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森の走者~奴隷と始めるスローライフ  作者: 永久恋愛
第一章:そうだ、奴隷を買おう!
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第三話:城塞都市《マリエンブルク》☆

密談を交わすいやらしい大人達。



 城塞都市《マリアの城マリエンブルク》は、フロリダ半島のような形状の半島、北東域に存在する《ノルトラント》で最大の辺境都市だ。

 狩野森人が主な拠点にしている村は、この都市の支配域に入っている。

 周辺を起伏のある森が覆い、北には人間の地域と、モンスターや凶悪な亜人などが蔓延る暗黒世界との境界線である、屏風山脈のような山嶺が連なっていた。


 地図の上では、【混沌と暴力の闇】の勢力が支配する北米大陸に似た巨大大陸と、人類側【光輝と法治の秩序】の勢力の最後の防衛拠点であるフロリダのような半島があったが、この半島、サイズ的にインド半島と同じような規模があるので、実際は土地面積的に十分な広さが確保されていた。


 実際問題、双方の正規軍が干戈を交えたのはもう一〇年以上昔の事らしい。

 それも隣国の亜人の国――エルフの王国で起きた内乱を利用して、双勢力が『鎮圧・沈静化』を旗印に自軍勢力下に併呑した時くらい、だと。

 それ以来事実上の民兵による、だらだらとした不正規戦が続けば厭戦気分も出るはずだ。


 マリエンブルクはそうした不正規戦の主体――『冒険者』と呼ばれる登録された無頼漢達の活動拠点の一つになっていた。

 数キロにも及ぶ城壁で外周を囲み、その外側を川の水を利用した水掘りが走っている。川は都市中心部を串刺しにするように走り、都市の貴重な水源だけではなく、水運など運送や移動にも一役買っていた。


 冒険者はこの都市や、周辺の村々を拠点に活動し、寝泊りし、依頼された案件を処理していく。

 初心者用の薬草採取や、都市地下の下水路に蔓延る害獣退治。

 山賊などからの隊商の護衛や、村の周辺の掃除(モンスター退治)。

 境界線たる山脈を越えて飛来した〝ドラゴン〟の駆除まで。

 それこそ村の柵の修理から病人の治療まで千差万別、種々雑多、色々ある。


 高さ二〇メートルの城壁の向こうは猥雑な活気に溢れていた。

 密集した家屋がオセロの駒のように並び。

 中心部には露天市場を兼ねた広場がぽっかりと口を開いている。


 城塞都市――というよりは〝要塞〟都市、と言うべき外見だ。

 日本人的には城郭都市に近いだろう(規模は日本の近世城郭よりも小さいが)。本来は都市の中心部に市庁舎である参事会堂や、都市のシンボルである大聖堂(カテドラル)が建設されているはずだがそれらは無く。

 逆に一角にさらなる城壁で囲まれた区画があり、そこには領主の館、兼市役所にして最後の防衛拠点として三階建ての天守(ドンジョン)と城館のような建物があった。

 その隣にはシンボルめいた高い尖塔の目立つ教会が建ち、さらに近くにはローマ建築に似た円柱の目立つ冒険者ギルドの辺境支部本館が並んでいる。



 狩野森人が足を運んでいるのは、残念ながらそちらではない。

 ちょうど反対側――中心部の川を挟んだ対岸に目立つ倉庫街。

 その区画に近い各商館が並んだ地区だ。


 冒険者登録をしている森人が、紛らわしいが、モンスターを狩り、その証拠としての切り取った部位を持っていく所は冒険者ギルド。逆に狩ったのが普通の動物ならば仲介業者を兼ねている商人のいる商館へと持参する必要があった。

 だが『食材』や『付加価値』としてのモンスターの場合は、商館ではなくギルドへと持っていく決まりとなっている。そこで専門の職人さんに解体されたり、皮や骨を加工されたりするのだ。


 そうした理由の他にも、個別の案件があったので普段から利用している商会――《星明り商会》へと赴いたのだが……。

「……モリト・カリヤ、さん……ですか……?」

 新人の受付のお姉さんが胡乱げな眼差しを向けてきます。

 本来ならば諸々の手続きを踏めば、もう商会長さんとアレコレ会話出来るのに、不躾な眼差しを向けてくるよ。


 ショートカットの怜悧な二〇代な受付嬢さん。

 クールな眼差しは普段は男達の心を逆にホットなモノにさせるだろうが、生憎と今の森人の心の中は極地の如く、だ。


「……商会長である、ワルドハイムさん、のお知り合い、との事ですが? 商会長とはどこでお知り合いに?」

「以前商会長が直卒する隊商を護衛する任に参加しており、その縁で知己を得る事になりました」

「……そうですか……」

 ジロリ――。


 あぁ……どうしよう。信じてくれないよぉー!

 言葉に詰まれば、考えるそぶりをみせれば、疑いは深まると思ってテキパキと流れるように言ったのに、それが仇となって『覚え込まされたテキストを読んでるみたい』と逆効果になったぞ!

 冷や汗を額からタラタラしながら、作り笑顔でクールな美人と向き合う。


 まぁ、それも今の自分ならば致し方ないか……そう思えてくる。

 フード付きの草色のポンチョ。

 その下は動きやすい革製の狩人衣装。

 両手のレザーグローブと両脚の各魔獣の革で作られた複合レザーブーツ。

 それらからは一週間近くの山での狩猟生活によって、草の汁に土汚れ、そして汗や垢といった体臭、獣の濃厚な臭いで、まぁ……色々な意味で『濃い』からだ。


 そんな人物が、雲の上の存在である商会長と面会を望んでいるなど、事情を知らない者からすれば分不相応に見えてしまうのも納得だ。

 まぁ、本心としては中指突き立てて『ファック』や『ナッツ』と叫びたいが。


 さて、困ったぞ……手詰まり感に陥っていたが、意外な所から助け舟がきた。

 目の前の彼女よりも勤務経験があり、森人の事を知っていた職員が『上』に連絡してくれたおかげで、屈強な衛兵に抓み出される心配はなくなったぞ!



 そうした前途多難を終えて、森人はティーカップに口を付ける。

 今いるのは五階建てと、都市内部でも結構大きな建物である《星明り商会》本館の四階だ。

 英国やアルプス地方のような、木組みの家。表通りに面した壁には、高価なガラス窓が飾られたトロフィーのように各層に並んでいる。


 四階は主に商会でも『上』の役職の者が商談を重ねたり、もしくは高額ながら小規模な商談をするために用いられる部分だ。当たり前だが、この世界にはエレベーターなどという文明の利器は存在しない。だからワザワザ〝上〟まで来るには、それ相当の理由や存在でなければならないのだ。


 窓から眺めるマリエンブルクの整った眺望と、より外に広がる大自然が美しい。

 座った個人同士が対談するための、小ぢんまりとしたソファーは中々だ。背中を預けた時の、沈み込むような感触は……気を付けないと眠気に襲われる。

 メイドさんが持って来てくれた、白磁のティーカップに口を付けた。


 花柄模様の高級品。指先で弾くと、まるで鐘のような硬質で澄んだ音が響く。

 注がれた紅茶は程よい香りで、芳香は脳や神経を休ませてくれる。ただ、個人的には紅茶よりも珈琲派なのだが、生憎と商館長の趣味なので我慢だ。


 そうしていると、重たい木製のドアが開き、吸血鬼が現れた。

「――モリト様。お待たせしてしまい、申し訳ございません」

 ダンディーな吸血鬼は深々と腰を曲げる。

「それに、このたびはコチラの職員の不手際で、御不快な思いをさせてしまい……不徳の致す所です」

 今後、しっかりと教育は施しておきます。そう言って自分を見詰める、まるで孫好きの好々爺な瞳の奥で光る、夜空の月のような冷たい眼光にゾクッときた。


「別に、俺もアポ無しで突然と訪ねた身だから。むしろ会ってくれたコッチの方が感謝するくらいだ」

「そうですか」ニコニコ。「私もモリト様と再びお会い出来て嬉しく思います」

 アベル・ワルドハイム。

 星明り商会の商会長で、吸血鬼――そうしたイメージの濃い男だ。


 中年と老人との中間に位置するような外見で、鼻や顎の下の髭は、ダンディーな顔貌を形作っている。

 整えられた髪型と、本人のダンディズム溢れる表情。そして漆黒の衣服は、どうしても『吸血鬼』という単語を強める。実際ドラキュラ伯爵だと紹介されれば、頷いてしまいそうだ。


 フロックという、燕尾服(テイルコート)の先祖である上着は、手厳しい紳士のようなイメージが強く、ボタンが二列(ダブルブレスト)の光沢のある黒い生地は単なる黒ではなく、どこか夜のような深さがあった。


 首には赤いクラヴァットが巻かれ、フロックの襟には桜の花弁のようなデザインのバッジが留められているのがオシャレだ。


 足はスマートという、脚の形にピッタリとフィットする黒ズボンが穿かれ、裾にはスティラップという平紐を取り付け、黒革靴の足裏に回してスマートがより細く見えるようにしていた。


 そうしたアベルと挨拶代わりにアレコレ雑談をする。

 冒険者ギルドの動向だとか、最近の国境線での活動だとか、モンスター被害とか。

 北の地方であるノルトラントと違い、人類側の実質的な首都である南部にある中央(セントラル)地方での政治的な話とか。


 そうした雑談を一通り終えて、アベルは商人としての微笑みを浮かべながら、怜悧な眼差しで本題を訪ねてきた。

「して、モリト様。今回はどのような理由から商会をご利用に?」

「何、実は商会で買いたいものがあってね……」

「ほぉーう」

「……確か、商会は奴隷も扱っていたはずだな」


 アベルは武器屋で並ぶ武器を見定めるように目を細めた。

 仮面のような表情と、温かくも冷たい眼差しが森人の本心を暴こうとする。

 今までの会話から、どう商談を進めようか、考えているのだ。


「奴隷、ですか……確かに商会(ウチ)は扱っております。……ですが、失礼ながら……モリト様は確か単体(ソロ)で活動してはおりませんでしたか?」

 顎に手を当て考えるそぶりをみせながら、本気か? と視線が問う。

「ああ、俺は確かに基本単身で活動しているよ。冒険者としても、猟師としても」

 手をヒラヒラ振りながら、森人は本音を告げた。

「けど最近は一人での活動に限界を感じていてね。例えば狩った獲物が大きすぎた場合、解体のために運ぶのは不便だし、解体する間護衛が欲しい。もしも一撃が外れた場合の援護を頼みたかったり、とかな」


「……なるほど」

「実際その場で解体すると、血の臭いでモンスターや凶暴な獣を呼び寄せる事に繋がるし、そうなると短時間で解体をしなくてはならない。結果、本来なら運べるはずの部位さえも手放して、早々に立ち去るために放棄しなくてはならなくなる。という事も多いのさ」

「なるほど……理解出来ます」


 ソファーから立ち上がったアベルは、壁の本棚から一冊の分厚い書物を引き出し、捲っていく……客の要望と在庫の情報を照らし合わせているようだ。


「モリト様はどのような奴隷をお求めに?」

「猟犬としても使いたいから、犬系の獣人がいいな」

「犬系の獣人の、奴隷ですか……」

 白手袋(ドレスグローブ)に包まれた指がページを掻き分ける。


「猟犬として調教されたモンスターだと、コミュニケーションで苦労しそうだし、何より俺、猟犬を扱った経験は無いからな。……実を言うと資金的にギリギリだし、今後の活動的に、手に入れたら即戦力となるようなのが欲しいんだよ」

「性別は?」

「女性がいい。それもなるべく若くて、綺麗なのを」

「……なるほど」ニッコリ。「……モリト様もそういうお年頃ですしね」


 そんな微笑みを打ち消すように手を振る。

「俺はもう二〇代だぜ……基本的に身を固めてもおかしくはない年齢だぞ。だからといって、見ず知らずの他人とお付き合い出来る程社交性は高くなくてね、俺」

 ――残念だけど。

 苦笑しつつ、カップに残った紅茶を飲み干す。珈琲派だがお代わりが欲しくなった。


「どうにも……それ以外の理由がありそうな気がしますが?」

「……俺の知っている政治家で――」天井を見上げてしまう。「チャーチル、というのがいてな」

「……して?」

「そのチャーチルの名言で、こんなのがある――『どのような奢侈に浸ろうとも、粗末な我が家に勝る喜びは無い』……それが答えだよ」

「なるほど……なるほど、真理ですな……」

 アベルは何度も何度も頷いた。


「俺が欲しい奴隷の条件は、猟犬としても使える、犬系の獣人。女性で、若くて美人であること。……あぁ、若い、といっても子供は論外だぞ。数は一人」

「……私も紳士ですから。残念ながらそのような目的での子供の奴隷は扱っておりませんよ。ですが、そうですねぇ……モリト様の条件に合う奴隷は、一人だけおるのですが……その条件が少し、特殊でして」

 パタン――と分厚い本が閉じられる。

「……というと?」

「実は条件に合う奴隷には妹がおりまして……つまり、二人分、纏めて買ってもらう必要がある、というわけです」


 冷や汗をかいているだろうアベルを見詰めた。

「俺が欲しいのは一人だけだ。そんなの、別けちまえばいいだろう」

「奴隷といっても姉妹ですし、そのような血の別けた存在を引き離せと?」

 信じられない、と瞳が訴えてくる。大袈裟なポーズ。たぶん演技だろう。

「私は紳士ですから……あぁ、今まで必死になって寄り添い、助け合っていた血を分けた二人。それを私利私欲で永遠の別離に苦しめるなど……心が痛みます。妹の方はまだ幼いのですよ」


 役者のように吸血鬼が謡う。

「美しい姉は性奴隷として買われ、哀れ、幼い妹は一人ぼっち。お姉ちゃんどこ? と夜ごとに声がする……」

「…………」

「そんな妹もやがては誰かのオモチャとして買われていく日がくるのでしょうね」

 森人はそんな吸血鬼を見詰めながら、深い、深い溜息をついた。


「――で、本心はどうなんだ?」

 一転してアベルは真顔――本当に役者だな――で森人に返事をする。

「紳士である事は本心です。あの姉妹を切り分けなければいけない事に、心を痛める事も。かわいそうだと、心が訴えてくるのですよ」

「…………」ジト目。

「それ以外の商人としての理由は、ただ今中央では奴隷に関して反対運動や、機運が高まっております。それに巻き込まれないため、というのが本心ですな」


「何だ? 中央じゃそんな遊びが流行っているのか?」

 嘲るように言ってやると、アベルは少し苦笑した。

本人も本心では同意見なのだろう。

「実際に運動に参加しているのは一部神官系、中流でも生活に余裕のある階層、そして上流階級の一部、ですけど……そうしたのはお金も時間も余らせてますからね。おまけに善人でいたいという欲望もタップリ、ですから」

「連合政府は?」

「彼らはいつもの通り、推移を見守る、として何も言っておりません。まぁ……これもいつもの通り、運動が本当に拡大したらお触れを出して、過激化したら取り締まって規制を強化、といったところでしょう」


 連合政府は、この狭い――といっても大陸レベルでだが――半島に押し込められた各人間側の政府――王族や貴族、大商人などが混淆した政府だ。

 英国政府をより複雑にしたような感じ。


 農民までもが参加して、本当に国民が奴隷解放を求めているのなら、布告を出す。だが一時のブームでなら無視して、先鋭化した連中を取り締まって自身の権勢、権威を強化する。それが本心だろう。

 自分の手は汚したくない……そんな魂胆が透けて見える。まぁ、そんな連中だからこそ、闇の勢力への反攻を言葉にしながら、行動に移そうとはしないため、全面戦争による全滅を防いでいる実情があったりする。


「農民までもが賛成に回るとは思えないな? 第一、もしも奴隷解放なんてしたら、物価は確実に値上がりするぞ。そうなるとどうなる? 下層階級や農民生活を直撃し、結果は社会不安になるぞ」

「はい。ですので農民の多くは賛成に回ってはおりません。むしろ無視してますな」

 だがその逆で少数は回っていると?

「……しかし、特に余裕のある連中、豪農とか、の若者には賛同者が出てますよ。彼らは実際に奴隷達の過酷さをこの目で見ていて、自身の家業にやましさを覚えているのですから」


「……宗教家は詐欺師だよ。人の心の弱さを食い物にしてるんだから」

「結局、救い、とは本人の思惟によりますからね」

「それで、情報提供はありがたいが、その運動や気運に商会がどのような理由から巻き込まれるんだ? そもそも、こっちは魔族との最前線付近である、国境の、辺境域なんだぞ。そんな辺境の商会が巻き込まれるなら、もしも奴隷を買った一個人も後々苦労する破目になりそうだな」


「まず、いくつか理由がございます」

 吸血鬼は指を一本突き立てる――その仕草さえ役者のようだ。

「中央政府は、昨今経済発展率を高めている辺境の経済活動に介入したがっております。ですので、何かと理由を付けて、例えば一商会の弱みを利用してなど、アレコレ喰い付いてくる事も……十分に想像出来ます。例えそれが(はた)から見れば言いがかりに等しい事であっても、結局は、この世界は権力者が回しますからね」

「……」

 考えるそぶりを見せつつ、天板のピーナッツを掴み、齧る。美味かった。

「そして、中央での活動が不首尾になったり、賛同者を得られず運動が下火になった場合、人というのはより過激な行動に出るものです。挽回を夢見てハイリスク・ハイリターンな物に飛びつくのは、商人であろうとなかろうと、同じ事ですから。結果、彼らは共通の敵を見い出すのです」


「美しき姉妹奴隷を物としてしか見ない、悪辣な強欲商会とか?」

「例えば、先鋭化した連中が、中央政府の黙認下、悪評の目立つ商会を『奴隷解放』を旗印に襲撃する。その襲撃が成功しようとしないと、後に中央政府と、中央の政財界と癒着している連中が、犯罪組織の壊滅を口実に介入してきますね。確実に」

「……究極の自己満足だな……」

「そして過激な――邪魔な連中は口封じ。辺境での経済利益の果実は自分達のお口へと。それが今のところ、彼らの目論見でしょうな」


「して、では奴隷が欲しい俺の場合はどう対応すればいいのだ?」

「そこら辺は自力救済でお願いします」

「――おい!」

 突っ込んでしまった。しかし普通は突っ込むだろう! 普通は!


「私共としましては、昨今の経済発展を吟味して、労働力としての需要として奴隷に着眼して仕入れてみれば、運悪く自分達とは関係のない中央で奴隷制度反対のうねりが起きているんですよ。これでは大損ではないですか? 結構大金はたいて専属の業者から購入したというのに」

「だからといって、危険回避(リスクヘッジ)に俺を使うなよ」

「……その分お値引しますので、どうでしょう? モリト様は冒険者や狩猟のスタイルとしては、森の奥へ少数で入り込んで長期間活動するタイプでしょ? ならば〝そういう連中〟がノルトラントやマリエンブルクへ近付いたならば、お知らせしますよ」

「そして嵐が過ぎ去るまで、森の奥でやり過ごせと?」

「端的かつ、的確に言えば」


 さて、どうするか?

 アベル・ワルドハイムの言い分は筋が通っている。

 そしてこの商会は(珍しい事に)ウィン・ウィンな商売を心掛けている。

 それに俺はまだこの商会を、長い目で見て頼らねばならない生活を続けるだろう。

 ならば、まだアベル・ワルドハイムとの繋がりは切るべきではないな。


「……分かった。とりあえず、今のところ前向きに検討しておこう」

「ありがとうございます」

「とにかく、だ。……まずは現物を見てから、最終的な判断を下そう」

「分かりました……では、こちらへどうぞ……」


 たぶんここまでくれば、もう八割方は商談は上首尾として終わっていると、アベルは判断しているのだろう。

本人から自身というのがオーラのように浮かんでいる。


 口元に薄らと笑みを浮かべながら、目の前の吸血鬼は上流階級の執事のように、森人をドアへと案内する。



・アベル・ワルドハイム イメージCV:銀河万丈


 相手へ慇懃に接する《星明り商会》商会長。

 丁寧な態度。丁寧な言葉使い。丁寧な接待をする良心の塊のような人。

 ただし外見はダンディーな吸血鬼。人間ですよ。


 俗物的な商人の中でも、珍しい事にウィン・ウィンな商売を心掛けている常識人で、老練な執事のように相手と交渉を重ね、商売を広げてきた。ただし裏では裏でしっかりとヤるべき事をヤっている。


 そうした健全な人格者なため、部下からの信頼度は高い。

 商売は信頼で成り立っている、が信条な人。

 ただし裏切れば後が怖い。

 昔は、ある大手の大店で働き、下働きから幹部まで出世したようで。


 実は個人戦闘の達人だったりする。

 彼が活躍する時はくるのか!?



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