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雨の雫  作者: GreenTea
20/22

act8 新車

今の僕は週末の度に"京都"へ通っている。

付き合っている訳でもなく、特別なにがある訳でもない。

呼び出しては話をして、一泊して帰宅する。

そんな日々が続いた。


彼女は僕のことを弟のような存在に感じているらしいが、

僕は違う。


就職も関西にしようかと思うくらい彼女に入れ込んでいた。



新幹線で京都の駅へ着くと、迎えに来ていた。


「恵次!こっちこっち!」

すぐにわかった。


ヒラヒラのワンピースに帽子をかぶった、

いつになく清楚な感じがする格好だ。


「今日はどうしたの?その服?」


「失礼ね〜。もっと他の言い方ないの?」



「もちろん、可愛いよ。」

「ジーンズの時とイメージが違ってちょっと驚いた」



髪をかきあげながら

「少しは女の子っぽくしないとね」


そう言えば、前に会ったときよりかなり髪が伸びていた。


「ま、まさかこっちでいい人でもできた?」

恐る恐る聞いた。


「ばーか。何言ってるの?」

「嫉妬?」


「かっこわるーい」

「もっと自分に自信持ちなよ」


「とりあえず、恵次が来てくれる間は、そういうのは無し!」

彼女が両手で×印をつくって見せた。


ホーっ


「ありがとな」


僕は少し安心した。っていうか、かなり安心した。



彼女は、駅から少し離れた路肩に停めてあった車を指差した。

「あれだよ!」

「私の愛車。軽だけどね」

黄色で丸く可愛い車が置いてあった。


「へ〜車買ったんだ」

いつの間にか買ったらしい。僕は知らなかった。

彼女のことで知らないことは多い。


「どこいく?」

彼女が聞いた。


「僕はみゆきと一緒にいられればいい」

これは失言だった。


「恵次はそれがダメなんだよ」

「女の子は、そんな事聞いてないよ!」

(なんか怒ってる?)


「恵次、東京でも女の子にそんな風だから中途半端なんでしょ?」

(図星だ)


「えっ?そ、そんなことないよ」


「だって、東京で彼女できないでしょ?」


"彼女はキミだ"と言いたかったが、なぜか言い出せなかった。




小高い丘の上にある喫茶店の駐車場に彼女は車を停めた。


「ここにしよう」

そう言って彼女は先に降りてしまった。


「待ってよ!」

後を追うように僕は車を降りた。


街が見渡せる木製の展望台風のデッキに

真っ白なテーブルと椅子が並べられている。


彼女がそこへ先に着くと、

手招きで僕を呼んだ。

「早くー」


僕が近づくと、

「ね、ここステキでしょ」

街のほうを指差した。


「あっちが駅でー、こっちが私の家」

彼女が一生懸命説明してくれていた。



「景色も、空気もきれいだし」

「ここに来るために、あの車買ったのよ」



「ここのために?」

僕は驚いた。



「そう、これだけのために…ダメ?」


「いや、悪くはないけど・・・もったいなくない?」


「だから恵次は現実的すぎなの、少しは夢を見なくっちゃ」

「旅行もそう、もっと楽しまないと自分が壊れちゃうよ」


「恵次にここの景色を見てもらって、ステキだって言ってくれたら私は満足」

「私の好きな場所に、恵次を連れて来れて良かったって感じたいの」



その時、風が彼女のスカートを揺らした。

長い髪が彼女の香りを運んできた。


その風は彼女の帽子を車にいざなった。


帽子を追いかけた視線の先に

彼女の車のナンバーが目に留まった。


「あれ?この数字、もしかして…?」

「…もしかして、僕のための車?」



「だから鈍いって言うの」

彼女は笑ってた。


― 京都け・922 ―


僕の誕生日だ。



街を見下ろしている彼女を、後ろからぎゅっと抱きしめた。


「痛いよ…」


「だから…もう…鈍いっ…て」

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