さすと、ああ、床を四つん這いになって……クリス様あの何か臭いのですが…。
顔をぐしゃぐしゃにして泣いてますわ。よいお年をして情けないですわ。
「もしかしてあんたの元婚約者」
「掃除はさせますわ」
私は対価を払わずに仕事をさせようとしたペナルティものせておきますわねと手を振ります。
対価を払わずに仕事をさせようとする王族も多いのですわよ、だからそういう輩にはペナルティがつくのですわ。
「あんたの元婚約者、気が小さいなあ」
「……まあねえ」
「ペナルティはどうなるんや?」
「多分、罰金でしょうね、国家予算の確か一年分と、あとは……」
「ああ、元婚約者はん、確か王太子やんな? 廃嫡もセットちゃうん?」
「ええ、魔法協会に対するこれは挑戦とされますからねえ、対価もなしに願いをかなえろなんて、あのバカ、私を取り込んで、占いの力を王家にとりこもうとしていたのですわ」
「さもありなんやな」
私たち魔法師は国家に帰属はしない。宮廷魔法師となると別だが。
だが一つ例外がある。それは。
「配偶者特権やな……うちらは魔女、魔女の夫となる人物にある程度の助力は認められる。魔法協会に益がある場合において」
魔法師は魔法協会に庇護される。なら魔法協会はそのために力を尽くす。
私たちは魔法協会に囚われた鳥なのだ。
「鳥かごの鳥ですわね」
「……魔法使いなんてそんなもんやん、魔力が強ければ強いほど利用価値あるしな」
「私は支部長とは違い、占いしか取り柄がないと思われてますけど」
「占いは国家においてはかなりの益になるやん」
「そうね」
配偶者特権を求める男は多い、だから私たちはできるだけ恋愛から遠ざかる。
私はだから魔女であることを選んだともいえる。
「おんなじ魔法師が相手やったら苦労もないやん」
「あなたね、愛とか恋とかそんなうまくいくものではありませんわよ」
私は愛しい男のことを考えてため息をつく、配偶者特権、それを考えればこの想いは封印すべきだ。
最近、また配偶者特権を求めたろくでもない男に同僚が篭絡されたと聞いた。
魔力を求めるバカがこの世界には多いのだ。同じ魔法師同士で結ばれた例も聞きますが。
違う魔法協会でしたが、でも稀ですわ。
「あんた、まだあの男のことを」
「愛している。心が狂いそうだわ。でも狂えませんの」
「あいつな……まだ独身やそうやで?」
「王族とは婚約も結婚もいたしませんわ」
愛した男とはもう別れた。優しすぎる君は多分王族には不向きだといった薄情な男。
ええ。私よりも王家をとったあの残酷な……愛しい男。
「私、もう王太子とかそういう輩はこりごりですわ」
私は三年前に別れた男を思い出しため息をつく、配偶者特権を求めなかった王族、愛した男はあのバカ王太子とは全く違いましたけど。
「なあ、あいつとあんたな……」
「もう別れましたの」
愛している。愛している。愛している……もう一人の私が愛を叫ぶ。
でも私は魔女、対価を求めて願いを叶える魔女。鳥かごの鳥。
だからこそ王族といった輩と縁は結べない。
私はあのバカのせいで思い出したとため息をつきましたわ。王族なんて……大嫌いですわ。私、あの方の多分婚約者とやらが決まったらその相手を……。心が狂いそうですわ。愛している。愛していますわ。私のあなた。
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