駆ける男と待たせる女
風になって夜の街を駆け抜ける
ビルの間を縫い、人の家の塀の上を駆け巡る
見付かれば捕まってしまうのが分かっているからこその、このスリル
走る走るただ走る
息が切れるのも、足が痛くなるのもお構い無しに俺は走る
俺が表に出れるのは日も沈み、街の街灯が点き出す頃だ
昼間は人の目を盗み、隠れて生きるしかない寂しい男さ
だがな、夜の帳が降りればここからは俺の時間
今日も、日中は子供達が集まる公園を抜け、俺を見ると吠えやがる犬の前を優雅に通り、奴等のシマに入らぬように、誰にも見付からないように
足が動かなくなるまで、ひたすら走る
最近、毛が伸びてきて少し鬱陶しくも思ってたが、この風に巻かれる感じは毛が長くないと堪能出来ない
走る走るただ走る
息が切れるのも、足が痛くなるのもお構い無しに俺は走る
ほら、そろそろ見えて来たぜ
どうやら今日は俺の方が早かったようだな
走るのは堪能したし、まぁアイツが来るまでのんびり待つとするさ
俺は待つのは得意だからな
あぁ漸くアイツが来たようだ
全く時間にルーズな奴だな
「ニャー」
「あら?トラ今日は早いのね」