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森の走者~奴隷と始めるスローライフ  作者: 永久恋愛
第一章:そうだ、奴隷を買おう!
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第二話:それは転生か召喚か?☆



『その時』の事を、残念だが狩野森人は詳しくは知らない。

 後列で誰とも喋らず、ただ一人窓の景色を眺めていたからだ。

 だが後に巻き込まれたクラスメイト達の証言を繋ぎ合わせる事で、事件の全体像が見えてきた。


 あの日、狩野森人のいたクラスの生徒達は、学校指定のバスに乗車して修学旅行に参加していた。

 その途上、山道の斜面の曲がりくねった道で、突然対向車が飛び出してきて接触。質量的にコッチが負けるとは思えないのだが……それとも対向車を避けようと運転手がハンドルを切るなど、ミスったためか、搭乗していたバスはガードレールを突き抜け斜面を転がり落ち――。


 炎上――爆発。


 運転手も生徒も引率していた教師も、搭乗者全員の死亡。

 より大きな事件や犯罪が起きなければ、一週間は新聞の紙面やテレビ画面を占拠するような大事故だ。


 そして森人は暗闇の中、光を見た――目を覚ます。


 初めそれは死後の世界の光かと思えた。

 しかし瞼が開き、無機質な白い天井を目にして、冷たい床の感触を背中に感じて、何かが違うと……思い至り、上体を起こす。

 そしておそらく自分と同じ心境だったらしいクラスメイト達を目にした。


「おい! ここは……あの世なのか?」

「ウッソォー! 死後の世界っ?」

「って……俺達は死んだのかよっ?」


 涙を浮かべ、唖然とし、呆けて、笑い合い、それぞれが感情を面に出していた少年少女。あと少数の大人。

 森人は一人、そんなクラスメイト達と周囲を静かに観察していた。

 そんな時、ようやく彼らは自分達がバスの車内とは違う、見ず知らずの場所で、変な服装の者達に囲まれていた事を理解する。


 小さな悲鳴。

 そして彼らは自分達がバスに乗車していた時の私服とは違う、別の服を着ていた事を知った。まるで白い手術服のような丈の長いチュニック。大量生産品で、とにかく数を揃える事を目的にしていたのか、全員が同じ服装だった。


 そして下着が無い!

 麻のチュニックの下は男女共にスッポンポンだった。


 混乱が増幅される中、シャン――という金属音が静寂を生み出す。

 それは一人の女性だった。

 彼女が手にする金属製の杖――錫杖に似ている――で硬い床を突いたのだ。


「……皆さん。おはようございます」

 明らかに日本人ではないのに、日本在住の外国人よりも何ら違和感のない、完璧な日本語が、小鳥のように紡がれる。


 蒼天を清める温かな陽光。それを神代の鍛冶師が鍛造したような長い金髪が、柔らかなウェーブで垂れている。

 そんな色素の薄い輝く髪の下は、まるで真珠のような純白の肌。

 顔貌も、首周りも、細い腕や足も、古の女神のように白く輝いている。

 美しい、本当に美しい女性だった。


 整った美貌はどんなハリウッド女優よりも美麗であるも、女優のような鋭い『美』とは違う、『聖女』や『聖母』という言葉が相応しいような、全てを温かく包み込んでしまうような柔らかさがあった。

 金の柳眉の下には、アクアマリンのように光る青い瞳が。

 桜桃のように甘く、スポンジのように柔らかそうな唇が、男の心を高揚させ、女を憧れで屈服させていく。


 高い身長は同性の中でも上の方だろう。グラビアアイドル並に豊満な乳房と、どんな鍛練の結果なのか――異性を誘惑するような細い腰、そこから一転、柳腰から臀部へのまろやかなラインは、謹厳な聖職者さえ堕落させる誘惑の果実のようで……。

 そんな美体を包むのは、妖艶な肢体のラインを浮かび上がらせるくらい薄い白布。それが古代の神官の衣装のように、妖艶な躰を、より神聖に、淫らにデコレーションしていた。

 金のアクセサリーで胸元や腰、両手首に両足首を着飾り、純白のシーツで簡素に拵えたような衣類には、胸元や腰に深いスリットが走っている。


 身動ぎしただけで、生唾を呑み込むような足がチラチラ目についてしまう。

 薄布に包まれた豊満な乳房は、その柔らかさをこれでもかと喧伝している。

 おそらくあの布の下には下着は着けられていないのだろう。胸の先端の突起が浮き上がりそうな……そうした願望が目にした男達の胸を熱く焦がす。


 美の女神が自分自身の姿を、姿見を見ながら彫琢したような美女が、「ふふっ」と艶やかに笑う。

「皆さん。私の声が聞こえますか? 理解出来てますか?」

 他者を従わせる事に慣れているような、ある種の強制力を伴った美声。

 だが同時に蜜を絡めたように甘く、蒸留酒のような〝危うさ〟がある声。

「まずは、私から挨拶をしましょう……」

ニコッと、太陽のように輝き、娼婦のように妖艶な笑み。

「私の名前は、アリシア・バーンフィールドと申します。この世界で【大司教(アークビショップ)】を勤めております。そして、この世界は、皆さんがいた世界とは別の世界です」


「――い、異世界!」


 誰かの言葉が鐘の音のように室内に反響した。

 それを合図に固唾を呑んで見守っていた多くのクラスメイトが雀のように騒がしくなる。

「――皆、静かにしてくれっ!」


 声を荒げ起立したのは、クラス内でも纏め役のポジションに就く事の多い阿木拓馬(あき・たくま)だ。スポーツ系のハンサムな少年で、体の方も同年代の方では一番逞しかった。

 拓馬は挑むような眼光で妖艶な魅力と対峙した。


「つまり、ここは異世界だと?」

「そういう事になります。貴方方は一度死に、《奇跡》によって蘇ったのです」

「蘇った……だと……?」

「貴方方は覚えておりませんか? 自分が、死ぬ瞬間を? 死んだ事を?」


 聖女のような声で、どことなく淫靡な香りのする音程で彼女は問うた。

 微笑んでいるが、同時にそれは檻に入れられた小動物をいたぶるようなイメージも想起させる。


「私は大司教。至高神に仕える高位神官です。神官は信仰によって神より奇跡を授けられます。その中でも私、大司教が、それも徳の高い女性神官が行なえる最上級の奇跡が、蘇生、というモノです」

「この世界は本当で異世界で、そんな荒唐無稽な存在が本当にあると?」

 イカサマ師を見破るような拓馬の視線に、アリシアはクスリと、楽しそうだ。

 そして隣の若い男性――騎士の着るサーコートのような青い神官服姿――へ目配せするように頷くと。


 一歩前に出た神官が、アリシアのと同じようなデザインながら、簡略化したような錫杖を掲げ――呟く。

「――《光球ライトボール》」

 杖の先に人間の頭部サイズの光の玉が顕現し、浮かび上がる。

 ――おおおおおおおぉぉぉっ!

 との感嘆と瞠目する声が一斉に上がった。


「これで、今いるのが貴方方の世界とは別の世界であると、理解出来ましたでしょう?」

「……あ、あぁ……解った。理解した、よ……」

 これには頼れるリーダー拓馬であっても魂消たようだ。

「さて、では話を戻しましょう……私の奇跡、蘇生は死の淵にあるような重傷人。もしくは死んだ直後の人の魂を繋ぎ止め、元の肉体に下ろす事が可能な奇跡です。あぁ、コレは死者蘇生とは厳密には違うので、留意しておいてください、ね」

 ――間違える人、結構多いんですよ。

 女子高生が頼みごとをするような明るさで、アリシアは笑った。


「さてさて、ここからが話の肝、です。蘇生の奇跡は死んだ直後の魂を元の肉体という入れ物に戻す術。あの世、という異なる異層より魂をこちらの世界に引っ張ってこれる。ならば、〝別の世界の魂〟でも、同じ事が出来るのでは?」

 森人はその言葉に、顎に指を当て考え込む。

 確かにあの世、死者の世界、死後、そうした『存在』から魂をこちらの物質世界へ引っ張ってこれるなら、それが元の世界の魂でなくても、厳密には蘇生は可能なのは……論理としては理に適っているだろう。

 それが信仰や神からの奇跡としてグレーゾーンだとは思うが、一応は、理に適っている。グレーは黒ではない。


「つまり、俺達は自分達の世界とは、別の世界に『蘇生』された、というわけか?」

「はい。これを異世界召喚や、異世界転生、どちらに捉えるかは人それぞれですが、基本的にそういう話です――この世界は皆さんにとっては現実ですよ」

「だ、だが……先の蘇生の奇跡の話では、蘇生には元の肉体が必要なのだろう? なら、俺達の、この肉体(カラダ)は何なんだ?」

 確かにそうだ。森人も、他のクラスメイト数人も頷いて首肯した。

 自分達は、元々はココとは別の世界で死んだ。ならばオリジナルの肉体はソッチの世界にあるはずだ。今、(カラダ)はどんな現状かは分からないが、奇跡の内容からすると、死後の直後しか術は有効そうでないようだし……。

 もしやオリジナルの肉体さえも、空間の壁を越えてこちらへ召喚したと?


「確かに。魂は別の世界より引っ張ってこれても、肉体は難しいです。……ならば、その肉体を新たにこちらで用意してしまえば、どうでしょうか?」

「……お、俺達の、この体はオリジナルの体ではないのか?」

「厳密には、はい、そうなります」

 アリシアは真正面から拓馬を見詰めた。

 神託を告げる神官のように、硬い声が浸透するように響く。


「まず、普通の蘇生の奇跡では、異世界の魂の招来は無理なので、そこを外部から魔法にたけた者達で術の強化、補強をします。そして他の者達で同時に、魂――魂魄に刻まれた情報より、その者の情報を抜き出して、生前と同じ入れ物(にくたい)を作りました」

(おいおいおいおい! じゃあ、この体はオリジナルではなく、二世、コピーされた奴なのかよ!)

 森人と同じ思いなのか、蒼い顔が目立つ。


「高名な【錬金術師(アルケミスト)】や【大魔法使い(グランド・ウィザード)】の協力のもと、《再生》などの奇跡も併用して生前と同じ肉体を用意したのです」

「……なんというか、かなり滅茶苦茶な話だよな……」

 拓馬は乾いた笑いを浮かべていた。

 クラスメイト達も似たり寄ったり……ありえない、と訴えるような、今後の生活に支障は無いのかと心配するような、そんな表情が花畑のように咲いていく。


「同時に、魂魄や肉体をこちらの世界へと併せてあるので、互いに言葉を理解出来るようになりましたし……皆さんも才能や努力によっては、私達のように、奇跡や、《魔法》を扱えるようになりますよ」

 その言葉に目の色を変える者がいたのを森人は見逃さなかった。

 確かにこんなゲームのような〝現実(ルール)〟が通用する世界なら、元の、面白味のない普通の世界と比べて楽しいだろう。

 だが忘れてないか? ゲームではそういった存在がどのような〝価値(りゆう)〟から存在しているのかを。


「つまり、俺達は異世界へ勇者として呼び出されたのか?」

 そんな目の色を変えた者の一人、菅沼道利(すがぬま・みちとし)が妙に興奮した声で叫ぶ。

 革命政権内で陰湿な権力闘争を繰り広げている者のような、濁った瞳が分厚い眼鏡の下でギラギラと異様に光っていた。その危険度を肌で察したのか、周囲の人がそそっと離れていくが本人は気にしていないようである。


 ベリヤとかヒムラーとか、そんな相手と似たような空気を放つ男で、同時に大の二次元愛好家――オタク、であり、週末には都市へ出かけてバックパックを、値段が高価ながら薄い本でパンパンにして戻ってくるのをライフワークにしている。


「勇者? ですか……」

 クスリと、大司教は柔らかな微笑みを浮かべる。

 まるで道利の〝暗さ〟さえ清めてしまいそうな、そんな太陽のように明るく、聖母のように柔和な顔。

 役者が違うのか、道利の方が一歩下ってしまう。


「ふふふっ……確かにこの世界には、【勇者】と呼ばれる人も、役割を与えられた人もいます。ですが皆さんは、残念そうですが、違いますね」

 ガーン! と目に見える形で道利はショックを表現した。

「ちょっと待て! ワザワザそんな手の込んだ手段で俺達をこちらの世界に蘇らせたんだろ! なら、どうしてなんだ? どういった目的があるんだ!」

 拓馬はこらえきれずに叫んだ。

 道利ほどではないが、それなりの数の生徒が、『自分達は異世界へ来た→ならば勇者として呼ばれたのかも!』という願望……というか、理想や想像を抱いていたのだが、見事に裏切られたな。


 まさか営利目的……身代金目的の誘拐ではあるまい。奴隷云々にしても、こんな回りくどい手段はとらないはずだ。


「それを、今から説明してきましょう……」

 一転してアリシアは心痛な顔で彼らを見渡す。

「まずは……これから説明が続きます。話の腰を折られると長引いてしまいますので、皆さんにはしばらくは聞き手を努めてもらいましょう……良いですか?」

 巨大な頷きが起こる。


「ありがとうございます。ではまず初めに、この世界には私達のような《人間》、亜人種である《獣人》や《エルフ》、《鉱精ドワーフ》といった【光輝と法治の秩序】の勢力と、【混沌と暴力の闇】の勢力が角を突き合わせております」

 どこからか、他の人員がキャスター付きの壁を持ってきて、そこに巨大な地図を広げていく。

「ですが残念ながら、現状、秩序の勢力は劣勢となり、今はここ」指示棒が地図の一点を指す。「大陸のこの半島に閉じ込められています」


 まるで北アメリカのような大陸。

 そこのフロリダのような半島に指示棒の先はあった。


 それを見て、これまでとは別の意味で顔を蒼や黒にしていく生徒達。

 さてさて、これでは一九四四年以降の枢軸国と同じではないか?


「しかしながら今すぐ人類は滅亡する――という現状ではありません。闇の勢力の進軍はストップし、こちら側も狭い範囲に押し込められたがゆえに、防衛地点を狭められより厚く出来ています」

 少なくとも、現状はヒトラーのようなトップが、ヒトラーのように無意味な『後退不可』、『現状死守』命令を発しない限り、一九四四年末期のドイツのような状況ではないらしい。


「皮肉な話ですが……彼らも長引く戦いに疲れているのですよ。厭戦気分の蔓延と、自軍勢力の優位性から他種族連合軍である彼らの結び付きは弱まり、無理をして戦争をする必要を失ってしまったのです」

 つまり、連中は人間側(こちら)が馬鹿をして全面攻勢に打って出ない限り、費用対効果の悪い絶滅戦争を無理してする必要が無いわけだ。ネイティブアメリカンを居留地へ押し込める事に成功した連邦政府と同じなのだ。わははっ――ファック。

「ですが、だからといって戦いが終わったわけではなく、今も互いの国境線付近では、小競り合いが頻発しております」


 伏せられた瞳、言葉使い、その一挙手一投足は哀惜を表している。

 だが威儀は崩れていないも、その挙手一つ一つに淫猥な欲望を相手に抱かせていく。まるで胸の内の悲しみを表すように抱き締めれば、豊満な乳房が圧迫され、両手が頬を包めば情欲に悶々とする女のような〝熱〟があった。


「その鎮圧に正規の国軍を動かせば、悪知恵の働く闇の勢力に『戦争準備だ!』と言いがかりを付けられてしまうかもしれません。ですので……そうした戦いには残念ながら、市井の方々による義勇軍を宛てる事になっております」

 嫌な空気がした。

 森人は猟師である祖父に付いて行って、猟の見学のため山に登った時、熊と出会った――というより、少し離れた場所の熊を見た事がある。

 向こうは気付かず、こっちは背後から静かに息を殺して観察した。

 そんな出会いだ。


 あの時は祖父がすぐ隣にいたし、祖父から『対処法』をレクチャーしていたから問題は起きなかったが。

 今でも覚えている。あのうなじを駆けるピリピリとした感触を。

 野生の危機感を。

 アリシアという美女の言葉から、同じ〝臭い〟を感じ取ったのだ。


「その義勇軍を、我々は、『冒険者』と呼んでおります。そして残念ながら、我々はその戦いに負ける事は許されないのです。冒険者の敗退は、結果として国境線での守りの弱体化に繋がりますし、闇の勢力に対してこちらはより弱い存在だという印象を与えかねません」

 強い光りが碧眼に宿る。

「そして冒険者の方々には勝ってもらわねばなりません。しかし義勇軍である冒険者は元は一般人。対する相手は肉体・魔力・総数共に上回っております。ですので、我々には質的に上回る冒険者が必要なのです。戦いに傷付きながらも戦い続ける冒険者の頭を上げ、戦意を奮い立たせるような、戦力としても、象徴としての冒険者が。そう、冒険者としての勇者が。ですが普通の冒険者の方々には限界があります。普通の冒険者には」


 ――ゴクリ、と喉が鳴った。

 森人も、拓馬も、道利も、他の生徒や教師達も。

 その先が想像出来てしまった――あぁ、畜生っ!


「ならばこの世界の基準(ルール)に縛られない所から、異世界から、冒険者を呼べば良いのでわっ? ルールの違う世界から呼べばその分だけこの世界に来たときに、その差異は力となって現れるはず! 違うルールの適用されていた世界の者ならこちらの世界にこれば、より強大な力を発揮出来るかもしれません。だからこうも回りくどい手法で、貴方方をお呼びしたのです。魂を呼び出し、新たな肉体を再生させて」

 ルールに縛られない世界の人間を、こちらのルールの適用される世界へ連れてくる。未来や可能性としてなら、確かに有効だろう。



 全員が全員、アリシアの言葉に素直に頷けれたわけではない。

 誰だって得手不得手があるように。

 ある日突然何でもありの殺し合いサバイバルに参加しろ、と言われてポテンシャルの全てを発揮出来るかといえば、NO、だろう。


 彼女の言う通り、こちらの世界へ蘇生された者達には、魔法の才が発現した者や、戦士としての高い技量を発揮出来る者が現れた。

 誰だって、理解しなくてはならないのだ。

 もう、平和な日本には戻れない。

 この世界で生きていくしか道はないのだと。


 まだ『よぉーし! 勇者になってやる!』と息巻いている連中でマシなのだ。

 戦うのなんて嫌だ。死にたくないし、だれも殺したくない。

 そういう健全な思考パターンの奴は、正直、見捨てていくしかない。

 人間としては、日本人としては健全だろう。

 だがこの世界に住むとなれば、完全にアウトだ。


 見捨てるしか道はないのだ。

 見たくない物を見ず、聞きたくない物から遠ざかり、直視出来ない現実から出来る限り逃げるしか、あの時の高校生達にはそれしか無理だった。

 バスの運転手や教師という、数少ない大人は、年齢的に『冒険』が無理そうなので数には数えていない。


 そしてどうにか纏まっていたグループは、冒険者として戦い続け。

 一人が死んだ事で亀裂が入り、空中分解した。

 もう皆バラバラになったのだ。



 地面に倒れ、事切れた牡鹿。

 立派な角に、ヘラジカのような巨体。約二〇〇キロクラス。

 そんなのを一人でえっちらほっちら運べと?

 無理です!


 本来仕留めた獣は血抜きをし、体温を下げるなどしてから解体をするのだが、一人で何もかもしなければならない以上、今から解体をする。

 近くに沢があったらから、そこまで引きずり――ドボンと沈め、一晩待つという案はこの巨体に阻まれてしまった。


 もしも血の臭いに引き付けられ、他の凶悪な野生の獣やモンスターが近付いて来ないとも限らないので、マスケットに次弾を装填して直ぐ手元へ置いておく。

 そうして剣鉈や私物である小型ナイフ数本を使い、鹿の解体を始めた。

 切れ目を入れ、皮を剥ぎ、肉体を運びやすい大きさのブロック肉へ解体していく。


 解体時に出たバラ肉などを入れれば、鹿の食用可能な肉は五割ほど残るのだが、ブロック肉だと三割しか残らない。今回は……残念だが一人で持ち運べる量が限られているため、余計な肉は置いておく事にする。

 血は料理の調味料やスープの材料にもなるし、内臓も処理すれば立派な食材だが、時間と重量の制約から泣く泣く投棄。まぁ、バラ肉や臓腑、骨は後日、森の動物たちの立派な食事なるので良しとしよう。


 結果手元に残ったのは、ロース肉など、美味さで定評のある部位と毛皮、そして巨大な角だ。

 そうしたのをバックパックに詰め込み、紐で結わいで逃げるようにその場を後に。


 いつでも――モンスターと出合い頭に遭遇した場合、瞬時に撃てるよう、油断なくマスケットを保持しながら斜面を下り、森を抜けていく。

 冒険者が定期的に見回ったり、狩ったりしているので、ゴブリンといった厄介な人型モンスターはこの近辺にいないかもしれないが、絶対、というわけではない。あの原始の優秀なハンターならば、人間よりもより遠方から血の臭いを嗅ぎ取って気付かれずに背後に!

 そんな悪夢も十分に予想出来る。


 森人は背面の獲物の重さを感じながら、手に入れられるお金の計算をしていた。そして結論する。

 やはり、単独猟(ひとり)では限界があると。


 今回の猟だって、本来ならもっと多くの肉などを持ってこれたはずだ。

 複数なら狩猟の結果だって変わっていただろうし、もっと長期に亘って猟をしていただろう。無防備になる解体時には、護衛としても重宝するはずだ。


 だからといってあの村で新たに相棒を見付けるのは難しいだろう。

 組んでもいい、という奴はいるかもしれないが、村長派が絶対に妨害工作をするはずだ。森人はあの村を救った勇者だが、同時に恐れられ、嫌われてもいる。


「……なら、そうだな……外部から人を雇うのもアリ、か? だが信用面から問題も残る。冒険者を雇うにも、連中は俺達猟師を嫌っているしなぁ~……猟犬(イヌ)も欲しいし、なら、しょうがない……」

 ハァァ~~……と深い嘆息。

「……奴隷でも買うか……」



・阿木拓馬(あき・たくま) イメージCV:中村悠一


 クラス内ではリーダー役の好青年。

 利発そうな甘いマスク。中学はサッカーとバスケで鍛えられた逞しい肉体。そして本人の清廉な性格から、クラス一の人気者。

 女生徒からの圧倒的な好意・支持を得ている。そうした場合、同性からはやっかみなど嫉視を受けるのだが、本人の人格の良さから男性からも頼られている稀有な存在。

 ありとあらゆる意味で、狩野森人とは真逆な男。


 だがその裏で、頼られる事に実は膨大なストレスを抱えていたりする。

【蘇生】時に得ていた【職業】は【騎士(ナイト)】。


・【騎士】:高い肉体補正、剣術スキルの充実など、〝エリート〟に相応しい様々な能力・スキルが強化されている。騎乗時にも補正スキルが発生する。



・菅沼道利(すがぬま・みちとし) イメージCV:吉野裕行


 濁った瞳に分厚い眼鏡。脂肪分の多い顔や皮膚。ブヨブヨな肉体など、大よそ異性からは好かれない外見な男。ただし眼光は異様にギラギラしている。

 ステレロタイプの典型的なオタクでマニア。

 一部の男性クラスメイトからは仲間として好かれていたが、男女問わず大多数からは嫌われていた。自分の容姿やクラスメイト達からの扱いで、自分は異性とはお付き合い出来ない事を日本にいた頃より理解していたので、性格は冷めている。


 蘇生時に得ていた職業は【道化師】。


・【道化師】:おどけた調子で会話し、相手を笑わせる後衛系職業。賤業扱いだが、実は会話に関して高い補正スキルがあり、会話と表情から心を読んだり出来る。



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