第九話:薬屋と、そして……
マジですみません。寝落ちして土日分の投稿出来ませんでした。
本当に申し訳ございません。
連続投稿二回目です。
まだまだ続きます。
さてさて、ファンタジー世界での鉄砲の立ち位置とは?
武器屋を出て、その後冒険者ギルドの辺境支部へ足を運ぶ。
そこでレイナの冒険者登録を済ませておいた。
これでレイナも冒険者となったので、アレコレ煩わしい手続きを簡素化したり、冒険者としての役得・特典が付くようになる。
この世界では普通の一般人は自由に他領へ出入りする事が出来ないのだが、冒険者になれば――限度はあるが――それも緩和される。それに書類審査が必要になる場合も、簡素化してもらえるのだ。
それと冒険者は租税関係でも優遇されている。
奴隷は奴隷で別の税が必要なので、この恩恵は計り知れない(森人の財布的に)。
冒険者への登録料は森人が出したのだから(血涙)!
今いるのは城塞都市《マリエンブルク》の中でも下町に位置する区画で、簡単に言ってしまえば――スラムに近い。
現に今も遠巻きに二人を観察する奴らがちらほらと。
まあ、もっとも連中の目的は美麗な獣人の方なのだが。
しかしながら、獣人の超感覚はしっかりと観察者を捕捉していた。
「……ねぇ、今、そこら中から結構見られてるんだけど……それもあまり質のよろしくない視線で」
「知らないように装っておけ……ワザワザ手の内を晒す必要はない。だが警戒は怠るな。ああいう連中は隙を見付けると大胆になるぞ」
路地裏の細い曲がりくねった石畳。
そこを並んで歩く二人。森人はレイナを見る事なく、前を見据えたままそう忠告した。
「ここいらの区画は、あまりガラのよろしくない連中が屯していてな……貧民窟の宿痾だが、そういった連中は各地区ごとにグループ分けされているのさ。で、コッチの地区に入れば、アッチの地区の連中は手出し厳禁――という独自のルールが適用されている。破る奴はいるにはいるが……」
「ふぅぅ~ん……で――」空気が変わる。地区がシフトしたのだ。「この地区は大丈夫なのかい?」
一瞬顔をしかめたのを森人は見逃さない。
「どうした?」
「いや……ちょっと……あの建物をすぎてから、急に周囲の空気が変わったな、って……」
素人目には判らない事が、獣人の鋭敏な感覚が探り当てたようだ。
「ここいらは特別の地区でね。ある種の聖域みたいな場所なんだよ。この小さな地区なら、外の地区のどんなに犬猿な連中だって喧嘩厳禁を強要される」
「へぇー……でも」スンスン。「私が感じたのは、そういうのとは、ちょっと違うような……?」
「その答えはあそこにあるさ」
顎で示した先には、連なる壁の一角――小さいながらも石壁作りによる、堅牢そうな場所だった。
その壁の一部に、古びた木戸がある。
それは家のようでもあるし、まるで倉庫のようでもあった。
レイナの嗅覚が捉えた臭いは、どうやらそこから漂っているようだ。
「アソコはこの一帯のどんな不良でも必ず利用している場所なんだよ。だからこの地区は喧嘩厳禁なのさ」
「へぇー、どんな場所なんだい?」
「(ニヤニヤ)……行ってみれば分かるさ」
「……ウヘェェー~~……」
げんなり、とした顔のレイナは店内を見回した。
それは鋭敏な嗅覚を有する狼系獣人の彼女にとって、不快な臭いが充満しているため。そして、並んでいる物産も原因していた。
木戸の向こうは半地下式の店舗で、ちょっと眺めただけで分かる、様々な薬物、並びにその原料が壁や天井を呪いの人形のように占有していた。
そこまでなら、ちょっと不気味な薬屋――でいいだろう。
だが素人目ながら、レイナは気付いた――コレ、後ろに手が回る奴だ。
どうりで入店前にアレコレやり取りがあったはずだ。
「……なるほど……危ない薬を扱っているから、この地区は誰にとっても揉め事厳禁な聖域なんだね」
場所を考慮し、森人の耳元で小声で話すレイナ。
少女の吐息が耳に届き、ちょっとした快感を感じたのは秘密だぞ。
「この店は薬の問屋なんだよ。それも中立な。常日頃から恐喝だとか強盗だとか、犯罪だったり、犯罪に見えるような健全なグレーな商売をしているような連中は、都市のブラックリスト入りしていたり、他の表の店出入り禁止だったりする場合が多くてね。そういう場合、手に入れた違法薬物を捌きたかったり、逆に欲しかったりした時にこの店を重宝するのさ。他には普通に薬が欲しいけど表の店じゃ売ってもらえなかったり、とか……人目や噂を気にする場合とか、な」
「ふぅぅ~ん……(スンスン)……あの棚の薬草。効能は強いけど副作用も強い薬物の材料だよね……あっちも別の劇薬やその材料だし」
「いいか、レイナ……」ボソッと耳打ち。「……冒険者ギルドだと、採取した薬草とかは定額で買い取ってくれるだけど、種類によっては買い取ってもらえなかったり、相場より安かったりするんだよ……薬草採取するような冒険者の立場は弱いからな。酷い話だよな。森には薬の材料になるような薬草があれだけあるのに、『あ、コレは買い取り不可です』と言われたり、逆に没収されたりするんだぜ」
「そりゃー劇薬の材料をポンポン流通させるわけにはいかんでしょー」
店内で他の客とすれ違った。
しかもフード付きローブで全容を隠した、怪しさマックスな人だ。
あんな格好で出入りしたり、あんな格好をしなきゃならないのだ。余程禄でもないブツが流れてきたり、欲しかったりするのだろう。
「……で、劇薬やその材料を欲しい人。売りたい人とのニーズが合致した結果、この店は裏社会の安全地帯になってるわけだ」
「……都市の当局は何をしているんだか……」
「そりゃー参事会の中にも、人にはよるが、人目に付かずにコッソリと欲しい物がある場合もあるんだよ」
「……ウヘェェー~~……」
「それじゃあ、俺はお話があるから、お前はそこで待っていろ」
そう森人は命じて、奥にあるカウンターへ向かってしまう。
レイナに知られたくない物や情報でもあるのか、それとも彼女には知る必要がないためか。
カウンターの奥から、魔女のコスプレでもしているような、テンプレな魔女――三角帽子に尖った鼻の老婆が出て来て対応する。こちらも本当に怪しさマックスだ。
チラリとレイナは薄暗い周囲を見遣る。
天井から吊るされた干し草……アレは普通の薬草だろう。
棚には根が人の手足のように伸びたニンジン|(に似た野菜)が、呪いの藁人形のように陳列されている。よく見れば呪いの藁人形もあったよ。
他の棚には瓶が並んでいる――赤や茶色の液体の中には、様々な種類の蛇が浸けこまれていた。
何か食べると効能でもあるのか、どんな種類か分からないが干し肉もあった。
(……にしても、モリトって、この店に何の用があるのかね?)
レイナのご主人様は、カウンターで魔女な老婆と何やらやり取りをしていた。
「……これで、いいか……あぁ、分かった……で、あぁ、なるほど……」
何やら物品の交換をしていた森人は、予定されていたやり取りを終えると、カウンターに置かれていたメモ用紙に欲しい品を記載し、魔女に手渡す。
魔女は品の名を眺め、そしてレイナを目にし、なるほどと――ニヤリと嬉しそうに笑う。確かにこの品を口で言えば、あの獣人の少女の耳に入ってしまうだろう。
「ふぇっふぇっふぇっ……なるほど。確かに了解したよ。それじゃぁ今から準備するからちょっと待ってな……にしても、シシシッ、お前さんも男だね」
魔女のカラカイに、森人は恥ずかしそうに手を振って『速く行け』と指示した。
結局森人があの魔女とどんなやり取りをしたのか? どんな品を手に入れたのか? 分からずじまいだった……それがレイナの心に棘となって残っている。
そもそも、あの薬屋に赴いた目的でさえ、レイナには知らされていないのだ!
「それで、これからどうするんだい?」
「今から俺の活動拠点である村に行っても、途中で日が暮れちまうから、今晩はこの都市で泊まる……ただし、朝一番で出立するから、残念だが《血潮の林檎亭》では泊まらないぞ」
「はぁぁ~い……了解したよ」
薄暗い路地を進む中、レイナは武器屋で気になった事を尋ねてみたくなった。
「あのさ、モリト……ちょっと訊いていいかい?」
「……? 何だ、言ってみろ……?」
「……私が言うべき事じゃないと思うけど、その、モリトって、この都市の冒険者達から、もしかして、嫌われている?」
「……端的かつ的確に言えば、そうなるな」
森人は嘲るように唇をゆがめながら、肩から吊るすマスケットを揺らした。
「……レイナは、銃を知っているか? 知っているなら、どんな情報を知っているか言ってみろ」
「えぇっと……人間の軍隊が装備していて、火薬を鉄の筒の内部で爆発させて、鉛玉をとんでもない威力で撃ち出す武器だよね」
「そうだ。では、質問だが……武器屋や冒険者ギルドで、銃を装備していた奴が、いたか?」
「……いなかった……と思うけど……」
必死に記憶を掘り起こして、困惑を見せながらレイナは答弁する。
確かに彼女の言ったとおり、武器屋やギルドの支部にいた者に、森人が持っているような銃を装備している奴は皆無だった。
確かに武器としてはマイナーな銃は、情報としてなら広く流布しているようだが、実際の流通量はそれ程多くはなさそうだ……だが森人の態度からそれ以外の事情がどうにもありそうだ。
「冒険者にとって、銃という武器は邪道なのさ」
「……邪道……?」
「まず、銃の利点とは何か――」返答を待たずに答える。「一つは扱いやすさ。昨日今日銃を手渡されたガキであろうと、さほど訓練を必要とせずに『戦力』になる。二つに轟音を響かせ、敵をビビらせる。そして三つ目――これこそが一番の魅力で利点なのだが、圧倒的な威力の高さ。あの武器屋でも、レイナの放った矢を弾いた鎧。それを一発で撃ち抜いただろ」
「確かに……あんな轟音を響かせて鎧を貫けれるなら、普通なら界隈で引っ張りだこだと思うけど……」
「利点を相殺するように、大量の欠点があるんだよ。それが銃の流布を阻んでいるのさ」
自信満々で提出した企画書を、よく見ずに上司から突っ返されたサラリーマンのように、自嘲気味に口角を歪ませながら森人は嗤った。
「まず、銃には火薬が必要不可欠――なれどそもそも火薬はそれ程流通しておらず、単価として高い。しかも製作には専門の職人が必要ときた――その職人も気軽に会えるほど数が多くはない。おまけに火薬は湿れば役に立たず、湿りやすくて管理が大変なんだよ……だが弓矢ならどうだ。職人が多く、量産体制が整っている。職人も都市には一定数はいるから、弓の反発力が失われて新しく買い直したり、雨に濡れて弦が役に立たなくなっても直ぐに予備が手に入るし交換も早い。弾丸と違って、矢は外れても再利用が可能だ」
「……確かに……」
見過ごされがちだが、武器には『整備がしやすく』、『新しく揃えたり修理がしやすい』という要素も重要なのだ。
複数の一党が参加した、大規模なレイドパーティーによる長期の遠征なら、修理などのために鍛冶屋などが同行したりはするも、普通の五~六人による活動には修理専門の人などいない。
「それと発射速度の遅さも致命的だ。事実上、狙って撃てるのが一分間に一、二発なのに対して、弓矢はもっと多い。例えばゴブリンの集団と不意に遭遇して戦闘になった場合、レイナなら弓と銃、どっちを重宝する?」
「確かに威力は高くても、手数が少なきゃお話にならないよね」
「だろ……それと冒険者のパーティーメンバーは普通、数人だ。だいたいが五人くらい。一〇人を超すのは物凄く稀だ。対して冒険者と戦う事の多い魔族やらなんやらは、もっと大所帯だ。一〇を超すゴブリンの集団に対して、たった三人で戦うのを想定してみろ。連携が必要なのに、自分の近くであんな轟音を鳴り響かせられたら、連携に必要な声のやり取りなんて出来ると思うか?」
「……まぁ、悪夢だね」
「命中精度も高いとは言えない。俺のマジック・マスケットの場合は別として、普通のマスケットは、狙って当てられる限界が五〇メートル前後。普通は三〇メートルだ」
「弓ならもっと遠くから狙えるし、命中精度ももっと高いしね」
「それと銃本体も高い。だいたいが、一挺は平均的な農家の月収に近いんだ。それに流通量の少ない火薬と、再利用の難しい鉛玉が重くのしかかる。まず、冒険者の新入りには手が出せないし、だからといって経験を積んだ熟練者なら、その時点で弓矢を習得しているからワザワザ面倒臭くて手間暇のかかる新奇な物に手を出そうだなんて思わないさ。例え新人を即戦力として扱える魅力があっても、弓矢の方が修得に手間暇がかかろうが、ベテランになっていればその時点で弓術にも熟達しているだろうし……弓は射程、精度、発射速度に流通量が勝っているからプロフェッショナリズムに傾きやすい冒険者にはお似合いなんだよ」
「弩はどうなんだい? 確かアレも威力はあるし、素人でも手軽に扱えるのと、命中精度も高いはずだけど……?」
「確かにクロスボウは弓矢より扱いやすくて、マスケットよりも手軽に手に入るし、命中精度も実はマスケットよりは高いから、新人がよく装備しているな。俺も新人冒険者時代はお世話になったし、今もまだ持っている……ただ、アレは威力の方が弓と比べて劣るんだよ」
「へぇー? でもクロスボウって、よく鎧を貫ける、って話を耳にした事はあるんだけど?」
「そりゃー昔の鎧の話さ。今みたいに板金鎧が無かったり、それ程流通していなかった、鎖帷子全盛期の常識だよ。実際にプレートアーマーを貫けれるけど、距離は二〇メートル前後が限界だ。それよりももっと遠くから有効打を与えたいなら、大型化は避けられない。結果大きく重たくなるし、弓や弦もより強固な金属製になる。その結果発射速度のさらなる低下を引き起こすし、扱えるのは筋骨逞しいマッチョ君しか無理になる。そうなればクロスボウの利点である、誰でも扱える、が消え去っちまうからな」
「弓の場合はどうなんだい?」
「実は弓の方が距離が離れれば離れるだけ、威力は勝るんだよ。中距離までなら、クロスボウの方がはるかに扱いやすく、威力は若干上回っている。けど長距離になればクロスボウの矢は太いから、威力はガクッと落ちちまう。弓の場合はより重たいし、弧を描いて落下――対象に向けて落ちていくから、命中時の威力が勝るのさ」
例えば地球世界では、クロスボウ兵は中世のイタリアの都市国家が有名だ。それは中世の戦闘は都市――攻城戦がメインだし、同時期のイタリアは纏まりの悪い都市国家の時代なためである。結果として都市を巡っての攻城戦が頻発し、いざとなれば市民を即席の戦力に出来るクロスボウが興隆したわけだ。
実際にジェノヴァのクロスボウ兵が練度の高い精兵として有名で、フランスの騎士を打ち破った事でも知られている(その後傭兵としてフランス王国によく雇用されたのは皮肉だが)。だがその撃ち抜いた騎士の鎧の正体は、刺突系に弱い鎖帷子だ。
野戦ではより遠距離から威力のある攻撃が出来る弓――特に長弓――の方が活躍したし、集められた市民よりもお金のために戦う傭兵の方が練度も士気も高くて野戦では重宝した。
その後技術の進歩によって〝矢〟を弾いたり受け流したりする板金を使った鎧を作れるようになり、対抗して威力を求めたクロスボウは大型化し、ますます都市や城での攻城戦でしか活躍出来なくなる。
だがその頃には東方より火薬と、それを扱う武器や兵器がやってきて、威力の面で劣るクロスボウは段々と使われなくなっていった。
「そして威力の高さも、この世界には魔法がある。銃では素人が並の【魔法使い】クラスか、それ以上の攻撃を放てる事は魅力だが、より経験を積んで技術と実力が上がればそれ以上の攻撃魔法を唱える事が出来る。それと魔法を習うためには専属の教育機関にて数年間の修練――勉学が必要だが、そういった教育機関やそこで習う魔法使いは、自分達のお株を奪おうとする銃に対して嫌悪感が強いのさ。考えてもみろ……手間暇かけて習った魔法。それを簡単に上回る攻撃手段を、ドシロウトが修得しようってんだ。嫌になって当然だ。それと銃に対して魔法の手数や威力を上げようとするならば、より強力な魔法を覚える必要がある。しかし元は一般人である冒険者に、城壁を一撃で破壊出来るような大規模魔法をポンポン覚えられたり、技術を拡散されたら、権力者として困るわけだ。だから複数人で行う大規模魔法は秘術扱いなんだよ。結果として魔法の技術は限られた者達による専売特許になったわけだ……それが普通なこの世界では、魔法使いや弓兵にとって、銃っていう武器は仇敵なのさ。平凡な奴らからは嫌悪感から、上の連中からは自分達の既得権を奪われるかもと蔑視されている」
「……ふぅぅ~ん……」
つまり、銃という武器は威力はあるのに、手間と資金が余計に必要で。
その分弓やクロスボウは手軽だし。
基本的に少数で動く冒険者にとって、弓の方が連射が出来るので重宝。
魔法使いからは精神論と権益で憎悪されている。
結果、冒険者からは、これまで自分達が積み上げてきたプロ意識を傷つけられるのを恐れて、アレコレ理由を付けて貶している、と……?
「だから冒険者にとって、銃という武器は邪道なんだよ。自分の中での、英雄としての冒険者像が壊れちまうからな」
「……ふぅ~ん。なら、どうしてアンタはその銃なんてのを使用してるんだい?」
「そりゃー威力がデカいからだよ」
然もありなん、と森人は修験道に挑む山伏のように言い放った。
「例えば、一般的な長弓から放たれる矢の威力が一〇〇としよう……対して銃は、長銃身のマスケットで三〇〇〇、短銃身の拳銃で一〇〇〇クラスはあるんだ。弓で騎士の鎧を破るのは難しい。威力を求めれば近寄らねばならないし、遠距離から破るためには落下時のエネルギーを加味する必要があるからより遠くから狙わねばならない……戦場でうろちょろする奴を、だぞ。そんなの一握りの練達者でしか無理さ。だがマスケットは五〇メートル以上の距離で、騎士のプレートアーマーを撃ち抜けれる。それもそこいらの一般人が数日の訓練で、だぞ」
森人は背中から吊るすマスケットの銃口付近を見せた。
「ほら見ろ、銃身の先端部にあるでっぱりを――これを利用して銃身先端に銃剣を着剣すれば、短槍としても扱える。そうすれば森の中でゴブリンの集団と出くわしても、ある程度は抵抗が可能だ。レイナ、俺は冒険者になりたくて冒険者になったのでも、冒険者をしたくて〝ココ〟にいるわけじゃない……森で猟師をしたいからノルトラントにいるのであって、無宿者が身分の証明として冒険者の登録をしてるんだ。そんな俺が普通の冒険者と求めるのが違うのは当たり前だろ?」
「狩猟は一発勝負だから、求めるのは手数じゃなくて一発の威力。それに着剣すれば槍になるから、自衛用には問題なし、と」
「それと魔法使いよりも簡便な火力とか、な」
まあ、結果として騎士や魔法使い、冒険者としての誇りとやらを穢す事にはなっているがな。
周囲に対する嘲りと憎悪。それらを熾火として燻らせたような声。
森人は今までどんな生活を送ってきたのだろう……レイナの胸をそんな思いが駆けた。
会話の節々から、矜持などの精神論や、権力者やそれに寄り添おうとする有象無象を憎悪しているような感じがする。
「嫌われているのには、どうにもそれ以外の理由がありそうだけど、ね……特にアンタ本人由来の」
店での自分を置いてきぼりにした件とか、森人本人の嘲りを含んだ態度とかが、原因してか……自分でも驚くくらい踏み込んだ発言をしてしまった。
森人の黒い瞳にようやく、分かりやすい感情の揺らぎが窺えた。
「……よく分かったな」首から一つのネックレスを取り出す。「ほら、コレが連中が俺を嫌っている理由の一つさ」
簡素な紐で吊るされたネックレス。そのペンダントトップには四角い金属製のフレームで覆われた、親指サイズの白磁の板が付属している。
「それって、私も持ってるよ! さっき、冒険者ギルドでの冒険者登録した時にもらえた奴だよねっ?」
「そうだ。このプレートは冒険者の認識票。冒険者の等級は下から順に、白磁、アイアン、スチール、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、そして最上位ランクであるミスリル。めったに出ないミスリルを除いて、在野の最高位がシルバーやゴールドである冒険者のランクの中で、実は隠れたランクが存在しているのさ」
なお、鉄や、鋼よりも、青銅の方が等級は上な理由は、金属としての価格による。
「ほら、レイナ……よく見て見ろ。お前のと俺の認識票と、どこか違わないか?」
「うぅぅ~ん……そう言われれば、確かに……」
レイナは自分の胸元の新品の白磁の板と、森人の年季の入っているらしい白磁との違いに注視していく。
「私のはピカピカだけど、アンタのペンダント、結構汚れているね。表面に傷もあるし、色自体がくすんで、少し青っぽいね……」
「それが連中が俺を嫌う理由さ――」
口元には嗤いを浮かべつつも、どこか楽しそうに説明していく。
「冒険者には色々と役得がある。移動の自由だったりとか租税とかで。だからこの世界の連中の中には、冒険者登録だけを済ませて、後は普通の一般人として生活するような奴が少なからず、いるんだよ……」
「そんなの、許されてるの、かい……?」
「農村の農奴や農民は、領主に対して一定数の日数、労働力を提出しなければならない。冒険者も同じで、年一定数の行動や依頼受諾件数をクリアしなければ、冒険者登録は抹消される。だがそれはつまり、一定数の案件をこなせばイイってわけだ。だから護衛だとか薬草採取だとか、軽めの依頼を年数件こなせば、冒険者としての地位と役得を護る事が出来る。で、残りの日数は普通の一般人として働く。例えば『商人』として動き、『冒険者』の身分で別の都市での入国税や諸々の諸税を回避したり、とかな」
「……穴だらけな法律だね」
「役人が机の上で捏ね回した法律だからな。そして連中は絶対に自分達の過ちは認めようとしない。下手に法律を変えようとつつけば、手痛いしっぺ返しを受けるのは間違いなし――だから世界は安定しているのさ」
「でも、それじゃあ真面目に働いている他の冒険者は――あぁ、あー、あー、なるほど……それが嫌っている理由なのかい?」
「言っとくが、俺もその真面目に働いている冒険者の一人だよ。ただ、俺は『冒険者』である理由が他の連中とは違うだけだ。俺は猟師としても働いている。そして猟師と冒険者は、仕事内容が重なる場合も多々ある。それもまた、連中が白眼視する理由だな」
「……何とも難儀な事で」
「ほら、俺の白磁のペンダント……年季によって青く汚れているだろ。こうした冒険者登録だけをしている奴だとか、長い間白磁のランクでいるような奴を、冒険者達の間では〝青磁〟と言って、隠れたランクとして扱ってるのさ。非公式に」
「へぇー、冒険者にも、色々あるんだねェ~……」
「なぁ、レイナ」
レイナがちょっとたじろぐくらい、森人は彼女に接近していた。
その黒い瞳に宿るのは、獲物を切り刻むようカットされた、黒曜石のような鋭い光りだ。
「……何だか俺によくつっかかるじゃないか?」
「そりゃー、これからの生活にも直結するからねー。心配はするよ」
「へぇ~、……にしても、一番最初に出会った時よりも、積極的じゃないか」
「――っ! ちょっ、急に何するんだいッ!?」
森人の十指が狼系獣人の躰を犬のように撫でようとした――だが、それを掃い、後退する事でレイナは明確な拒絶を示す。
満月のような金の瞳が威圧的に黒い男を睨む。
夏の向日葵のような濃い金色の蓬髪が、膨れ上がる怒気を示すように揺れた。
森人ははたかれた自分の手を見詰め、そして――ニッコリと。
――レイナの胸中を鋭い怖気が走った。
「酷いな、レイナ……今は誰も見てはいないのに」
「監視されてはいないけど、こんな往来のド真ん中で急に体を触れらたら、普通の女は驚くもんだよ――あ、またっ!」
「――動くな、レイナ――」
明確な命令に、再び伸びた手をレイナは掃えなくなる。
奴隷であるレイナは、ご主人様の命令には逆らえない。
逃げようとした細い手首が、森人に捕まれてしまう。
「――いいな、ちょっとこっちへ来い――」
拘束した鎖で引きずるように、森人はやや乱暴にレイナを連れて行く。
レイナを連れて来たのは、細い小道だ。
夏に向かう気温の中、墓地のような湿った空気が漂う異質な空間。先程の道は人通りが少なかったが、この道はもっと低い――限りなくゼロに近いだろう。
そんな道だ。
勝気でワイルドを地で通すレイナが、明確な怯えを滲ませた瞳で睨んでくる。
「ア、アンタ……こんな場所に連れて来て、いったいどうする気なんだい?」
だがそんな虚勢を踏み砕くように、森人はレイナの前面に壁のように立ち、彼女を壁際へ追い込む。
「……奴隷の身分で、えらく強気に出るじゃないか、レイナ」
「………フンッ」
これまでよりも、一段強い『奴隷に対する主人』としての態度と声音。
それに怯えを出さないためにも、レイナは強気な態度を崩そうとはしない。だが森人はそんな態度を逆に嬉しそうに笑顔で祝福した。
そのまま、レイナの手首を掴んだまま、彼女の背中は壁と密着してしまう。
そして森人もまた……。
「ちょっと、近付きすぎじゃない!」
「レイナの勝気な顔をもっと間近で見たくてね」
急接近した男女。鼻先が擦れそうな距離に、互いの呼気を表皮に感じてしまう。
「――ッ!」
レイナの頭上の三角犬耳が、蝿を追い払う牛の尻尾みたくビクッと強く反応した。
森人の片足の膝が、彼女の股の間に割り込んできたからだ。
小麦色の頬が怒気で赤くなり、野趣的な美貌に心配そうな色香が覗けれる。
男を一匹のケダモノにしてしまう色香。
見詰め合う二人――その唇が密着した。
「――嫌ァッ!!」
軽く触れた直後、明確な拒絶の言葉と共に、顔を左右に振って森人の口を弾いてしまう。
キィッ――と睨む、爛々と光る満月のような瞳。その目尻に涙が浮かぶ。
「あ、アンタ! いきなり何するのよ!」
「――何、ご主人様としての〝役得〟が欲しくなったのさ――」
そのまま押し潰すようにレイナの躰を壁に密着させる。片足は膝で彼女の股の奥を撫でてやった。
「だからって、そんな、突然に、こんな……それにこんな場所で私の……」
カァァァァ~~……と林檎のように顔全体が紅潮した。
「――は、はぁ、はぁ、初めてだったのにィッ!」
森人の体を押し返そうともがく――だが無駄だ。
蟷螂の斧な反抗よりも、より男の感情を揺さぶるのは、レイナの瞳を曇らせる涙の粒だろう。
普通の男ならば、女の涙でたじろいだり、罪悪感に胸を抉られる。しかし森人とレイナの関係は普通ではない――鋼のような硬さで森人は対応した。
「……酷い、酷いわよ、こんなの、酷過ぎる……んんぅ!」
レイナの涙を無視するように、今度はより強くキスをした。
シャワーを嫌がる犬のように暴れるレイナを押さえ付け、口唇を吸盤のように密着させてやる。
「――ンン! ンンゥゥ、ンウッ! ンンン~~っ!!!」
唇だけ《フレンチキス》ながら、嵐で波打つ海原のような荒々しいキス。
彼女の柔らかな唇を思う存分、こちらの唇で堪能する。
このまま上の唇をGO姦したくなったが――まだだ! まだ待て。
「……いいな、レイナ」ちょっと強めに見詰めてしまう。「俺ばかりが出費したんだ……少しくらいの役得はいいだろ」
「……五月蠅いわよ。このクズ野郎……」
「その服も。あの武器も。冒険者登録料も、俺の財布から出したんだし、これくらいの役得は認めてほしいな」
「ぜ、全部――アンタの目的のためじゃない! それなのに、こんな――」
まだ反抗するレイナの耳に、出来る限り優しく言ってやる。
「……それに、〝本番〟前の予行演習だと思えばいいじゃないか」
「~~~~ッッ!!」
レイナの涙を無視するように――むしろ燃える――再びキスをする。
今度は舌先で彼女の口唇をなぞるように舐めてみた。
段々と暴れるだけだった彼女の体が、徐々に落ち着いていく。
犬の毛をブラッシングするように、手櫛で長髪を撫でていく。指先をこそばゆく流れる毛の感触。そして膨れ上がるように広がったレイナの強い匂い。
女の香りと――雌犬としての芳香が鼻腔を満たす。
「――ぷぅはぁっ! はぁ、はぁ、いいかげんにしなさいよね! アンタ!」
「嫌だね」
今度こそ口腔をGO姦してやる。
密着した唇を蠢かせ、彼女の固く閉ざされた唇に隙間を生じさせて、一気に舌を潜り込ませた。
最初はビクン! と眉が動いたレイナだったが、観念したのか、奴隷だからか、眉を垂らし、こちらの舌を拒絶するような動きは止まる。
「ちゅぅ――ずず、ジュズズズ、んぅ、じゅぅ、んんんっ……」
せめての抵抗か瞼を開き、嫌悪と憎悪の野合である鬼のような眼光で森人の顔を射抜くレイナだが、それも森人が体を撫でてくるまでの儚い抵抗でしかない。
長髪を、肩を、上腕を、背中を、腰を、臀部を。
指先が絶妙な按配でタッチしてく刺激に、若い女体が目覚め、開発されていく。
特にお尻を――突き出た尻尾を直に触らずに、まるで焦らすように指先で外周部を撫でていくのは反則だ。
二人の体が揺れ、それに併せて布と革に圧迫された乳房が擦れる刺激もまた、快感となってレイナを目覚めさせていく。
森人の舌がレイナの舌に絡まってゆく。唇同士が愛を語るように揉まれあい、味覚器官が溶けあうようにグチュグチュと蠢く。逃げようとした舌が、絡まれ、愛撫するように相手の舌に舐められる。
男から女への、一方的な動きだが、その姿勢は艶めかしい。
やがてどれ程の時間が経過した事だろう……。
徹底的に、かつ延々と、森人とレイナは相手の唇を堪能しあい――。
――ぷぅはぁっ、と離れた唇。
そこから僅かにはみ出た舌先――濃厚な程絡み合った互いの唾液が、二つの口を生々しく繋げる。
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……アンタ、ねぇ……」
「……いいな、レイナ……俺の事は、『モリト』だ。『アンタ』じゃない。ちゃんと名前で言え」
見詰め合う二人。視線同士が先程のキスのように妖艶に絡み合う。
しばしそのまま――そして。
「……ふんっ」
GO姦された事がまだお冠なのか……プィッと顔を横向けてしまう。
そんなレイナもまた、とてつもなく可愛いと思ってしまう。
だがここは心を鬼にして、再びカクテルキスを強行!
最終的に彼女が陥落するまで、延々と口腔を貪ってやった。
*なお、キスは夕刻まで続いたもよう。
感想待ってます!




