第3章act2 ごめんね
あれからどのくらいの月日が経っただろう。
今の僕には神様も天使も降臨しない。
それぞれが、それぞれの道を上手く歩めているのだろうか?
キッチンからは彼女の作る夕飯の匂いがしている。
もう3年の付き合いだ
そんな平凡な日々を送る僕の部屋に突然電話がの呼び出し音が鳴り響いた。
「あのー 中米さんのお宅ですか?」
聴いたことのない女性の声だ
「あ、そうですけどどちら様…」と言いかけると
「続きです。続 多喜子です」確かにそう言った
僕は我が耳を疑った
「え、あ、ひさしぶりだね」
そう、高校3年から卒業して以来の彼女からの電話だったからだ。
そして、今までずっと無視されていた…
「実家に聞いてこの電話番号教えてもらったの」
「ごめんね。突然…」
彼女はしっかりとした口調で話した。
「で、どうしたの?」キッチンの彼女に聞こえないように小声で答えた
「あ、誰かいるんだね」相変わらず鋭い
「米君、10年前ごめんなさい」そう彼女が切り出した
「えっ!?」
「なんのこと?なにに?」察しはついていた。
落ち着いた口調で
「あの日以来無視してたこと…」
(やっぱり彼女も気にしていたんだ)
電話の後ろからは静寂が感じられた
「うん、大丈夫だよ」
「あの時はちょっと辛かったけど」僕は平静を装った
「本当にごめんなさい」
「実はね」
彼女は淡々とあのときの事情を話し始めた
「撮影してもらった時に気づいちゃったの」声のトーンが落ちる
「自分の中にあった、いけない感情に」
「それで、自分にブレーキをかけたんだけど…間に合わなくって」
心なしか涙声になった
「米君…」
「あの時、あの時の彼とはそれっきり」
「米君にも彼女いたし、諦めるにはって…ほんとごめんなさい」
正直、突然の告白に驚いた
「オレもあの後すぐに別れたよ」
「そうなんだ」
彼女を助けるようにこちらのことを切り出した
「バカな話だけど、卒業してから駅やら家の方でバイトしてないか探したよ」
「えっ!そうなの?」
「つくづく縁がなかったんだね 私たち」
「そうだね同じ方向走ってたのに、交差点にも気づかなかったってことか」
「なに?交差点って?」
「人生の交差点だよ」
「それを書くのは神様で、自分が修正しようとするとへそ曲げて試練を与えるんだよ」
「へー米君ってロマンチストだったんだね、もっと現実主義かって思ってた」
「だから、たぁことも逢えなくされてたって…(笑)」
「ふ~ん」
「今日は10年経ったら謝ろって思ってたんで電話したの」
「ごめんね、彼女と仲良くね」
「ありがとう」
「連絡先…」僕はそう言いかけたが
「聞かないことにするね」
「気持ちが戻っちゃうから…」
「またまた~」
「カワイイ彼女さんなんでしょ?」
何かが吹っ切れたかのような彼女の言葉に思わず返してしまった
「うん、たぁこに似てるんだよ」
「・・・」
「じゃぁ 切るね」
明るさの戻った彼女の口調に何かが終わったというより、
一つの安堵感があった
「うん」
ツーーツーー
僕はしばらくの間、その受話器の音を聞いていた
その音は、二人を断続的につないでいた神様の落書きのように思えた
雨の雫は完結ですが、他の小説との微妙なつながりもお楽しみください。