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森の走者~奴隷と始めるスローライフ  作者: 永久恋愛
第一章:そうだ、奴隷を買おう!
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第一三話:我が家(マイホーム)②

連続投稿二回目。

最後になります。


さて、森人のお家の正体とは――




 レイナの空気が一瞬で変化した。

 血の臭いに反応したのか、目つきに野生の狼のような鋭さが添付される。

 まるで抜いた刃のような空気。

 森人の【野伏(レンジャー)】は戦場で感じたのと同じ、そうした気配をしっかりと捉えていた。


「いいか、レイナ……一応忠告しておくと」腰に手を当て嘆息。「俺は村長派から嫌われている。村の一部からもな」

「それは新参者だからかい?」

「そうでもあるし……まぁ、それ以外にも〝色々と〟あるんだよ。で、だ。時折、長期留守になる俺の不在を狙って、家に〝どこかの誰か〟が入り込んで悪さをする事があるんだ」


 そのどこかの誰か、を深く追及する必要はない。

 レイナも大体は見当がついていたし。


「で、だ。盗みに入られるのも癪だし、防衛手段として、色々と仕掛けてあるんだよ――罠とか」

 問題は、その罠が極悪な品である点だが。

「いいか、よく見ておけよ」


 森人は庭と道とを隔てる木戸――そこには『家主留守のため立ち入り厳禁』の札が。

 隠すように置かれていた木の棒を一本、取り出す。それで杖のように、ドスンドスン、とおもむろに地面を打ち付けていった。

 家屋へ向かうルートではなく、道順とは離れた庭へ行く方向へ。

 直後だ――地面の一部が跳ねるように突き上がり。

 棒の先端へ野獣のように噛み付く。


「……トラバサミとは、えげつないねぇー」

 強力なバネの力で、猛烈な勢いで棒へ食い込んだ金属の牙に、驚きと呆れ、半々の言葉が呟かれた。

「こんなえげつない物じゃないと、馬鹿は学習しないのさ」

 疲れたように森人は説明をしていく。


「普通の罠……落とし穴は面倒だし宣伝効果はいまいちだ。だからといって括り罠(スネア)系では、抑止としての効果は皆無だ」

「……確かに。〝効果〟の方はあったみたいだね」

 スンスン、と鼻を鳴らすと、〝色々と〟庭や周辺から血の臭いがした。

 だがそれは微か――つまり、もっと前か、そもそも軽傷ですんだ事を意味する。

 それよりもっと強烈な血の香りが、家の奥からするのは何故か?


「今みたいのが、そこら中に?」

「ああ。俺の【職業】補正によるものか、単に技量が高いからか、なかなか上手く仕掛けておけたと思っているが、獣人には判るようだな」

「身体的、というよりも、勘に近い方の能力だけどね」

「じゃあ、他の罠の紹介や位置は、説明が不要だな。まぁ、その辺りはおいおい、後でしよう」


 森人を先頭に、家屋へ近づいて行く。

 そんな後ろ姿を眺めながら、レイナはポツリ――と。

「でもさ、あんなの仕掛けてちゃ、もしも用事があった村人が訪ねてきたら、駄目じゃん。誤って罠に挟まれたら、どうするつもりなんだい?」

「レイナ。お前は文字が読めるか?」

「そりゃー勿論」大きな胸を張り答える。「そりゃー〝エルフ〟とかが使えるような古代文字は無理だけど、人間が使うような共通語なら、読み書きは大丈夫さ。ああ、勿論王族とかで使用する形式ばったようなのは無理だけど」

 革と布の下でも振幅激しい胸だったが、残念ながら森人は目にしていない。


 普通、この世界の一般人は読み書きの能力は『必要ない』。

 商人や役人などならば別だろうが、商人あきんどならば子供の頃から親が躾けているか、丁稚から勉学しているかだろう。役人もその系図を辿れば貴族様だし。

 だが農村――農民は別だ。

 彼らの役目において、文字を読む、書く必要がないからだ。肉体労働である農作業のどこに読み書き能力が必要か?


 よってこのアソート村において、自分の名前を書ける者ですら稀だ。

 村長一家やその郎党は別だが、大多数の農民は無学――無知である。

 例えば信仰などに盲目的ではないが、神官職の者が言っているから、役人が言っているから、貴族様がそう言うなら、と深く考えない所がある。


「私はこれでも、氏族の中じゃ結構イイところのお嬢さんなんだぞ」

「………」

「ちょっと待ちなさい! 今鼻で笑った? 笑ったよね?」

 だがフードの下がこちらを向く事はなかった。


「だったらアレが読めただろ」

 レイナを見ずに、親指が後ろの木戸に向けられる。

家主オレがいない。なのに勝手に入ってくる方が悪いさ。勿論周囲には、出かける前に言っておくし、文字が読めない奴には、あの札がある時は俺は家にいないと、事前に何度も忠告しておいた。後は自己責任さ。実際に、俺は以前に泥棒に荒らされている。よって、罠にかかる奴はそういう奴だって事さ」


 二人はついに家の前に、ドアの前に到達する。

 珍し事に、ドアにはカギ穴があった。普通の農村にはそんな物など無いのに!

 森人は懐からゴツイ金属製の鍵を取り出し、穴に突っ込む。

 ガチャリ、との音と共に施錠は解除され、森人はドアを開ける――事はない。

 怪訝そうなレイナの顔を見ると――影で暗くなったフードの下の顔は悪魔のようだ――幼児の部屋へ無断で踏み込むサンタクロースのように、唇へ指を当て。

 横へずれろ、とジェスチャーする。それにレイナが従うと、自身も同じようにドアの横へ動いた。


 周囲を観測する――良し、誰もいないな。

 ようやくドアを開けた。直後だ!

 ――ブン! との風切り音。

 それと共に、猛烈な勢いで太い木の杭が部屋から突き出される。


「…………」

 レイナに言葉はない。

「もう大丈夫だぞ」との言葉で前に行けば、天井から腕のような木の棒が垂れ、そこに杭が水平に結ばれている。


 杭の位置は、出迎えた人の、ちょうど胸や腹の位置に命中する高さだ。勿論即死か、大怪我は免れない。

 天井に仕掛けられていた木の杭が、ドアを開けられた事でストッパーが外れ、ちょうどゴルフのスイングのように振り下ろされたのだろう。

 そんな極悪極まりない仕掛けを上から下まで眺め、レイナは言った。


「……これはやりすぎじゃないの」

「……そうかぁー」



 この世界には英国ヴィクトリア朝の中葉まであった、旧弊の極みである窓税なる物は存在しない(当時は一定数を超えた窓があると税金を払わされたのだ)。

 が、残念ながら窓ガラスはまだまだ高価なので森人には手出しが出来ないのだ。

 よって家の中は物凄く薄暗い。


 しかし視力に優れたレイナには関係ないので、初めてながらすんなりと一歩を踏み出せてしまう。そんな少女を森人は押し止めた――伸ばした掌がムギュッと肉叢を鷲掴み!

 ……モミモミ……。

 レイナは一瞬で三メートルも後退し(逃げ)た。


 双丘を両手で護りながら、獣のように睨んでくる奴隷を慈しむように見ながら、森人は行動に移る。

 この家にはまだ数々の仕掛けが隠されていたのだ。


 まず、ドアを開けて踏み出した一歩。その足の裏が踏むだろう地面|(土間になっている)には落とし穴が仕掛けられていた。穴の奥には傷口がより酷くなるよう、〝かえし〟の付いた鋭い金属製の杭が潜んである。

 そこを無事に通過してもまだ安心は出来ない。

 数歩進めば極細の紐が張られ、その先には弩弓(クロスボウ)が獲物を狙う狩人のように潜んでいる。

 そこを突破してもまだまだ続く……バネで向かってくる杭に、侵入者を纏めて薙ぎ払う連装式散弾銃など。


「……あのさ、こんなの、出かけるたびに一々仕掛けていったのかい?」

「長期の場合なら、特にな」

「そして帰ってくるたびに、一つずつ、解除する必要があると?」

「効果があったのは確かだぞ」

 確かに……鼻を鳴らしてレイナは顔をしかめた。

 あの散弾銃で肉片でも飛び散ったのか、そこら中から死臭がする。勿論破片や血とかは綺麗に取り除かれ、掃除、消臭はされているが、獣人の鼻は誤魔化せない。


 森人は一つずつ窓を開けていく。

 窓、といっても採光用に壁に開けられた四角い穴で、そこに板戸が外側から被せてあるだけだ。その一つずつ、つっかえ棒で下から押し上げていくのだ。


 土間の奥には……レイナは驚いた――南方の建築物の高床式みたく、床が一段上がっているではないか!  家主はブーツを脱ぎ、そばの靴箱に置いたのでレイナもそれに倣った。

「へぇー、珍しい造りだね」

「……俺の故郷の様式だ」

「ふぅーん」

 ピクリ、と頭上の耳が動く。

 単なる言葉であったはずだ。しかし獣人の鋭敏な感覚は捉えた。

 森人の言葉から感じる、言語の波。わずかな苛立ちの震え――少女は深く追及しない事にした。


「それにしても、結構大きな家だよね」

 横に広い外観だったから、奥行はある。それに外からは分からなかったが、二階があるようだ。農家とは普通平屋建てなのに!

 村の新参者の家にしては、結構な〝御殿〟ではないか。


「元々はこの村の有力者の一人だった名主の家だったらしい。けど、産まれたのが娘ばっかのためか、それとも少なかったのか、子供は大きくなると他家へ嫁いだり、村の外のもっと繁盛した都市へと移り住んでしまった、と。で、残ったのは老夫婦だけとなり、子供が全員巣立ち自身は高齢だから、この家を手放して修道院入りした。という話だ」

「それを、モリトが買い取ったのかい?」

「そうだな。それでもその話は結構昔の話で、俺が買った時点で半場痛んでいたな。で、修理のついでに改築とかもしたんだよ」


 居間には来客用なのだろう、予備のスリッパが常備されていた。

 そうしたのを物珍しそうに履きながら、レイナは森人の後に続く。

「……さすがに、コッチには、あんな仕掛けはしてないよね」

「それはさすがにないな。過ごしにくくなる」

 板張りの床。中央には簡素なテーブルや椅子が置かれ、漆喰の壁に張り付くように大きな暖炉が、対になるように暖をとるための鋳鉄製薪ストーブが安置されていた。どうやら壁で区切られた隣の部屋は台所のようだ。


 奥には何故か天井から紐が二本垂れていた。

 長いのと短いの。森人はおもむろに長い方を強く引っ張ると、天井よりガコン、との異音が!

 な、なんと! 天井板の一部が下りてきて、隠されていた二階へ続く(きざはし)が露わになったではないか!

 すると引っ張った長い紐が天井へ上り、逆に短い方が下りてきて長くなる。


「私が男だったり、もうちょっと幼ければ、嬉しそうにはしゃぐのだけれど、コレ、意味があるの?」

 ……どう考えても、このカラクリ細工や階段、元の家には無かっただろう。

 森人の所有後、改築したにしても、手間暇、資金もかかったはずだ。実際、男のロマンを満たすだけにしては、痛い出費のはずだ。

 だがそんなレイナの疑問に対し、彼女の主はどこまでも実用主義的な思考だ。

「襲撃されたり、家から出れず隠れ潜む場合がある時とか、二階へ緊急避難する事が可能だ。それに、二階へ退避後、あの紐を引っ張り上げれば上に上がれる手段は無い。屋根もスレートだから、火矢を撃ち込まれても延焼の心配はないしな」

「……そりゃぁー、用意周到な事で」


 まぁ、あのバカな村長一家を見ていれば、そのくらいの用心は必要かもしれないけど。

 森人の背中を見ながら、そう心の中で呟くレイナ。

 長い尻尾が箒のように揺れながら、階段を上がってみる。

「二階は荷物置き場や、保存食の貯蔵庫、そして臨時の来客が寝泊まりしてもらう部屋になる」


 確かに。あの長櫃(チェスト)などは、シーツを被せれば、臨時の椅子や寝台(ベッド)に最適だろう。

「にしても、暗すぎない?」

「窓はあそこだ」親指で指し示す。「だがそうみだりに開けたりはするなよ。あの窓は襲撃された時とかに、逆襲するために使ったりする予定だからな。開け閉めして、隠すようにしてある窓の位置をつかまれたくない」

「……そこまで用意周到なら、せめてのこと、『襲撃されない事』に力を入れた方がいいんじゃない?」

「善処はしよう」

 肩をすくめて、だが、森人は歴戦の戦士のように言った。

「だが、それに相手が合わせてくれる保証はないんだ。だったら、出来る限り最善の手は打っておく必要があるんだよ」


 レイナは埃っぽい二階を見回し、呟いた。

「それで……ここが、私の部屋になるのかい?」

 緊張のためか体がこわばっている。

 それに羞恥を燃料にして燃えたかのように顔が赤い。

 まあ、それも止むを得ないだろう。何せここが彼女の部屋になるという事は、ここで森人と情交する可能性もあるのだ。

 もしやその姿を想像し、〝色々〟と熱くなってしまっているのかもしれない。


 だが森人はキッパリと――。

「いいや、違う」

 そして羞恥よりももっと過激で灼熱の燃料(ことば)を投下した。

「レイナには、俺の部屋で、一緒に起居してもらう」

「――そ、そうかい。分かったよ」

 当然ながら、レイナは森人の顔を覗けれない。



――極悪忍者屋敷でした。

さてさて……このペースでなら、二人の床入りはいつになるのやら?


感想をお待ちしております。

ではでは。

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