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雨の雫  作者: GreenTea
3/22

act3 心臓が止まった

部活が終わりいつものように孝の自転車の後ろにまたがった。

「寄るだろ?」孝が尋ねる

アワビ商店へ寄るのは日課だったが、その日はあまりお腹が空いていなかったこともあり断った。


「悪りぃ。今日は腹へってないや」


「そうか。」

「送っては行かないぞ」


「あぁ、アワビからは歩いていくよ」


「ばーか!そんなに謙虚な奴、途中で降ろせるかよ」

そう言いながらも孝は、駅近くの国道沿いまで持ち前の安定感で乗せていってくれた。


「あ、ここから歩くよ」


国道を越えると商店街のため道幅が極端に狭くなり、夕方の買い物客でごった返していた。


「じゃ、またあしたな」


そう言うと軽々と自転車を翻し元来た夜道に消えていった。


「サンキュー」 小さな声で僕は礼を言った。




薄暗くなった駅の階段を一段抜かしで駆け上がると、すぐ左が改札になっている。

定期券をバックから取り出し改札に入ろうとすると、誰かが声を掛けてきた。


「お疲れー!」


満面の笑みでそこに立っていたのは滝井だった。


「あれっ!偶然だね」

「誰か待ってるの?」


「うん。」

「でも、いいや、米君も帰るんでしょ?」


「あぁ」


「じゃぁ、一緒に帰ろっと」


「え?友達に悪いじゃん」


「いいの、いいの、明日謝っとくから」


「しらないぞ・・・」


「いこ、いこ」


強引に彼女は、僕の腕を引っ張りながら改札を先に抜けた。


ホームに下りると長椅子が目に入った。

電車が来るのを待ちながら、彼女はまた喋り出した。


僕の耳には彼女の声は届いていない。

孝のい言った言葉が耳から離れない。

(滝井に言わなくっちゃ)

(謝らなくっちゃ)

(どうしよう)


そんなことを考えているうちに、入線のアナウンスが流れた。


―1番線に電車がまいります。白線までお下がりください―



適当に頷く僕に、笑顔を向けながら一生懸命彼女は喋りかけている。


しばらくして、

ホームに滑り込んできた電車の大きな音と、ブレーキのきしむ音に彼女の声がかき消された。

と同時に、窓に一瞬、滝井の笑顔が映った。



・・・一瞬。心臓が止まった・・・



自分でも解らなかった。

(耳が聞こえない・・・)

(体に電気が走る・・・)

(胸が・・・)


電車が停止し、ドアの開く音で我に返った。


(びっくりした。なんだったんだ?)


電車が発車した。

彼女は何事もなかったかのように、喋り続ける。


電車を降りて、バス停へ向かった。

この間のことを思い出した。


「この前はゴメン」

「なにが?」


「約束・・・待ち合わせも決めてなくって」

「ん?いいよ、今日だって一緒に帰ってるし。」


「そう?」

「こう言う事は決めちゃいけないんだよ」

彼女が不可解なことを言い出した。


「何だよそれ?」


「運命って、神様が決めることだから流れにまかせるの。」


「現にこうやって逢えたでしょ」

「逢えるって事は、縁があるの。必要だってこと。」


「オレが? 必要?」

「何だよそれ。」僕には理解できない。


「まあ、そのうち解るって。」自信満々に彼女が言う。



「それより見てよ〜、このキズ〜 痛ったーいもー」急に袖をめくり上げた。


肘の怪我は部活のときのだろう。


「見て、見てこんなになっちゃったよ!」

彼女は肘を自分の顔の前に上げながら、僕の顔に近づけた。



・・・あっ、また、胸が!痛っ。・・・



目の前が真っ白になった?

いや、今度は目の前に天使が見えた。そう、はっきりと。





家に帰っても、彼女の笑顔が頭から離れない・・・

(なんだろう?)

(気になる)


夜の9時が過ぎていた。


気づくと中学のアルバムを引っ張り出していた。

写真には目もくれず、後ろのほうからめくり始める。

無意識のうちに、

彼女の電話番号を調べていた。


ダイヤルを回す手が震えた。

最後の9がやけに長く感じる。


「はいもしもし、滝井です。」

「あ、あの、中学の同級生の中米といいますが、理未子さんいらっしゃいますか?」

「ごめんなさい、今お風呂に入っていて、かけ直すように言いますね。」

「はい、、いえ、結構です。」

「大した用じゃないので。」

じゃ、失礼します。


その夜、彼女からの電話のコールバックはなかった。





次の朝、いつもと同じ時間に乗り一番奥の左側の席に座った。

ドアが閉まり、バスは発車した。


―次は管理棟前 お降りの方はブザーでお知らせ下さい―


バス停を見ると、

(あっ!滝井だ)

彼女も僕に気がついて、バスに乗ってきた。

隣に座るなり、

「米君、いないかなぁと思って一本待っちゃった。へへっ。」

屈託ない笑顔で喋りだした。


「神様、無視しちゃったね。」

バツが悪そうだが、笑顔のままだ。


「なんでそうなるの?」僕が聞いた。


「やだ、この前言ったでしょ。」

「必要ならまた逢えるって。」


「逢えたからいいじゃん。」


「ダメ。これはあたしが操作しちゃったから・・」


「神様、怒るかな〜?」彼女は小声で言った。


「関係ねーよ、じゃあ明日からこの時間で一緒に行こうぜ。」


「えっ。いいの?」


「神様が一本で逢わせてくれたんだから、有効に活用しなくっちゃね。」

「うん。」


その日から、僕らは毎朝一緒に行くことになった。



帰りはというと、相変わらず彼女は駅の改札で友達と話をしたり、

ホームのベンチにいたりと、偶然に逢って帰ることが続いた。


まあ、部活の時間が不規則なのとアワビに寄ることを考えると、

時間を合わせることは不可能に近かった。


そう、僕は思っていた。

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