act2 はっきりしろよ
駅から高校までは湾岸の国道を二本もまたぎ、
高速道路をくぐり抜けたところでようやく見えてくる。
歩くには少し遠すぎるので、
自転車通学の友達を見つけては後ろに乗せてもらう毎日だ。
今日もいつも寄るアワビ商店で孝を見つけた。
孝は同じクラスでバスケ部のキャプテンだ。
僕ら体育会系はパンを一つ買って行かないと昼までもたない、
朝夕はここに寄るのがいつしか日課になっていた
買い物を終えて孝の自転車の荷台にまたがる。
バスケ部である彼の脚力は凄まじく強く、その運転は半端じゃなく安定し乗りやすい。
あっという間に校内の駐輪場に着いた。
「サンキュー」と僕は軽く手を挙げ、一足先に一人教室へ向かった。
廊下を歩いていると隣のクラスの梨華が声を掛けてきた。
梨華は一年で同じクラスだったが、
何故か僕とはウマが合い、いつからか毎朝廊下で立ち話をするようになっていた。
真面目でちょっと変わった女の子で、お世辞にも可愛いとは言えないが、
僕にとっては妹のような大切な存在であった。
周りからは付き合っているように見えていただろうか。
「どうしたの?」
「今日はあんまり話さないね」
そう、いつもの僕は梨華とはよく話す。
所謂、僕はおしゃべりになるようだ。
「中米くん元気ないけど大丈夫?」と梨華
「あ、あぁ。疲れてるのかなぁ」
「無理しないでね、今日も部活でしょ」
こんな梨華の小さな気遣いが、彼女といる居心地の良さだと感じていた。
二人の会話の隙間に始業のチャイムが割り込んできた
「あんっ!鳴っちゃったね」
「うん。」
「じゃぁ、またあとで」
隣の教室へ入る彼女を見届け、僕が廊下を走り出すと
自転車を置いて戻ってきた孝と鉢合わせになった
「おう。」
「さっきはどうも」
「チャリ置いてくるだけにしては遅いんじゃないか?」
「そうか?」
「あ、まぁ、いろいろな」
最近の孝は怪しい。
「さっき駐輪場にいたのは彼女か?」
「なんでだよ」
「そっちこそ、河北と付き合ってるのか?」
「まさか、オレはただの彼女の相談相手だな」
そう言うと孝の言葉が詰まった。
「実は…そのうち話すつもりだったが…」
孝が何やら真顔で語りだした。
「…付き合ってる…」
「えっ。」
「コッチンと先月から…」
コッチンとは外山琴美の愛称で、
彼女もまた、一年の時は僕と同じクラスでバスケ部だった。
「えー知らなかったーよー」
僕はこの手の話に疎く、まるで気づかなかった。
「隠すつもりじゃなかったが、おまえフリーだろ?言い出しにくくてょ」
「おまえも河北と付き合っちゃえばいいのに」
「オレはいいよ」
「まぁな、おまえはモテるからな」
「でも、思わせぶりな行動はやめとけよ」
孝はたまに兄貴のような助言をする
「そんなのないさ」
そう言いながらも、昨日の滝井への言葉を思い出した。
終業のチャイムとともに僕の本業が始まる。
中学の時に始めたバレーとは腐れ縁で、
当初は身長が146cmしかなかったため、コートとベンチを行ったり来たりだったが、
卒業時には179cm、高校入学の時は180cmを超えた。
今ではなんの実力も苦労もなくエースアタッカーの座に就いていた。
やはり男子にとってルックス以上に身長は重要だ。
現に僕の中学時代は悲惨だったが、
今はというと、下駄箱の中には必ず可愛い封筒がが入っている毎日だ。
練習では、体育館をバレー部とバスケ部が同時に使うことが多い。
今日もギャラリーがたくさん来ている。
サッカー部と人気を二分するバレー部のエースは、
それなりに気持ちがいいものだ。
もちろん、僕目当ての子などいないに決まっている。
ふと気がつくと、僕の視線は“彼女”を探していた。