第四話:奴隷姉妹
連続投稿最終話!
次回は八月の上半期を予定しています。
このクズ野郎!
あの故郷の草原から引き離されて、もうどれだけ経っただろう?
『彼女』には判らなかった。
この闇の世界に送り込まれて以降、外の景色は見ていないからだ。
奴隷として連れてこられ。
荷物として置かれている。
壁には仄かな明かりを放つランプがある程度。
しかし元より視力の高い彼女達ならば、十分だった。
まるで動物園の檻の中。
そんな檻の世界が彼女達以外は三つもあった。
寒い。凍える、という程ではないが、ただいるだけの世界でこの冷気はつらい。
しかし主人には健康面を気遣う心があるのだろう。
あるいは商品として、価値を減らさせないためかもしれないが。
檻の中には人数分の、毛織物の防寒用の長布がある。
マントのように羽織ってもいいし、布団のようにかけてもいい。
そんな闇の世界に飽き飽きしていた時だ。
――ギン、という金属音。
そしてリズムよく聞こえる足音。複数。しかも一つは初めて耳にする音だ。
誰かが上の階より、階段を下りて来たのだ。
そうした予想を裏付けるように、階段の奥より灯りが強くなっていく。
そうして現れた男が二人。
一人は以前見た事のある男――確かアベルとかいう、商会長。
もう一人は初見だった。
草色のフード付きポンチョを纏った人間。
二〇代。男。
この辺りでは珍しい黒髪。それも黒曜石のように鋭く、妖しく光る。
だがそれ以上に鋭く、怖気を背筋に走らせるのはあの眼光。
何かに――怨霊とか――憑りつかれているのか、どこか所在無さげな双眸。
だが同時にあれは復讐者の瞳だ。
肉食獣のような、周りの全てを喰らい、殺す事しか考えていないギラギラな眼光。
今まで『彼女』を見てきた者は、憐憫、諦め、欲情と、種々雑多な視線があった。
妹と首輪と鎖のコンボで繋がれているのを見咎めた女性は、憐れみを。
同じ獣の耳をした獣人男性は、諦めを――その直後、見ないよう視線を外す。
デップリとした腹や、傲慢そうな人間の男は、かなり過激に見てきた。
薄布を浮き上がらせた胸と、浮かんだ陰影とのコントラストを。
獣のように挑戦的な、ナイフのような鋭い美貌を。
腰の丸みと、裾から生えるように伸びた尻尾。尻尾を動かすたびに、僅かにだが裾から見えてしまう素肌部分とか。
そうした美質をどう穢し、どう楽しもうかと。
そんな欲望が透けて見えるくらい、濃くて、ネチネチした視線。
だがこの目の前の男からはそうした粘つくようなモノは感じ取れなかった。
まるで自分を『物』としか見ていないのは同じだが。
今までのとは違う、別種の値踏みするような眼光が上から下まで、じっくりと。
それに強い匂いを感じた……体臭ではない。懐かしい草と森と地面の臭いだ。
どうしてだか、望郷の念が胸を突く。
そうした匂いと眼光がそうさせたのか、彼女は男を強く見上げていく。
《星明り商会》の地下へと続く階段を下りていく。
一階の人目に付かない、階層の角の倉庫室へ巧妙に隠された鍵穴へ、アベルが持ち歩いている鍵束から一本取りだして開錠。
まるで地下への迷宮へ挑む勇者パーティーの如く、巧妙に隠されていた地下への階段を下りて行った。
寒い。
床も壁も石製で、ほんのりと湿っている。確か商会は川の近くに建っていたはずだ。……どうやって水漏れを防いでいるのか興味が湧く。
「モリト様、下は滑りやすくなっておりますので、ご注意ください」
商会長ご自身がわざわざ案内しているのだ。結構重要拠点なのかもしれない。
奈落のような階段の一番上。そこの壁には壁龕のような窪みがあり、明かり用のランタンが安置されていた。
そのランタンは今はアベルの手にある。
人の魂を地獄へ連れて行く獄卒のように、ランタンの仄かな明かりが照らすアベルはどことなく不気味だ。
そうして下りる事五分。
広い空間に到達した。
石室のような上下左右、全てが石造りの世界。
物置らしい地下の空間。その一角には牢獄が四つある。
まるで動物園の檻のように、欄干と木板で区切られた部屋とは一体化されていない檻が四つ。一つは空で、一つは人間の男が二人。一つは獣人――たぶん猫系――の屈強そうな男が一人。そして最後の一つが目的のブツなのだろう。
(……確かにアベルが進めるだけはあるな……)
その檻には二人の獣人がいた。どちらも女性。一人は豊満な肉体美の少女で、おそらく高校生くらい。もう一人は小学生くらいだろう。
そんな二人は肩を密着させ、そろって腰を落としこっちを見詰めていた。
そのどちらもとびきりの美貌を有している。
顔形が似ているので、姉妹、ないし血縁や親類なのは間違いない。
他、二人が似ているのは、向日葵のような濃い金髪に、満月のような金の瞳、そして白皙の肌……とまではいかないも、農作業で程よく日焼けした健康そうな肌。
それと頭上でピクピクと興味深く動く、三角形の犬耳とふっさりとした尻尾くらいか。
だが姉の方は金髪を腰辺りまで伸ばし、手入れのないボサボサな蓬髪にしている。切れ味鋭いナイフのような鋭さに、精悍な狼のような野性味の濃さが、絶妙の塩梅でブレンドされたような顔貌。
それはまるで獲物をじっと観察する、ハンターとしての能力を垣間見せる狼のように、森人を見上げている。
(……ふむ……中々良い面構えだな……繋がれても誇りは失せず、か)
着ているのはボロの白チュニック。ちょっとしたワンピースのように、臀部を隠せるほどしかない。
そんな麻布を持ち上げる、胸部の凶悪そうな膨らみに、高い山脈の下に出来た山陰は、男の秘めた劣情を刺激する。
そうした劣情の虜囚にならぬよう、細心の注意を払いながら視線を横へ。
情欲的な姉に対して、妹の方はまるで真逆だ。
幼い年齢だから仕方がないだろうが、チュニックは完璧なツルペタ。しかし姉の肉体的な健康美を継承しているのか、細い手足と引き締まった筋肉などは、侮れない美しさを秘めている。意外と訴求力があるな。
狼のような野性味のある精悍さの姉と比べ、こっちは……闘犬だな。
スポーティー、というか、ボーイッシュというか、短くカットされた髪はまるで少年のようだ。正直最初に〝姉妹〟と知らされてなかったら、弟と間違えたかも。
そんな上杉謙信好みの美少年めいた美貌を、ガルルルッ、と吠えるように歪ませている。今すぐにでも檻から飛び出し、襲いかからんばかりに。
その迫力に、一歩下りそうになりそうだが心を奮い立たせて堪える。
「……で、アベルさんよ。こちらがお宅がお勧めにした姉妹か?」
その言葉に、二人はピクッと頭上の耳を強く反応させる。
「はい。そうなりますね、モリト様。……こちらの大きい方が姉のレイナ。バンホール氏族出身。小さい方が……妹のえぇっと……お名前、なんでしたっけ?」
アベルが典雅な笑みで姉妹を見詰めると、闘犬のように吠えそうだった妹が、観念したのか、苦々しそうに口を開けた。
「……わ、いや……俺の名前はレオナ。姉さんからはよくレオって呼ばれてる……アンタが、その、俺達を買うのか?」
「……(ふむ……俺っ子で、名字持ち、か……)」
レオナ、改めレオ君は油断なくこちらを見詰め続けた。
普通、この世界の一般的な人々に名字は無い。
大多数の農民で、良くて自分の住んでいる村名だとか地名を付ける程度。それでも本格的な名字ではない。どちらかというとニックネーム感覚で使っている感じ。
それに対して人間以外の《亜人種》では、名字持ちが圧倒的に多い。
それはこの世界の亜人種は氏族社会を構成しており、必ず自身の出自を示す名字を持っている。持っていないのは何かしらの理由で氏族から離脱したか、犯罪奴隷であるくらいだ。
自主的な追放か、それとも氏族社会に迷惑をかけないために名乗らないとか。
エルフやドワーフ、それに各種獣人と、彼らはトーテムのような個別の名字を家紋のように誇らしげに所持している。
まぁ、そうであるがゆえに、人間と違い他種族社会を構成している闇の勢力よりも、なおもまとわりの悪い社会を構成しているがため、例え個別の氏族が強かろうとも、色々と確固撃破されてしまう事が多いが。
(皮肉な話だよな……獣人は人間よりも強いがために氏族性を、個を重視しすぎたがために狩られ、奴隷身分に堕とされる事が多いだなんて……)
そもそも、本来は獣人は人間側と同盟を組んでいるはずだ。
戦争では魔族に対抗するため、共に轡を並べていたはず。
しかし元の世界の人類がそうであったように、一度自分達より劣勢に陥った異種族を同等に扱うような精神構造は、残念だが、こっちの人間にも無い。
だが獣人社会から、同族が奴隷になれば文句が出たり、付いたりするのは普通に考えられるだろう。彼らは日本人ではないのだ。例えば同胞がテロリストに拉致されたり、殺された場合、『自己責任、誘拐される方が悪い』だの『そもそもあんな治安の悪い所に行く方が間違っている』などと被害者や遺族を苦しめるような発言が平気で出るような国の方が異常なのだ(それで被害者救出には他国頼みだし)。
しかし、その肝心の獣人社会は、日本よりも同胞意識が低ければもうお手上げ。
半島の北半分、自称『この世の楽園』な似非民主国家に国民が複数誘拐され、その解決のために半島に赴き、晩餐会参加、談話、帰国後、仲良くすれば彼らは帰ってくると平気で口にする議員バッジ保持者よりもタチが悪いのが現状である。
獣人社会といっても、その名実は往時のネイティブアメリカンと同レベル。
犬・狼系獣人、猫・虎系獣人、貒系、猿系、鳥系とその種族総数は多彩。そうであるがゆえに、その下の各種族の各氏族数もまた膨大な数に上る。
例えば犬系と狼系の獣人の仲が悪かった場合、双方の種族出身の各氏族は困難に対して一致団結する事は〝無い!〟
例え自分達のテリトリーのすぐ隣がどちらかの種族の氏族テリトリーだった場合、その隣のテリトリーが余所の勢力――人間だとか魔族とか――から襲撃を受けていたら、普通は、『次は俺達なのかもしれない』と思うだろう?
ならば往事の垣根を越えて一致団結しよう!
そうした思考パターンが完全に欠落しているのだ。
むしろその混乱を利用して逆に侵攻したりとか、平気でする。
森人が冒険者業をしていた時、メンバーに他種族他氏族の獣人がいた時など、かなり険悪だったのだ。情報を余所の冒険者パーティーや魔族側に流すなどまだ可愛い方。
時には暗殺に手を染めたり、もっと酷い時にはパーティーメンバーごと罠に嵌めたり、強力なモンスターとの対決中に遁走、モンスターの攻撃に見せかけて殺害とか。
連中はそうした事を平気でする。
そもそも、獣人の『国家』は無い。
彼らはとりあえず纏まっただけの『集団』が、人間の支配域と重なっているのだ。
そして人間本来の差別感情が、獣人を見下して、彼らのテリトリーを犯して奴隷狩りに赴けば、驚く事に敵対する種族氏族連中から情報が入ってくる事が多い。
人間側だって、魔族と大戦争を繰り広げていた時、しかも敗色が濃厚になってきた時は、同族同胞を売り飛ばしてでも保身に走る奴らが少なからずいた。
だがそれは一族や個人を護るための、緊急回避的な事が多い(売国奴なのは変わらないが)。
しかし獣人社会はそれを種族氏族単位でするのだから……頭が痛くなる。
それも自分の勢力を高めるためだとか、同氏族から自分に反抗的な者に対して行うなど、後先考えない事が圧倒的に多かった入りする。
例えば、Aグループを改革しようとしたり、団結するためにBグループと同盟を組もうとしたり、そうした改革者が狙われる事が多々あった。
その場合、批判された側は、例えそれが『正しい事』だと理解していても、いや、理解したくないからこそ、自分の支配するグループからの排除を画策する。
何故なら認めてしまえば、それは自分が誤っていた事も認めるから。
特に多くの獣人がプライドの高い連中なので、過ちを認めるくらいなら、結果としてグループに甚大な被害が及ぼうとも、『結果』を無視して暴走する。
『日本人は(戦時に)殺す覚悟よりも、殺される覚悟をするべきだ』と唱える大馬鹿者が種族氏族のトップを務めていると思えばいい。
一応、獣人社会でも、各種族の代表が集まった『中央会議』的な組織……というか、集まりだとか、集会みたいなモノはある。
が、集まってみれば、『お前の氏族がトップだなんて認めない』と、同じ種族から代表者が二氏族現れたり。
逆にライバルを消すチャンスだと暗殺合戦を繰り広げたり。
いざ議題が始まっても、『人間社会からの奴隷獲得を目指した侵攻』に対しての議題が、最終的に喧々諤々の罵倒と怒号合戦に終始すれば、なすすべはない。
森人の見立てでは……むしろ奴隷身分に堕とされて、獣人社会から放逐された者の方が、より一般的な意味でマトモだったりする。
(さてさて、であれば……この姉妹はどの程度、マトモであるか?)
いくら能力が高かろうと、一個人として阿呆の極みであれば、厄介事の種でしかない。
森人はレオ君の発言を無視するように、姉のレイナを見詰めた。
「……さて、レイナ、といったな……檻から腕を出してみろ」
「……」
レイナの金色の瞳が訝しそうに光る。しかし観念したのか――奴隷の主であるアベルが命じれば同じだからだ――檻より腕を出す。
「少し、触っても、見ていいか?」
「いいですよ。どうぞご自身の眼力で納得してみてください」
アベルの許可を受けて、突き出された腕を触っていく。
「片腕だけではない、両腕だ。掌を上にしておけ」
言われたとおりにするレイナ。
その滑らかな女性の腕を握ってみる。男とは違う柔らかな感触。そうであるも戦士として鍛えられているのか、筋肉の付きが良かった。
掌の硬さや肉刺の具合を確かめ、彼女の戦士としての具合を勘定する。
「ふむ……中々良い掌だ。単なる村娘ではなく、戦士としても使えるな」
「モリト様。元来獣人種というのは、身体能力に優れております」
アベルは高級家具をお勧めする店員のように、身振り手振りで説明し始めた。
「その中でも犬や狼系の獣人は、元の優れた膂力以外に、人間としての手足の汎用性と、聴覚や嗅覚もまた、犬や狼のように突出しております。獲物を探査するだけではなく、追跡したり、獲物の動きを止める事も十分に活躍してくれます」
アベルの白手袋に包まれた手先が、レイナの髪や三角犬耳を触っていく。
柴犬のような、ピンと立った三角耳を撫でた瞬間、レイナの豊満な肉体がブルッと……実に劣情を覚えさせるように妖しく震えたのだ。
そんな彼女を無性に撫でたくなる。
犬のようにあの耳をナデナデし、尻尾を愛で、あの肉体を男として貪りたくなる……やっぱり歴戦の商売人は上手だな。
「そして彼女達は、実は、犬系ではなく狼系の獣人です」
「ほぉぉ~う……」少し興味があるように呟いた。
「犬系の獣人と比べて、狼系は野趣な趣がある分、野性的で、戦力としても、護衛としても、猟犬としても、その能力はヘタな犬系獣人よりは保障されております。あぁ、勿論……情人としても、その能力は高いですぞ」
ムスー! と鼻の下が伸びそうになるのを堪えるのにこれ程疲れるとは!
だが全てはお見通しなのだろう……少し苦笑しながらアベルは胸に手を当て腰を折る。
「気に入られたようで、当商会も苦労して仕入れたかいがあるというものです。そしてバンホール氏族は狼系獣人社会の中では、質的な高さとしての名家としても有名なのです」
吸血鬼は檻に腕を突き刺し、レイナの臀部をポンと叩いた。
元から調教されているのか、それもと賢いのか、レイナは一歩前へ。
柔らかな胸が檻に圧迫され……より『囚われた名家の令嬢』さが強調される。
「それと彼女は夜伽相手としても使えますし、ご自身が連れて歩く【獣闘士】としても中々の存在です」
「……で、値段は?」
直球で聞いてやった。
嫌われる質問の仕方かもしれないが、お互いの関係なら別にいいだろう。
現にアベルはニコッと、老執事が困った主に接したように微笑んだ。
「中央金貨で四〇枚……で、どうでしょうか?」
「金貨四〇枚は大金だな」
「値引きして、この値段ですので。それに……これ程の上玉ならば、まだ安い方では? それに二人分の合計でその値段ですよ」
つまり、二人纏めて買ってくれるならその値段だよ、というわけか。
「姉の方はモリト様の好みでしょうし……妹の方も、あと数年待てば、実に〝美味しく〟なるでしょう」
アベルの商売トークに、妹の方がビクッと耳を震わせるなど強く反応した。
直後、再びガルルルルッと闘犬モードになってしまう。
確かに妹の方はまだ〝可愛いい〟年齢だが、姉の方があの美貌なのだ……数年待てば、実に肉感的な躰に成長する可能性は高いだろうし、姉妹丼も楽しめるかもしれない。
……俺にJSや、JCと楽しむ趣味はないし。
アレほどの美貌の姉妹を、値引きされた金額で、金貨四〇枚ならば、安いのかもしれないな……将来性を考えるなら、良い買い物なのかもしれない。
しかし妹の方がモノになるまで、その扶養はコチラがしなくては……食費に人頭税、諸々の税金など、必要な金額はかなりかかりそう。
数年後の姉妹丼を楽しむだけにしては、……かなり割に合わないかも。
(……そういえば、知り合いが従業員を募集していたな……ならば妹の方は成人するまでそっちに押し付ければいいか)
口に手を当て、考えるポーズをとる……その下ではニンマリと、口角を獰猛に上げていた。
だがそこで姉の方の視線が目に留まった。
妹を案ずる不安げな眼差しと、森人を敵視する強い自負と誇りの堅い眼光が。
レオ君をどうこうするよりも、先にレイナを屈服させねばならないようだ。
彼女は猟犬ならぬ猟狼として働かせるためには、主人が誰であるか、しっかりとその心身に刻む必要があるだろう。
ふむ……絶対に必要だな……主人に反抗する犬は必要ありません。
「姉の方を……レイナを檻から出して、直に見て触って、確認してもいいか?」
「はい。既に《奴隷契約》で隷属されておりますので、檻から出しても大丈夫です」
アベルは鍵束より一本の鍵を手品師のように取り出して、ガチャガチャと弄って……檻より挑戦的な眼光の姉を出す。
「ほら、レイナ、出なさい……妹のレオナはそのままだ」
主人の言葉に、本人の意志とは関係なく体を動かされていくのか、二人はしぶしぶ従っていく。
レイナのちょっとした抵抗感もまた、見ていて、あの壁に押し付けて今すぐにGO姦したくなる……が、我慢だ我慢……。
「さて、レイナ。君は戦闘力は高い方か?」
「はい。専門の鍛練を積んでおりましたので、軽く齧った程度とは違って、戦いにはご活躍出来るかと」
「そうか……では狩猟とかには経験があるか?」
「はい。昔、父に連れられて狩りに参加した事も、実際に獲物を獲った事もあります」
ちょっとした面接官風に訊いてみた。
勿論商会長たるアベルがアレコレ事前に言っていた事を信用していないわけではない。実際にレイナは単なる綺麗なだけの美人ではなく、身体能力に優れた戦士にして狩人である事は、その筋肉の付き方や所作から判別出来る。
ただ……ちょっと返答が事務的すぎない?
まるで機械を面接しているような気分だ。
勿論、彼女が……個人としても猟犬としても、まだ森人を主人として認めていないからだ。
そんな空気や思惑が、視線となってビンビンと伝わってくる。
だが、ここで退いては駄目だ。
遠慮したり、後から信頼関係を築けばいいやとか、これから彼女をもっと愛していけば、とか思っては駄目だ。
まず、それでは舐められる。主人としても、男としても。
ならば最初から少し強引に進んでもいいだろう。
必要なのは、この女を雌として屈服させる事なのだから。
「……そうか。では、レイナ、ちょっとこっちに来てくれ」
「……?」
掌で『こっちへ来い』とジェスチャーしてやると、しぶしぶといった感じでレイナは指定された部屋の隅へ来る。
その際左右に揺れた尻尾に猛烈な愛着が湧いたがグゥッと堪え――。
二人がいた檻からは、置かれた箱で壁になって見えない位置に姉を誘導すると、いきなり、その大きな木箱に彼女を押し当てた。
「――っ!」
「奴隷身分にしては、ちょっと態度が悪いんじゃないの? お前?」
驚くレイナの耳元へ口を当て、壁に反響させないよう極小の声で強めに言ってやる。気分は人妻の不倫ネタをダシに脅す脅迫者だ!
堪らずキィッ――と睨みながらレイナは肩を掴む腕を引き剥がそうとする。
だが木箱へ釘を打ち込むように、彼女を押し付けた腕はビクともしない。
アベルは何も言ってこないので、別にOKなのだろう。触ってもいい、と言ってたし。
「無駄な事はするな。奴隷契約で、お前達姉妹は暴れる事も、反抗も封じられてるんだぞ」
「……突然……藪から棒になにするんだい」
初めて〝素〟の感情を滲ませた声と視線に、股間に反応がきそうだ。
レイナの言葉と感情を無視するように、強者の余裕を浴びせながら、より体同士を密着させていく。
やはり普通の女性よりも筋肉質だった。背は高い方だし、生地越しに密着し潰れた弾力性抜群な胸の感触は極上だ。しな垂れるように密着した森人を、自由ではない腕の代わりに押し返そうとしてくる。
股間への反応がいよいよ誤魔化し出来ないレベルになってきた。
なので右膝を彼女の股の間へ侵入させる。
まるで本当のGO姦魔みたいだな――外見的に。
直後にレイナの女体全体がビクッと、怯えたように震えたのは、年相応の少女みたいで可愛いと思ってしまう。
「……あんまり態度悪いと、買うの、やめちゃうぞ」
「……やめたら、いいじゃない」
うっわぁー、そう言う。言っちゃう。
挑発的な視線と言葉に、ムラムラとSの欲望が湧いてきた。
「やめたら、お前達〝姉妹〟はどうなると思う」
妹を持ち出され――姉の美貌に暗さがトッピングした。
うん。圧倒的強者で弱者へ接するのって楽しいな♪
「俺は紳士的な提案を今からするつもりなんだが」
「……この状況の……どこが紳士的なんだい……」
「……まあ、待て……俺の元々の用があるのは、レイナ、お前だ」
「………」
「正直、妹の方はどうでもいいんだよ。ただ、お前を買うなら、セットで妹が付属するだけだ。そしてそれしか、お前を購入する条件がないんだ。だから、俺的に、レオナの事はどうでもいい……」
「…………」
レイナの視線が横へ逃げた。
うふふふふははははっ……どうやら自分が弱者だと認めたな!
「で、だ。レイナ。もし俺がお前達を買わなかったら、お前達は今後どうなると思う。二人は引き剥がされるかもしれないし、逆により悲惨な目に遭うかもしれないぞ……妹も」
「……レオも、面倒を見てくれるのかい……?」
「それはお前しだいだな」
今、彼女には俺が悪魔のように映っているのだろう。あぁ、KAIKAN!
「この世の中には、豊満ボディーよりも、子供のツルペタな体に興味がある奴はわんさかいるぞ。特に幼ければ幼い程、イイって奴が」
特に有名なのが旧ソビエトのベリヤ先生だろう。あの鬼畜極悪最悪ロリコン。
アイツに比べたらヒムラーなど紳士だ。少なくともヒムラーは少女……というか幼女を誘拐して性的に弄んだあと殺したりはしない(むしろ愛人のために自分名義で借金までしたほどだ)。
森人の言葉に目に見える形で、レイナに怯えと不安が現れ出す。
あの金貨のような瞳に恐怖が滲んでいくさまは、夜のオカズに最適だ。
「よく考えろ……世の変態共に買われた、あの可愛い妹の末路を……想像出来たか」
「……」
想像出来たのか、悔しそうだ。
「あの幼い体が、夜ごと男達に弄ばれる姿を。まだ未成熟なボディーが、極上の馳走として夜の饗宴に供される姿を。男達の肉槍で開発される姿を。三つある穴を、あの幼い体を、女として開発され開かれ穢される姿を」
「……~~」
悔しそうに唇を噛み締める姉。血が出そうだ。
だが金の双眸に涙が出そうな感じがする……もう少しだな。
「幼い肉体が、男共のドロドロした白濁液で内も外もベッタリとなる姿を。ゲラゲラと嘲られながらも、必死に媚びて爪先に口付けをする妹の姿を。それに、姉であるレイナもまた、無事ではないぞ」
「――っ」
可能であれば、今すぐにでも森人の首筋に噛み付き、頸動脈を裂いてその口を閉ざすのに――だが奴隷契約が全ての抵抗を防いでしまう。
四肢の力が、体の動きが、鎖で撒かれたように動かないばかりか……無抵抗からくる無力感が心までヘシ折ってしまいそうになる。
「やっぱり肉感的な豊満ボディーが貴ばれるのが世の倣い。なら、レイナの方がより多くの男から穢されるな。いいや、姉である事を利用して、妹をネタにもっと悲惨に弄ばれる」
「……アンタはどうなんだい?」
「俺はそこまで酷い事はしないさ」苦笑。「囚われた妹の前で、リンカンショーでも催されるかも……そこでお前は、妹の悲鳴を聞きながらボロボロになるまで犯され続けて、最後は約束を反故にされて仲良く姉妹纏めてオモチャになる……想像出来たか? そんな運命を?」
レイナはとにかく悔しそうに、苦痛を示すように、顔を歪ませていく。
本当にGO姦したくなった……買った後の自制心が保てれるだろうか?
「だが何より悲惨な事は、防ぐべきは、妹と引き剥がされて二度と会えない事ではないのか? だが安心しろ。俺はそんな事はしないし、ちゃんとした日常を送らせてやれるし、妹の未来も護ってやるよ」
ただし――と耳元で呟いて。
肩を押す右手を滑らせながら、脇の下を、胸へと移動させる。
そのまま猛禽類のように掴む。
「――っ!!」
レイナの金色の柳眉と三角犬耳が、恐怖を示すようにビクッと震えた。
怯えと絶望がスパイスされた、悲愴な眼差しが森人を貫く。
「……お前が俺の女になるなら、な」
ただ掴んでいるだけで、心がコンニャクのようにふにゃふにゃになりそうな気持ち良さだ。
見事な弾力に触り心地……。
絹布で銀食器を磨くように、掌を動かす。風で優しく揺れる布のように、柔らかく撫で、滑らせ、乳房の感触を堪能していくと、「……――ふぁ、ぁぁ……」刺激に反応してレイナの眉と耳がピクピクと動いた。
「さっきも言ったが、俺にとって、用があるのはレイナ、お前だけだ……」
耳の縁に睦言を交わすように口を近付け、吐息を吹きかけ、軽く――ハム。
「――ァ」
小さな震えた声。同時に甘い快感を感じていると教える響きだ。
ゆっくりと耳朶を唇で挟み、舌先で舐めてやる。
「俺は猟犬代わりに獣人が欲しくてこの商会に来たんだ。それも、性欲発散用も兼ねて、な……それにお前は最適なんだよ」
「……~~――ツ、この、クズ野郎っ!」
「せめて変態の方がいいんだが、な……で、どうだ」
肩を掴んでいたり、胸を揉んでいた手を滑らせ、レイナの女体の良さを撫でさする事で確認していく。
素肌の張りや弾力。腹部の引き締まり具合と筋肉の付き方。そして臀部へのラインの曲線や反発力とか。
動くたびにレイナは実に可愛らしい反応を見せてくれる。
「――ふぁ、あ、ぁぁ……ぁっ――んぅ、やぁ、ぁ、ぁ……」
腰から側面を通り、太腿へ、その内側へ親指が侵入した時など、キュゥッ、と全体が緊張に包まれたくらいだ。
「……で、どうなんだ? 俺の猟犬、兼情人になるのか?」
「……クズ野郎、クズ野郎、クズ野郎……ッ!」
「へ・ん・じ・は?」
尻尾をふわりと、そよ風のように撫でやった。
髪の毛とは違う、ふんわりとした手触り感はかなり気持ちいい。
その効果はてき面だ――レイナは口をパクパクさせ、必死に何かを耐えようとしていた。
「……何なら、今、この状況のお姉ちゃんを、妹に見せてやっても、いいんだぞ」
「――~~っく、この……」
悔しそうに両目を閉ざし、必死になって屈辱に耐えようとしていくお姉ちゃん。
そのまぶたの裏に移るのは、悪魔な森人か? それとも心配そうな顔を浮かべる妹か?
絶望と屈辱と憎悪が胸を侵食していくのが森人にも分かった。
過去、彼も同じような気持ちを抱いた事があるからだ。
さて、この女はどうかな?
ちょっと楽しむように見詰めていると、意を決したのか、雲から顔を出す満月のように、瞼が開いていく。
「……本当に、レオは、助けてくれるのかい?」
「ああ。保障しよう」
「……分かった……(ごめんなさい。お父さん。お母さん)……私は、貴方の女になってやるよ……」
自分がどれほどゲスな提案をしているのか。
自分がどれほど最低な男に成り下がっているのか。
判ってはいるが――それ以上の興奮と歓喜が魂を赫々させる。
「よろしい――ここに契約は結ばれた」
約定の証明だと、レイナの犬耳を甘噛みしてやる。
その時の漏れたレイナの声は、実に心に心地良く聞こえてくる響きだった。
(煩悩退散! 煩悩退散! 煩悩退散! 煩悩退散! 煩悩退散!)
かくして俺は、遂にレイナ・バンホールを奴隷として購入する事に踏み切ったのだった。
*主人公は鬼畜系かと思われますが、実際には女性には尽くす方ですよ。
感想待ってます。