act12 別れ
僕は決心した。
二人とも諦めようと。
たぁこの答えも聞かずに引くことは理不尽だったが、
僕の何かが、彼女をあんな態度にしていることは明白だった。
学校での態度も彼女の“無視”に合わせることにして
ほとんど口を利くこともなくなった。
しかしそれとは正反対に、
彼女との距離が遠ざかったとは思えないくらい
僕の中で存在が大きくなっていった。
胸が苦しかった。
(あの時と同じだ)
そう感じても神様は二人を遠ざけていった。
偶然、学校から駅に向かって一人で歩く理未子の姿を見つけた。
「よう!今帰り?」
以前のように振舞った。
「あっ、恵次。久しぶり」
彼女も笑顔で返してきた。
「今日は一人なんだ?」
「そう、最近は一人」
「みんな忙しいみたいで…」
「恵次は進路決まったの?」
「いや、まだ決まってない。」
「大学でしょ?」
「いや、大学は受けないつもりだ…」
「えーっ?で、どうするの?専門でも?」
「いや、まだ考えてない。」
「そうなの。」
「私は短大にするって決めた」
「恵次みたいに賢くないから、行くとこなくって」
いつも一緒に歩いた道がものすごく長く感じられた。
駅に着くとよく二人で長話をしたベンチに座った。
「なんか懐かしいね。このベンチ」
「そうだな」
「どうして私たちこんな風になっちゃったんだろう?」
「・・・」
「神様、最近ぜんぜん出てこないんだよね。」
(そういえば、オレの天使も…)
「私が恵次の言うこと無視してバイトなんて始めたからいけないんだよね。」
「私がもっと傍にいなきゃいけなかったんだよね。」
彼女の頬に涙がつたう
「私がもっともっと恵次を好きにならなきゃけなかったんだよね。」
「私が…あのとき…」
彼女の言葉が出ない。
「もう、いいよ」
「オレは今も理未子の事、好きだよ」
僕はそれしか言えなかった。
「でも、もうダメなんでしょ?」
「わかるよ。」
「だって、神様がもう偶然をくれないんだもん…」
電車がホームに入ってきた風で、彼女の涙が僕の頬にかかった。
ドアが閉まり、電車が発車すると、
急に雨が降り出してきた。
あっ雨の雫だ。
バスを降りて、いつものポストの前で一時間ぐらい話しただろうか。
「ここで、さよならだよね。」
小さな声で、僕は言った。
彼女は左の下のアスファルトに目を向けたまま頷いた。
「うん。」
「受験がんばってね。」
「そっちもね。」
最後のキスをするつもりで
彼女に顔を近づけると、左手で僕の右の頬をそっと抑えた。
「ダメ。」
「別れるんでしょ。」
彼女は泣いていなかった。
僕の胸の中の何かが消えたような気がした。
あの時のように、
いや違う…
僕の中の天使が、永遠に離れていくような気がした。