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恋する男子に贈り物を教えて(2)


 俺の名前は青木隼人。星座はおとめ座。血液型はB型。某県某市の公立高校に通うごくごく普通の男子生徒だ。

 じつはここだけの話――小中高と同じ学校に通っている幼馴染の女子生徒・野々坂百花に対して、いまだに恋心を抱いている。


 入学式が終わって一学期が始まり、新しい学校生活にも少しずつ慣れてきたころ。


 好きな女の子と同じ高校へ通うべく、受験勉強のすえに晴れて第一志望に合格した俺は、

 ある日の放課後、彼女の下駄箱に手紙を忍ばせて待ち合わせ場所へ呼び出し、思いきって告白することにした。


「ごめんなさい!」

 ところが、破って捨てたラブレターを踏みにじられ、あっけなくフラレてしまう。


 それからというもの、お互いに意識しすぎて気まずい関係になるかと思いきや、むしろ彼女のほうから積極的に話しかけてきて、まるで俺に対して好意を抱いている様子。

 このまえ、下校途中に通学路でばったり出くわした時など、たったひとり自転車を押しながら落ち込んでいる俺に対して、


「私、あんたの片想いを全力で応援してるから!」

 と、去りゆくバスの窓から身を乗り出して、手を振りながら大きな声で励ましてくれたくらいだ。


 俺は彼女のことが好きだ。

 そして彼女は、俺の片想いを応援している。


 ……これってもしかして、今回は残念だったけれどもご健闘をお祈りしていますってパターンかな?

 何それ? 次回の恋人募集はいつごろですか?


 駄目なら駄目だとはっきりと言ってくれればいいのに、わざわざ遠回しな表現でやんわりと断られている気がする。

 ある日の晩、風呂上がりに夜風を浴びて涼みながら、その件について電話で友人に相談してみると、


「やりたいことを見つけることだね」

 越智和馬は、たった一言で片づける。


「やりたいことって?」

「君にも趣味のひとつやふたつくらいあるだろう? 勉強でも部活でも何でもいい。とにかく恋愛以外のことに熱中するんだ。そうすれば、好きな人にフラれたことも綺麗さっぱり忘れられるさ」


「うーん、そんなもんかな」

「ところで君、あの子の話はどうなったんだい? ほら、彼女に告白する場面を目撃されたから、もう恥ずかしくて学校に行けないとか言ってなかったっけ?」


「彼女とか、あの子とか、何だかややこしいな」

「それは君が僕に、好きな人の名前を教えてくれないからだろう? まあ、あの二人のうちのどちらかだとしたら、だいたい見当はついてるけどね」


 俺は、それじゃあまた明日、と別れを告げて電話を切った。

 ベランダの窓を閉めて部屋に戻り、つけっぱなしのテレビを観ながら何食わぬ顔で晩飯をかき込む。早く食べてくれないと食器が片づかないでしょ、と台所に立つ母親から小言を聞かされながら。


 その日の夜遅く。枕元の目覚まし時計が、12時を回って日付が変わるころ。

 充電の少ないケータイにケーブルを挿して、布団にもぐったまま漫画を読んでいると、思わぬ相手から電話がかかってきた。


「もしもし、青木? まだ起きてる?」

 それは、野々坂百花の声だった。


 俺は、すぐさま布団から這い出して物陰に身を隠した。

 壁際の箪笥に背中を預けつつ、部屋の明かりが漏れないように、カーテンの隙間からこっそりと窓の外を覗く。


「お前、電話番号が変わったのか? 何度かけてもつながらなかったぞ」

「あれ、言ってなかったっけ? 高校生になったら新しいスマホに買い換えるって」


「どうして教えてくれなかったんだよ」

「あんたこそ、なんで聞いてくれなかったのよ」


 何を隠そう、俺と彼女はかれこれ十年来の幼馴染である。

 お互いの家は、幼いころによく遊んだ裏路地を挟んで、塀越しの斜向かいに位置している。

 入り組んだ住宅地の奥にある、通り抜けできない道路のどん詰まり。玄関前の路上に軽トラックを駐めているのが彼女の自宅だ。


「それで、何の用だ?」

「もうすぐ誕生日でしょ? ちゃんと覚えてる?」


「誰のだよ」

「千嵐さんのだよ」


「それは初耳だぞ」

「もう何をプレゼントするか決めた?」


「……俺が? 千嵐に? 誕生日プレゼントを?」


 俺は、我知らず裏返りそうになった自分自身の声に驚き、こほんとひとつ咳払いをする。

 すでに声変わりは終わっているものの、喉はあまり太くない。


 手のひらで覆ったケータイを右から左へと持ち替え、さらに耳を近づける。

 うちの母親はすでに仕事へ出かけていて、朝になるまで帰ってこない。


「サプライズしようぜ!」

「えっ?」


「ある日突然、誕生日にプレゼントを渡して、千嵐さんをビックリさせちゃおうよ!」

「……こいつ、また突拍子もないことを言い出しやがって」


 しかも、いつものことながら無駄に声が大きい。

 真夜中にもかかわらず、まるで酔っ払いが飲み仲間を誘うようなテンションである。


「それで、あんたはどうするの? それとも、どうもしないの?」

「一応、考えておくよ」


「それじゃあ、千嵐さんにどんなプレゼントを渡すか決まったら教えてね」

「なんでそんなことまで、いちいちお前に報告しなくちゃいけないんだよ」


「あんたと私でプレゼントの中身がかぶったら最悪でしょ? せっかく二人で協力するんだから、それぞれ違うプレゼントを用意するべきじゃない?」

「なるほど、それもそうだな。ところでお前は、千嵐にどんなプレゼントを……」


 ――うわっ、やばい。お父さんが階段を上がってきた。

 それじゃあまた明日ね、一方的に別れを告げられて、電話は途切れた。


 三月の卒業式から、四月の入学式へと、親子ぐるみの行事が続いた今年のカレンダーは、もうじき五月。大型連休を過ぎれば間もなく母の日だ。

 このあと、積み立ての貯金箱を叩き割ってなけなしの小銭を数えた俺は、アルバイト先の店長にかけ合って給料の前借りをお願いすることになる。


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