8神室くんとスポーツ
「神室くんは運動嫌いなの?」
「……ええ、嫌いですね。汗かくし」
「確かに汗かくのは嫌だなぁ」
「そもそもあんな大勢で馬鹿みたいに走り回って競走して何が楽しいのかさっぱりわかりません」
「……うーん、まあ私も競走とかあんまり好きじゃないけど、大人になったら中々出来ないことだし今のうちに楽しみたいなって思うけど」
「……楽しいんですか?」
「みんなでワイワイするのが楽しいよ!」
「……理解できません。早く大人になりたいです」
「大人は嫌でもなるからなぁ……神室くんも今のうちにしか出来ないことやってみたいって思わない?」
「思わないけど、あなたはどんなことがやりたいんですか」
「えーっと……クラスで一致団結して優勝目指すとか、協力して同じ目標に向かうってたぶん今の私たちでやるのは後にも先にもこれだけじゃない? 来年になったら受験になっちゃうし、きっともっとばらばらになっていくだろうし。今は永遠には続かないもの」
「…………あなたは思っていたより大人なんですね」
「えっ、どうして?」
「僕にはそういう考えがなかったので」
「そうかなぁ」
「アニメは一度作られたら完成して変わることがありません。いつ見ても何度見ても変わることなどありえません。でも僕たちの今のこの生活や時間は、常に移ろい変わっていく。そんな当たり前のことにも気づかないなんて、よほど僕の方が馬鹿だったんだな」
「神室くん、それはちょっと違うと思う」
「え?」
「確かにアニメの方が変わることなんてない。でも見る側は、気持ちも考えもどんどん変わっていくから、今この時に見たものといつか歳をとって見たものでは違う感じかたをするかもしれないでしょう? 今見ることにだってきっと意味があると思うよ」
「……なるほど。あなたは口が上手いんですね」
「えっ、それってなんだか褒められてる気がしないんだけど」
「……どうかな」
他人を決して否定しないあなたは、誰よりも優しくて強いのだと思う。
いつだって視野狭窄気味になる僕の視界をあなたは鮮やかな色で染め変えていく。
怖いくらいだ。
視界だけではなく、僕自身すらそのうちに塗り替えられてしまいそうで。