3神室くんと花
「私もずいぶん高嶺の花に恋しちゃったな〜」
「………………は?」
「神室くんそんな低い声も出るんだねカッコイイ」
「いや、何言ってるんですか? 毎度毎度ホントに……」
「だってさー、神室くんお友達にもこんな態度なのに友達少なくないしカッコイイし頭いいし実は運動もできるし、趣味もちゃんとあって仲良くなりたいって言ってる子いっぱいいるんだよ? 私筆頭に」
「僕に友達とかいませんし、別に普通だし勉強は予習復習ちゃんとやってるだけですし、運動なんか嫌いですしこんなアニオタと仲良くなりたいなんていう奇特な人はあなたくらいですよ」
「それはみんな恥ずかしがって話しかけられないだけだから! 私だって前に牽制されたことあるんだから〜」
「……あなたが誰に?」
「ほら、あのクラスで一番可愛いあの子のグループわかる? あの子たちに前にだけど目を釣りあげて『妙なちょっかいなら止めて』って怒られてさ〜」
「………………」
「でも、私が『妙なちょっかいじゃなくて本気ならいいんですよね?』って言ったら認めてくれたのか納得してくれたのか、もう何も言われなくなったんだ! ふふん!」
「……嫌だとは、思わなかったんですか?」
「え? なにが?」
「……………………」
「ああ、囲まれたこと? うーん、彼女たちも神室くんと仲良くなりたいんだなぁって思ったら嫌だったけど、私は私にできることして振られちゃったらそれまでかなって思うから別に嫌だなとは思わなかったよ。……まあ、少しは怖かったけど」
「…………あなたってホントに馬鹿で見る目がない人ですね」
「ええ、そうかなぁ〜。あ、そうだ! こないだ教えてもらったアニメ見たよ〜!」
「……ああ、あなたが無理矢理聞き出していったあれですか……、どうでした?」
「すっごく面白かった〜〜!!」
――あなたは本当に馬鹿な人だ。
一番可愛いと言われているのはあなたが指した彼女たちではなく、自分だということも知らず。愛想が良くてどんな人にも好かれる性格をしていて。クラスの男子たちが行うピュアやら下世話な会話には百パーセント登場するあなたが。
自分の方がよっぽど高嶺の花だと言うのに自覚もなく、こんな男に好意を寄せるなんて。
僕が本当に聞きたかったのは、「こんなつまらない男を好いて、あまつさえ嫌な目にもあったのに、嫌だとは思わなかったのか」ということであって、あんな答えが聞きたかったわけじゃない。
別に誰も僕と仲良くなりたいなんて思っていない。一部にそういうやつがいるけれど、それもほんの局所的な一部の人間であなたのように万人に好かれてはいないのだ。
僕は、あなたに好かれるような人間ではないと、………………あなたはいつ目が覚めるのだろう。いつ、この幻想から目覚めるのだろう。
はやく、はやく。できるだけ、はやく。
あなたは目を覚まさなければならないと。あなたはいつ、気がつくのだろう。
――僕は祈るように願った。