act2 存在
彼女といると何故だか心地よい。
話していても笑顔を見ていても癒される感じがした。
これも彼女の持っている"力"のせいなのかもしれない。
札幌の街を二人で歩いているうちに、
いつの間にか辺りが薄暗くなっていた。
「やっばい!宿泊決めてないや」
「今からちょっと観光案内所付き合ってくれる?」
彼女を置いていくのもなんだし声をかけた。
「うん。いいよ」
一緒に来てくれることになった。
これが良かった。
駅にある案内所で中にいたおじさんに尋ねた。
「今日泊まれるところありますか?」
ダメ元で、恐る恐る聞いてみた。
「お一人ですか?」
「はい。」
「ツインのシングルユースなら空いているんですが、割高になりますねぇ」
「そうですか…じゃぁ他あたって…」
と言い掛けたところで彼女が
「ツインに二人なら一人3000円なんですよね?」
と切り出した。
「はぁー、お客さんご一緒?」
おじさんは驚いたようだった。
「はい!」
「なら、話は早い。お二人様なら素泊まり5800円なんですよ、お安いでしょ」
僕は彼女の顔をみて
「いいの?」と尋ねた。
彼女は頷いた。
「じゃぁお願いします。」
「すぐにチェックイン出来るはずだから電話しといてやるから行ってみな」
そういって地図を手渡してくれた。
「ありがとうございます」
振り返ろうとした僕に
「気をつけてな」
おじさんは右手でピースサインを送ってきた。
(そんなんじゃなぃ)
と手を横に振って返したが、
おじさんはニコニコして見送ってくれた。
「悪かったね。」
気を使ってくれた彼女に謝った。
「ホントにいいの?」
「そう言えばユースホステルは?」
「大丈夫。さっきキャンセルしといたの」
「じゃぁ、君も宿なしだったってこと?」
「だって、夜遊びしたら帰れないもん」
「ユースホステル門限あるしね。」
「君ってスゴいね」
約束どころか夕飯と夜遊びまでついてきた。
(彼女はどうゆうつもりなんだろう?)
焼き肉を食べた後、
ゲームセンターで盛り上がった。
クレーンゲームにハマった彼女は
次々と注文を出してきた。
やっているのは、もっぱら僕だ。
「すっごーい!」
「なんでも取れるんだね〜」
唯一、得意なゲームだったとは言えなかった。
店を出る頃には大きな袋が二つになっていた。
二人で一つずつ持ってホテルへ向かった。
今日、会ったばかりの二人が
まるで何年も付き合っていたかのようだ。
「のど乾いたね〜」
彼女が言った。
「ビールでも買っていく?」
「そうだね。」
コンビニに寄って買い出しをし、荷物は僕が持った。
部屋に入るとビジネスホテルとは思えないくらいキレイな造りだ。
荷物を置く場所を探していると、
「先にシャワー浴びてきて良い?」と彼女が聞いてきた。
「あ、いいよ」
「汗かいちゃったからね」
「どうぞ。」
待っている間、
テレビを見ていたが特に面白くないのでスイッチを切った。
― シャーシャー ―
シャワーの音が部屋中に響いた。
…急に緊張してきた。
さっきまで何も意識していなかったし、考えてもいなかった。
(もしかして女の子と二人きり?)
鈍いにも程がある。
― カチャッ ―
シャワールームから髪を上げ、タオルを巻いた頭が覗いた。
「一緒に入る〜?」
(なにいってんだ?この娘ヤバいよ…)
「い、いや、いいょ」
「ちょっとタバコ買ってくるよ」
そういって走って部屋から飛び出た。
(まったく、なんだよあの子は?)
30分くらいかけて、そーっと部屋に戻ると
彼女は一人ビールを開けていた。
「何やってたの?」
「彼女にでも電話してたの?」
「タバコ買ってきたんでしょ」
「私にもちょうだい」
「いや、売ってなかったよ」
「ふふっ」
「ホントはタバコなんて吸わないんでしょ」
「さっきのは冗談よ」
「私だって恥ずかしいもん」
(ふっー)
(なんだよ、ふざけるなょ)
「でも、本気にしちゃっても責任取るつもりだったけどね」
(ますます、分からなくなった)
「それより早くシャワー浴びてビール飲もうよ」
彼女の誘いに、僕は急いでシャワールームに向かった。
15分くらい掛かっただろうか、
彼女はベッドで寝息をもらしていた。
そっと掛け布を体にのせると
無防備な顔がいとおしく見えた。
思わず、そっと頬にキスをして
「お・や・す・み」と彼女に言った。
次の朝、目が覚めると驚いた!
隣に誰かが寝ている!
彼女だ!
しかも全裸じゃないのか?
僕の驚いたのに気づき彼女も目を覚ました。
「キャー」
慌ててシーツで胸を隠した。
「みたでしょ〜」
「見てないよ…」
「うそ〜。」
「見てないってば…」
「な〜んてね。」
(なんだ?)
「だってあなた真面目なんだもん。」
「だから試してみた。」
「信じられる男の人ってあんまりいないのよ。」
「ちょっと油断すると、みんなすぐ動物に戻っちゃうの。」
「でもあなたは合格!」
「理性をもっているわ」
「合格って?なんの?」
僕にはまだわからない。
「あとでわかるわよ」
「じゃぁいこっか!」
「どこへ?」
「朝のさ・ん・ぽ」
「きもちいーよ」
「さぁっ!起きて」
彼女が僕の両手を引き上げた。
ベッドから起きあがった勢いで二人とも反対に倒れた。
僕が馬乗りのような格好になって、
彼女の顔がすぐそばにあった。
下から覗き上げる彼女が、頭を持ち上げたので、僕の唇に触れた。
「あっ。」
「お・や・す・み のお礼」
「えーあの時、起きてたの〜!」
「ゴメン、恥ずかしい。。」
僕はびっくりして体を放した。
「うん。」
笑う彼女を
もう一度、ゆっくりと引き寄せると
柔らかい彼女の唇にすい込まれていった。