第七話:衣服屋と
連続投稿二話目!
今回はちとディープな内容となっております。
反論はあるかもしれませんが、永久恋愛的にこのままです!
感想をお待ちしております。
……チョットしたアクシデントはあったが、とりあえず狩野森人とレイナ・バンホールの二名は《血潮の林檎亭》より出た。
このまま真っ直ぐ《マリエンブルク》の冒険者ギルド辺境支部が運営する、ギルド直営の武器屋へ行くつもりだったのだが、ストップ。
ふとレイナを目にして、閃いた、というか……失念していたのを思いだしたのだ。
彼女、奴隷用の長チュニックしか着てないじゃん!
当然、そんな格好をして森の奥へ狩猟に赴いたり、冒険者として活動するわけではない。普段着ですらないので、この格好を基準に、アレコレ武器や防具を買い揃えるのは得策ではないはずだ。
よって目的地を変更。
武器屋からまずは衣服屋へと行く事にした。
……正直、この世界の連中って、『衣服を買ったり買い替えたり出来るほど裕福』なのかと疑ってはいるが、都市市民階層はステータス的に一般人より〝上〟らしいので、そういう嗜好品の店が多い。
冒険者ギルドや商館類を中心としたリッチな地区では、宝飾品を扱う店もあった。
香水や革靴といった専門店もチラホラと見える。
そうした中で衣服を扱う店は規模が大きい。
三階建ての建物に、一階は一般人用の『普通の服』を置いてある棚が並び、二階はリッチな階層の人達向けの服が、三階は従業員用の事務所的な役割があるようだ。
で、一階の内装だが……驚くなかれ。まるで【蘇生】前の日本で目にしたような、立派な……というか普通な内装をしていたのだ。ユニクロとか、そんな感じ。
まるで蜂の巣みたく四角い籠状の棚が縦に積まれ、同じのが横に広がっている。一ブロックの棚には同じ製品のサイズ違いの服が各々並び、客はそこから自由に見て、触って、選んでいた。
驚くべき事に、移動式の梯子まで完備されている。もっとも、使うのは従業員が多いが。
しかも奥にはカーテンで区切られた、各試着スペースがあるではないか!
ただし個別用の姿見は無い。まだこの文明レベルでは鏡は高級品だし、技術的に大きな鏡を作るのが非常に難しかったり、手間暇かかるためだ。
よって姿見は試着スペースの奥。突き当りの奥へ〝共用〟として一枚があるだけ。
で、今のレイナはというと……。
「あの……どうかな……?」
開かれたカーテンの奥で、『自分の好きなのを自由に選んでいいよ』という命令に従った結果を晒していた。
(……うぉっ、結構肌を晒すな)
レイナは肌着を長チュニックから、ホルタ―ネックのキャミソールにしていた。
ホルタ―ネックとはつまり、着ている服を首から垂らした紐で吊っているタイプの服装を意味する。
キャミソールとは袖の無い薄着の事を指す。
つまり、今のレイナは背中丸見え、しかも腋見放題という結構ラフな格好なのだ!(はい、ココ重要なのでテストに出るぞ――何のテストだ!)
しかも季節のためか生地は薄く、トップスは下着としてビキニのチューブトップみたいに布を巻いているだけ。しかも背中側で結んでいるだけという超単純構造。
その上から、ホルタ―ネックタイプのキャミソールを首から垂らしている。
当然、胸の部分は大きく隆起している。
布地の薄さと輪郭から、……おそらく日本人には珍しいロケット型だろう。
Eだろうか? 薄布をプレス加工品の如く突き上げる輪郭から、形としてはかなり大きく、美しいであろう事を、布の下から喧伝している。
下は奔放なJKギャルのようなホットパンツ。
野性の獣のような美脚がスラリと伸び、一番最初から履いているサンダルまで、男を誘惑するように眩い肉体美を晒していた。
「……あの? どう、かな?」
「ふむ……中々似合っているぞ」
「そうかい?」
「ああ……にしても、結構軽装なんだな?」
あの長チュニックの時から、躰が肉感的だったせいかもしれないが、とにかく性的に目立つ格好だった。
普通、この世界の人間は――特に女性は、こうも素肌を晒すような服は選ばない。
農民であろうとも市民階級であろうとも、貴族や王族だろうが、この時代、世界の女性は基本、ロングスカートを貫いている。元の世界でも、昔の欧州では素足を晒すのは絶対にNGだったが、それに近いのだ。
よってそんな価値観を粉砕したココ・シャネルのファッションセンスは偉大なのである。
「んぅ? そうかい?」
「ああ……普通の一般人はそこまで素肌を晒すような服は着ないからな。冒険者だって、普段着でそういうのを着ているのは珍しいし」
「まぁ、そうだね……私達獣人、特に犬系とか狼系は、動きやすい服装を好むからね」
「ふぅぅー~ん……」
ならば何故そんな破廉恥の一歩手前な服が、こんな一般的な店にあるかというと……たぶん獣人系の冒険者のために用意してあるのだろう。
マリエンブルクの冒険者ギルドに登録している冒険者には、少ないが獣人もいる。
そう森人は推察した。
「それで……大丈夫なのかい? 値段的に?」
「ああ、そういったのは大丈夫だ。値札を見たが、大丈夫な金額だったし……俺の故郷では女の服は、男が払うものだと相場は決まっているしな」
特に自分の女ならば、な――そう言ってやれば、レイナの顔は急に赤くなった。
照れている……だけではない事は解る。
残念だが、出費分はしっかりと元を取る方だぞ、俺は。
「それで? その服装で俺の狩猟生活を共にするつもりか?」
「ああ。そうだよ」
大丈夫なのか? そんな軽装で? 枝葉とか、藪とか?
そうした言葉が表情に出てしまったらしい。レイナはちょっと照れるように説明する。
「今着ているのを基本に、皮革系の衣類で纏めたり、防具を揃えたいから、山の中を走り回る程度は大丈夫だよ」
「そうか。なら俺が気にする事は無いな」
「その……モリト?」慣れてないのか恥ずかしそうだ。「モリトはこの近辺の山で狩猟をしたり、冒険者の活動とかをしたりするんだよね?」
「ああ、そうだぞ」
「得物は、今も肩から吊っている銃で、合ってる?」
「そうだ。この滑腔銃が俺の主力武器さ」
《星明り商会》でも、血潮の林檎亭でも、今この店でも手放さず、傍に置き続ける銃をレイナは珍しそうに見ていく。
「……そうかい。分かったよ。じゃあ、私もそれを念頭に色々考えたり揃えたりするさ」
「それでいいぞ」
試着室の個室から姿を現した獣人の美少女に、店内の客の視線が釘付けだ。
長く伸びた蓬髪は彼女の自然な奔放さを表し、ノースリーブから窺える滑らかな肩のラインと、丸見えな肩から背中への曲線がレイナの『女』としての魅力を喧伝している。
特にスラリとした細身ながら、凶悪な程豊満な双丘と臀部の引き締まった魅力とかが男達から欲望の視線を招集していく。
薄着なため浮かび上がってしまう、引き締まった腹部から続く柳腰へのラインもまた、レイナの野生の獣のような美しさを強調している。
だが女達は違う。
人類とは違う、肌を露出した服装と、それを着こなす若さと美貌。それらが嫉妬の怨念となって、彼女達の基準では〝はしたない〟服装の獣人少女へ嫉視が集まっていく。
情欲と蔑みの視線を背中で感じたのか、頭上の三角犬耳が少しピクピクと震えた。他人の視線に敏感な森人もまた、店内の〝空気〟を肌で感じ取っている。
気に入らなかった。
自分の奴隷を舐め回す男勢も、嫉妬から蔑みへと自らを貶める女達も。
そしてそんな周囲へ同調するように肩を小さくしているこの獣人も。
むろんレイナにも同情出来る……だって事実、彼女の年齢時の己も同じスタイルを採っていたからだ。
あの革新系の醜女の糞教師、野田冬生が自分の感情を優先し、権力闘争も兼ねて森人と、その祖父を貶めていた当時。
単なる高校生に何が出来ると? 実態は嵐が過ぎ去るまで耐えなければならなかった。学校に通うために。生活を維持するために。卒業後の将来のために。あの社会改革主義者が自己満足と権力闘争による、偽装された『善意』の活動をした結果、森人と祖父は欧州におけるユダヤ人的ポジションを務めるようになってしまった。
高校でも、住んでいる地区でも、誰だって正義を求めているし、悪も求めている。
正義の御旗を掲げれば気分は良くなるし、悪に対しては日ごろの不満やストレスのはけ口へ利用出来るからだ。
つまり、あの愚かで愚かで愚かなアメリカ人がロバート・リー将軍の銅像を、黒人差別と奴隷制の象徴にして悦に浸っているのと同じコト。
そしてその善悪両方を兼ねる存在を野田冬生が提供してしまった。
罵倒の嵐が生活を滅茶苦茶にしてしまったし、学校では虐めが横行した。子供は純粋だ。よって水に落ちた犬は打て、の精神によって、森人の高校生活は忍耐と屈辱の日々になってしまった。
そんな日々を森人は耐えるしかなかった――それしか方法が存在しないからだ。
普通の一高校生に一体何が出来ると?
選択肢が限られているため、受動的な対応しか無理だ。
勿論激烈な反応も可能だ……我慢をやめてしまえばいい。自らの獣のような感情を解き放ち、獣性の赴くままに暴れてしまえばいい。
だがそれは嫌だった。あの野田の糞婆の掲げる『善意と正義』が正しい事になってしまうからだ。これでは敗北だ。嫌だ。
だからといって自殺はもっと嫌いだ。森人にとって自殺者は、特に虐めの場合、褒められる殉教者ではなく、悲惨な被害者でもなく、単なる負け犬に過ぎない。
それなら家からカッターナイフを持ち出し校内で暴れた方がまだマシだろう。
自己満足の死や栄光ある敗北よりも、惨めな勝利の方が価値があると考えているタイプなのである(こうした思考パターンはむしろテロリストに近いのだが)。
虐めで自殺するなど、自ら『敗北者』になりたがるようなモノだ。自殺など単なる自己満足でしかなく、虐める相手への愚かな敗北宣言でしかない。
狩野森人にとって、そんな奴こそ本当の意味で『生きるに値しない命』なのだ。
ならば耐えて生き抜いてこそ、本当の勝利である――そう高校生だった森人は信じているのだ。
よって自殺は論外。感情を解き放つのも単に冬生を喜ばすだけ。だから耐える日々が続いた。
そしてこのファンタジーな異世界に蘇生され、耐える必要が無くなった。
耐えなくても生きていける。感情を開放しても将来に影響は及ぼさない。
文字通り、完璧に、自由になった。
そしてそうした事実は、今まで彼と共に歩んで来た――つまり虐める日々を送ってきた者も理解していた。
自分達が人の姿をした獣を生み出してしまった事を。
そしてその獣が自分達に遠慮など欠片すら抱いていないと。
決断しなければ――俺達に明日は無い。
そうした決然とした現実の結果、狩野森人は現在元クラスメイト達とは離れて生活しているし、交わるつもりも毛頭ない。
そして、だからこそ、レイナを自分の奴隷として購入した。
気に入らねェなァ……今のレイナを見ていると、昔の自分を想起してしまう。
あの当時は、アレしか方法がなかっとはいえ、だからといって進んで肯定するような日々でもない。
何より、ちょっとムカついた(←それが重要だったりする)。
「あっ」
何ら相談も声もかけずに、レイナの肩へ手を伸ばした。
そのまま肩を掴み自分の方へ抱き寄せる。
ノースリーブのため素肌の感触がモロに伝わってくる。滑らかさと肌の柔らかさと温かさがささくれた心を癒していきそうだ。
周辺の男女がちょっとザワついたが、フン! 今の森人にとっては雑音でしかない。
不満と羞恥の混じった紅潮した顔が、森人を見詰めてくる。
だが森人はレイナのご主人様であり、レイナは森人の奴隷なのだ。視線の直訴を手を滑らせる事で黙殺する。
「……少し、気後れし過ぎだ」
掌が肩から背中を、そして腰の括れへと撫でていく。
「お前は俺の奴隷で、俺の女だ。ならば……もう少し堂々としていろ。自分を貶めるのではなく、相手を見下してやれ」
腹へ腕を回し、結婚式場より花嫁を強奪する怪盗紳士のように抱き締めてやると、レイナがちょっと可愛い反応をした。
うぅぅ……これ以上は下半身に反応がきてしまう。自重。自重。
「……それは……ご主人様、としての命令、かい……?」
「………そうだ」
最後に生地越しに臀部を揉んでやると、実に欲情的にブルッと震えた。
それに対してレイナがどんな反応を示したのか、森人は分からない。
見ていないし、彼女へ視線を向ける事が出来なかったからだ。
ただ、そのまままるで恋人同士のように密着したまま、お会計を済ませる所まで進めたが。
ニヤニヤニヤニヤニヤ……。
○服飾と性と露出について
作中でも触れてましたが。
欧州世界では長い間、『胸の谷間を晒す』よりも『素足を晒す方』がより卑猥なイメージがあったのです。実際に夜の街角にたたずむ夜鷹――娼婦さん達に男は、胸元を開いているよりも、スカートをワザと裂いて作ったスラッシュよりチラチラ見える素足の方に興奮していたとか。
もちろん、普通の一般女性は胸元なんて晒す事はありませんけどね。
多くの時代で、足首まで隠れるロングスカートタイプが基本で、そこから少し上がるだけで普通の一般人は『はしたない』と感じてしまうのだとか。
よって農村の泥作業でも、彼女達はスカートを捲らずに、裾が泥まみれになりながらもお構いなしに畑で働いたと。そんな時代・風習なので、古代ローマ・ギリシャ世界の服装は完全にアウトです。
驚く事にそうした風俗・風習はフランス革命まで続きます。革命時でも、革命精神にあふれた都市の女性は、スカートの裾を膝まで上げてました――何という事でしょう!
これこそ、自分を縛り付ける既存の社会のしがらみからの解放なのです。今風でいう所の、『パンク系』なのです。しかしそれ以上は進みませんでしたし、革命熱が冷めて社会が安定してくると、スカートの長さは元に戻ったか、元より少し上がった程度に落ち着いたそうです。
ところで読者の皆さん! RPGで切れ目の多い露出度の高い服装の魔女・魔法使いを目にしても、まずは娼婦だと思ってはいけませんよ!(笑)
さてさて、結局何が言いたいかという……。
歴史モノであんなミニスカな女戦士なんていねーんだよ! チクショォォーー!!
アウトだろ! アウトだろ! あんな格好! 防御力ゼロじゃないかぁっ! それなのになァーにィが『中世風』だ! このやろぉぉぉぉ!
――ゴホン!(失礼しました)
よってファンタジー戦記系で、ヒロインの露出度を高める設定には苦労します。
っていうか、ミニスカな女騎士なんてどうやって出せばいいんだよぉぉぉぉ!