第2章 act1 出会い
結局、都内の三流大学に進んだ僕は、
何の目的も持たずにただ毎日を過ごしていた。
夏休みに入ったばかりの午後、
たまたま通りかかった旅行代理店の前で、
北海道のパンフレットに目がとまった。
― 雄大な北の大地 ―
《ラベンダーファームの香り》
家に持ち帰ると無造作に開いた。
スゴい!
綺麗なところだなぁ〜
・・・行ってみたい
そう思うと居ても立ってもいられなくなり、
とりあえず下着となどの着替えをバッグに詰め羽田へ向かった。
札幌までは約二時間
一人で乗る飛行機は初めてだったので
なんだか落ち着かない。
機内に可愛い子でもいないかと物色していたがまたこれも叶わない。
飲み物だけもらうと疲れていたのか眠りに就いてしまったようだ。
到着のアナウンスが流れ、
窓から見える家や人街並みがだんだん大きくなってきた。
ドスン、
キィーーーーーーー!!!!
大きな振動とともに急制動がかかった。
札幌だー。
さっきまで東京にいたのが
信じられないくらい気持ちのいい空だ。
タラップを降りて構内に入った。
空港の出口を探しながらうろうろしていると、
大きな荷物を持った女の子が目に入った。
(よしっ、声をかけよう)
「すみませーん。もしかして出口探してます?」わざとらしい
「は、はい。」一瞬びっくりしたようにこちらを見た
「ボクも探しているんですけど、わからなくって」
「そうですか、私、聞いてきます!」
「いや、ボクが…」
そう言って係員を捕まえて
出口が反対側だとわかった。
「あっちらしいよ」
そう言って彼女の荷物を引っ張った。
「ありがとうございます」
「ねぇ君、どこから来たの?」
歩きながら尋ねると
「京都です」
彼女は答えた。
「へー。で、一人?」
「え、まぁ」
軽いナンパかと思われたかもしれない。
「ボクも一人で、さっき東京から着いたんです」
「朝、思い立って羽田空港に遊びに行ったら、つい乗っちゃったんだ」
「すごーい。」
「だから宿も計画もなし」
「私は今日は札幌のユースホステルに泊まる予定なんです」
「じゃぁまた夜にでも会えるなかぁ」
「え?でも…」
「あ、でもナンパじゃないよ」
「…」
笑いながら「…ナンパかもしれないね」と
頭をかいた。
「そうよ。これって…」
「じゃぁ、改めて正式にナンパしまーす!」
ちょっとふざけて言ってみた。
「ねぇ彼女〜お茶いかへ〜ん」
「下手な関西弁だけど」
「お茶ならいいわよ」
彼女から思わぬ返事が返ってきた。
「ホント?」
「だって私も疲れたし、お茶なら安全だから」
「なに〜?安全ってー」
「そんな風に見えた?」
「うぅん。見えないからokしたのよ」
(ふーっ。)
空港から大通り公園に出たところで
アンティークな感じの古い小さな喫茶店に入った。
二人ともアイスコーヒーを注文して、
ガムシロップとミルクを入れ同時にかき混ぜ始めた。
「ふふっ」
彼女が笑った。
「何がおかしいの?」
「だって、さっきから二人とも同じ事してたから」
「あっそうかも!」
「こうゆうのってシンクロって言うんだよね」
「シンクロ?」
「水泳の?」
「ん〜違わないけど、ちょっと違う」
「な〜にそれ、わかんない」
「お互いの波長が合うと、行動が似てくるらしいよ」
「波長が?気が合うってこと?」
彼女が不思議そうなまなざしをした。
「確かにあなたと話してると疲れないわ」
彼女の真っ直ぐな言葉が少し嬉しかった
「それは光栄です」
「あなた女の姉妹いる?」
「いないけどなんでそんなこと聞くの?」
「なんか、こう異性を感じさせない」
「オレ、魅力ないのか…」
「違うって!あなたは女の子にやさしく、自然に話すよね」
「あーそれ?前にも言われたことある」
以前に梨佳に言われたのを思い出した。
「あなたは、かなりの遊び人かオカマね」
「女の子に好かれても気づかないタイプよ」
「えーそうかなぁ」
「彼女は?」
なんか、彼女の尋問を受けているようだった。
「いないけど…」
「ヤケクソの一人旅だー」
彼女は小悪魔の顔で言い放った。
「そっちこそ。」
僕は切り返した。
「私はそうだよ。」
(あっさり認めた?)
「忘れたくって、忘れたくって、
北の大地に来れば何かが変わるかなと思って…」
「それで、何か変わった?」
「う〜ん」
「まだ、初日だし分からない」
「でも出会いはあったみたい」
「オレ?のこと?」
僕は自分の鼻を指差した。
「ま、そうかもね。」
彼女は、笑顔でいった。
「一日目は楽しく過ごせそうだから」
調子に乗った僕は、
「時計台見に行こうか!」
「いく、いく」
(なんだこのノリは?)
(この子警戒感ゼロだなぁ)
初夏の時計台はまだ緑が少なく、
あまり夏を感じさせない。
むしろ寂しさを引き出す所かもしれない。
「いこっ」彼女が僕の手を引いた。
時計台に近づいたとき、
「…ここに居たくない」
「あなたは何か感じないの?」
「なにかって?」
「別れの匂い…」
彼女が言い出した。
「私たちはここには合わない」
彼女が何を言っているのか解らなかった。
とりあえず、言われるままその場を離れ大通り公園まで戻りベンチへ座った。
「どういうこと?」
僕は聞いた。
「ごめんなさい、私…」
「時々、感じるの。」
「場所の善し悪し、人の事とか物の過去」
「霊感って訳じゃないけど、とにかく当たるの」
「へー少し怖いけど…スゴいねぇ」
「じゃぁオレにもピンときたの?」
「うぅん。」
ガクッ
「かんじたと言うよりも同じ匂いがした」
「なに?ふられた匂い?」
「違うわよー」
「何か特別な匂い。」
(この子ヤバいかなぁ。)
「元彼って何で別れたの?」
「やっぱ、その不思議な力のせい?」
聞かなくていいことを聞いてしまった。
「それは関係ない…」
「彼の単なる浮気…」
彼女がうつむいたまま話さなくなってしまった。
(まずいなぁ)
「ゴメン。変なこと聞いて…」
「いいの、もう終わったことだから…」
「ホント、ごめん…」
彼女の瞳から涙があふれていた。