act4 神さまの存在
あの日以来、僕の頭の中は彼女の事で満たされていた。
彼女の笑顔に天使に見える?
いや、"笑顔に天使"がいるんだ。
実際に天使を見たことがある訳じゃないけど、なぜかそう感じた。
それから毎朝、必ず同じバスに乗った。
寝坊して一本くらい遅れても必ず彼女はいた。
数日経った土曜日の朝、
久々の大寝坊だ。
「やっべー、遅刻だ…」
発車直前のバスに駆け込んだ。
バスが走り出すと胸がドキドキしてきた。
その鼓動は、走ったせいか、もしかしたら彼女が…
次の停留所にはいつもなら彼女がいるはずだ。
しかし今日はいつもより30分は遅い。
― 管理棟前 ―
乗務員のアナウンスが入る
「やっぱいないよなぁ…」
さすがにこれだけ遅れれば、いるわけはない…
バスが駅に着くと同時に僕はホームへ駆け上がり、
息を切らせながら電車が入線していないのを確認した。
電車はまだ来ていない。
急に走ったので膝が少し痛い。
僕はホームのベンチを探した
人影まばらなホームのベンチの一つに誰かが座っている。
そこを避けてもう一つの方へ行こう、
そう思って通り過ぎようとしたとき、
そこには彼女の姿があった。
「あれっ?米君?」
「あたし、いつものに乗り遅れちゃったから、
てっきり先に行っちゃったと思ってた」
「もしかして米君、あたしより寝坊?」
「それとも待っててくれた?」上目遣いでのぞき込むその視線に小悪魔が見えた。
「あ、あたりまえじゃない。」すかさず切り替えし
「待ってたんだよ」
「うふっ。ありがとう。」
「でも、待ってた米君をあたしはどこで追い越したんだろう?」また小悪魔だ
「まっ、いっか。逢えたし」
「また、神様ありがとう。」彼女はそう呟いた。
「今日は部活ないから一緒に帰ろっか」
僕から切り出すのは珍しい。
もちろん彼女は喜んで
「じゃぁ、正門の所でいい?」
「ん、あぁ。」正門は気がすすまない
正門で待ち合わせというのは、傍から見ればいわば公認のつき合いだ。
校内に入り隣のクラスを通ると梨華が僕を見つけて教室から出てきた。
「おはよー」相変わらず元気がいい。
「おはよう」僕は素っ気ない態度だ。
今日は彼女の顔をまともに見ることができなかった。
彼女は話すとき僕の目をしっかりと見つめる。
真っ直ぐなまななざしに、心を読まれそうだった。
滝井と一緒に来ていることを隠しているようで、後ろめたかったのかもしれない。
とにかく半ば無視するように僕は教室へ駆け込んだ。
昼で帰れるのはどれくらいぶりだろう。
授業が終わると僕はすぐに正門へ向かった。
待っている間いろんな学年が通る
(こりゃ、はずかしいなぁ)
(まるで彼女を待っているみたいだなぁ)
そんなことを考えていると、大きな滝井と小さな友達がこちらへ向かってくる。
小さな友達が
「いたいた!」と声を上げて僕を指した。
(なんだよ、アイツもういいふらしてんのか?)
そういったとたん友達は滝井に手を振り横道へ逸れていった。
「まったー?」笑顔の彼女だ。
「すこしね」
「そう言うときは、うぅん、今来たとこって言うんだよ」
「そうか?ま、今来たけど」
「よしっ!合格!」
「なんじゃそれ」
滝井は妙にはしゃいでいる。
駅に着くと彼女が突然「じゃーどこ行く?」
と切り出した。
「どこいくって?帰るんじゃないの?」
「えーっ、そうなのー」彼女がふくれた。
「お昼は?」
(土曜の昼なんて外で食べた事ないぞ)
「街まででようよ」
街までは4つ目の駅だ。
待ちで入ったのは、“ベルエポック”という名前の喫茶店だった。
レンガの壁で、どことなく大人っぽいムードのある店だ。
…落ち着かない。
そこで僕らは同じミートソースとアイスコーヒーを注文した。
帰りのバスで、僕は彼女に真っ直ぐにこう尋ねた。
「なぁ滝井、これって付き合ってるっていうのかなぁ」
「・・・」
「だめ?」
「それじゃぁ、だめ?」
「えっ?」僕は固まった。
「米君ね、中学のとき私の卒業ノートになんて書いたか覚えてる?」
「えっゴメン。まったく覚えてないや。」
「オレ、なんて書いたっけ?」
「僕に逢いたくなったら、いつでも本屋さんにいますって…」
(確かに書いたかもしれない。しかし、滝井のに書いたかは覚えてないぞ。)
「だから本屋さんに行ってみた」
「でも、一度もいなかったよ。」
「あ〜あ、縁がないんだなって思ってたら、あの雨の日に米君に逢ったの。」
「そしたら、また逢いたくなって」
「行動したら、また逢えなくなったの。」
「だから、信じて待つことにしたの。」
「でも、ホント神様っているんだよね。」
「だって、米君と一緒に帰れて、今日もデートまでできちゃったんだもん。」
「で、デート?」
「オレ、神様は判らないけど、天使なら知ってるよ。」
「なに〜?天使って。」彼女は目を丸くして笑みを浮かべた。
「ほら、その笑顔…大好きなんだ。」
「え〜〜?」
「天使の笑顔」
彼女の顔が赤く染まった。