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地球最後の瞬間を、君と

地球最後の瞬間を、君と

作者: 空月
掲載日:2021/02/18




「あっ、このカップ麺5分のやつだった。地球消滅まであと何分だっけ?」


「あと5分。なんでギリギリになって作り出すかな」


「食べたい気持ちが高まったのが今だったんだって」


「そもそも最後の晩餐がそれでいいの?」


「いいじゃんカップ麺。俺のおふくろの味だし」



 そう言って笑うヤツの名は笠木ミツギ。

 何の縁だか、地球最後の瞬間を過ごすことになった友人である。

 というかヤツが押しかけてきたというのが正しい。地球消滅三十分前に呼び鈴を鳴らされてびっくりを通り越したのも記憶に新しい。



「俺、麺は硬め派だからギリギリいける!」


「食べてる最中に地球終わるんじゃない。最後の瞬間がそれでいいわけ?」


「えー、食い終わるって」


「どんだけ早食いするつもりなの」


「俺は新記録を出してみせる……!」


「はいはいお好きにどうぞ」



 わざわざ人の家に来てまでするのがそれか、と思わなくもないけど、こういうちょっとわけわかんないやつなのは出会った当初から変わらない。


 ――ある日、全世界に『声』が響いた。

 全世界あらゆる人の――もしかしたらあらゆる生物の――耳に、脳に、心に、響き渡ったその声は、「この地球は処分対象になった」と言った。

 そしてそのことを、私たちに『理解させた』。

 荒唐無稽な状況を、荒唐無稽な話を、そういうものだと、それは紛れもない現実で覆せない事実なのだと『理解させた』。


 そういうわけで全人類は、否応なく『地球が消滅するらしい』という現実を受け入れることになったのだ。

 パニックはもちろん起こったし、それでも現実と認めない人もいた。

 いろんなふうに、いろんなところで騒ぎになって、だけどそれはやがて収束していった。


 ――地球消滅の日に向けて。



「黙り込んで何考えてんの?」


「ここに至るまでを思い返してた。いろいろあったなと思って」


「のわりに感慨なさそうだけど」


「地球消滅発表からの流れがスピーディすぎて心がついてってないのかもね」


「あー、まあ確かに1週間前告知じゃなぁ」


「せめて1年前とかにしてほしかったね。『声』の主にはその辺今後の参考にしてほしい」


「あの口ぶり、『他の地球』があるっぽかったもんな」



 そろそろいいかな、と呟いて、ヤツがカップ麺の蓋をべりべりと全部はがす。

 ふわりと湯気が舞って、おいしそうな匂いが私のところまで届いてきた。



「いっただっきまーす」



 それからは一心不乱、早食いの大会にでも出ているのかという勢いで食べ進めていく。

 それを眺めながら、そんなんで味わえてるんだろうかとぼんやり考える。

 正真正銘の、この地球での最後の晩餐なのに。



「他にこんなギリギリにご飯食べてる人もいないだろうし……いやいるかもしれないな」



 地球が消滅するということは人生が終了するということで、人生の最後においしいものを食べて終わりたいという人は結構いるかもしれないと思う。三大欲求だし。



「ん?」



 独り言に反応されたので、なんでもないと首を振る。


 あっという間に麺を食べ終え、スープをごくごくと飲み干して、ヤツはふうと息をついた。

 時計を見れば地球消滅まであと1分。早食いにもほどがある。



「あー、満たされた。この変わらない味がいいんだよな」


「そりゃよかったね。……で、カウントダウンは1分を切ったわけだけど」


「実のある会話がしたい?」


「どっちでもいい」



 人生最後が実のある会話だろうとそうでなかろうと、こいつと過ごしたという事実は変わらないのだ。



「じゃあ、衝撃の事実を暴露。俺、お前のこと好きだったんだよ」


「そんなの知ってるし」


「え。マジで? いつバレ?」


「地球最後の瞬間を一緒に過ごしに来たところで」



 そしてそんなこいつのことを追い返さずに家に招き入れた時点で、私も似たような気持ちだということだ。知ったのはその瞬間だったけど。



「なんだー。結構勇気いったのになー。……じゃあそのついでにもう一個。俺、あの『声』の主と同種の存在だって言ったら?」


「それも今更」



 今更だ。それが本当でも嘘でも。



「これはバレてないつもりだったんだけどなぁ。っていうかバレるはずなかったんだけどな」


「どんなシステムにもバグはあるってことじゃない?」


「そっかー。今後の課題だな」



 『声』が響いたとき。

 高校で知り合い、同じ大学に進学して、なんとなく距離が近づき、なんとなく互いの家を知っているまでに親しくなったと思っていた人間が、『そうではない』のではないかと気づいてしまった。

 私の人生にひょっこりと現れた、否、降ってきた、そういう存在ではないかと。

 『声』が事実を、現実を否応なく私たちに『理解させた』ように、その存在は『刷り込まれた』のではないかと。



「……なんで私だったの?」


「それこそ一目惚れってやつ。『声』で通知する前に処分対象の地球の様子見てたらビビッと来て。運命ってやつ?」


「ずいぶん一方的な運命だことで」


「手厳しいなー。そんなとこも好きだけど。好きになったけど」



 これまでに見たことのなかった甘やかな笑みを浮かべて、ヤツは言う。



「だからさ、お前だけ、消滅から逃れさせちゃおうかなって」


「そうして私の記憶をまた弄って、今度は別の地球だかそれ以外の場所だかで生きさせるの?」


「そこはどっちでもいいや。今のままのお前でも、何も知らないお前でも」



 それは睦言だろうか? 語る声はどこまでも甘くて、思考を蕩かせる。

 催眠術にかかったように、急激な眠気が襲ってくる。



 やっぱり一方的だ、と思いながら最後に見た時計は、地球消滅の時間を過ぎていた。

 



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