act4 目的
彼女の目的は、積丹半島西側にある西の河原だと聞いた。
そこは、僕も良く知っている。
ちょっと有名な霊場で、
破船の犠牲者を供養するために祀られた地蔵堂や、積み上げられた石の塔がいくつも並び、山から見るそれはまさに絶景。
一度行きたいと思っていたところだ。
そこへ彼女と向かっている。
霊場に引き寄せられるようにこだわる彼女。
物や、場所、人の良し悪しが判るといったあの言葉。
とても気になるが、少し怖い気もする。
高速を降りてから
積丹の西側の国道はやけに細く走りにくい。
彼女もいつの間にか目を覚ましていた。
「起きてたの?」
僕は聞いた。
「うん。ゴメンね眠っちゃった」
「大丈夫だよ、疲れてるんでしょ?」
「積丹に着いたら何するの?」
「・・・」
彼女の手が、
シフトを握る僕の手を握った。
「積丹のYHに着いたら言うから、それまでは…」
「分かった、聞かないよ」
ようやく神恵内村に入った。
昔、そのYHがあったといわれる場所まで行ったが、
それらしい看板はなかった。
そこにいた人に聞いてみると、
そこはすでにオーナーも亡くなり、閉鎖していた。
彼女はがっかりして、うな垂れていた。
なぜそこに拘っていたのかを
僕は、問いただすことは出来なくなった。
以前の半島の道は、
途中で分断されていて一週周る事すら出来なかった。
もちろん、僕の行きたかった西の河原は、
8時間掛けて見に行くほど価値のあるものだった。
今では国道が伸びたお陰でかつての秘境の面影はない。
「行ってみる?」
「えっ?」
229号線をひた走ると、それは見えてきた。
かつて、写真で見た景色とは違う。
「私ね、あのYHの8時間ツアーに参加したことあるの。」
「えー、あの噂の?」
僕はそのツアーを知っている。
「山をいくつも越えて、結局は河原に下りるわけでもなく戻ってくるの」
「でもね、山の上からみた河原は絶対に忘れられない」
「そして、あのときの思いでも…」
「恵次に悪いから、やっぱり話すね」
「あのYHで出会った二人は、なぜか結婚したりする人が多いの」
「霊場のせいなのか、YHの雰囲気なのか、
とにかくそういうエピソードが多いところなの」
「私も元彼とはあそこで出会って、一緒に登った」
「8時間という時間は、彼を知るのに十分だと思ってた」
「そう、解ったつもりだった」
「そして、一度は結婚も考えたわ」
「でも、彼が急に居なくなって…」
「結婚を目前にして、逃げられちゃった」
「かっこ悪いでしょ」
「でも、ここへ来る理由はそんな思い出捜しなんかじゃないでしょ?」
僕は聞き返した。
「…」
「そうよ」
「私の不思議な力って、ここへ来たときからなの」
「きっと、そのせいで彼は逃げたのかもしれない」
「だから、返しに来たの」
「こんな力、要らないから…」
彼女はまた泣き出してしまった。
僕にはとても信じられない話だった。