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見てくれてありがとうございます。

赤い光が差し込む家の片隅で一組の姉弟が震えていた。

姉弟が震えているのは気温が低いわけではなく、むしろ村のいたるところで燃え上がる炎のせいで暖かいくらいだった。


ではなぜ姉弟は唇を青くし震えているのか、それは家の周りから聞こえるギャアギャアと喚き鳴くゴブリンに対しての恐怖であった。


親は家の外に出ていってしまい戻ってこない。

頼りになる大人もこの場にはおらず、まだ幼い姉弟がこの状況に対応するには無理があった。


「お姉ちゃん…」


「大丈夫…大丈夫だから…」


寄り添いあって震える二人の身体が大きく跳ねる。今まで家を塞いでいた扉が音を立てて壊れたのだ。

ばたばたと走りながら家を取り囲んでいたゴブリン達が扉に近づく。


扉を壊したであろう大きなゴブリンが木のきしむ音を立てながらゆっくりと家の中を進む。


そしてすぐにそのゴブリンは部屋の奥にいた二人を見つけた。


「ひっ…」


「ギイィ!」


その醜悪な顔をにたりと歪ませると二人に走り寄り、健気に弟を守っていた姉を無理やり引き倒した。


「いやぁ!放してぇ!」


「やっ…やめろぉ!」


大きなゴブリンが姉の身体に馬乗りになりながら駆け寄ってきた弟を殴り飛ばす。


音を立てて壁に激突した弟に見向きもせず、暴れる姉を押し付けて服に手をかけた。


「いやっいやあぁ!」


このメスを自分の手で蹂躙できるという興奮に抗いもせず、本能のまま服を引きちぎった。

揺れる乳房を見て歓喜の鳴き声を上げた大きいゴブリンに入ってきたゴブリン達が群がる。

その姿を見てさらに顔を青くする姉弟。そして武器を持ったゴブリンが鳴き喚きながら倒れた弟に近寄る。

腕で、足で、または武器で小さな弟をいたぶるゴブリン。その様子を見て他のゴブリン達が笑う。


「…れか」


ボロボロと両目から涙を流しながら殴られる弟を見る姉。

冷たい床の感触も、自身にまたがる大きなゴブリンの重さも、愉快そうに笑うゴブリン達の鳴き声も彼女の絶望を強くする。


「だれか…」


にじむ視界の先で倒れ込んだ弟に向かってゴブリンが武器を構えなおすのが見える。


「だれか、助けて…」


ギャアギャアと喚き鳴くゴブリン達に答えるようにめいっぱい武器を振り上げるゴブリン。

弟が殺された後は姉が凌辱の限りを尽くされるのであろう。

絵本のように、勇者様が助けてくれるなんてありはしない。


これがこの世界の普通で、魔物に襲われるのはよくある不幸な出来事なのだ。



助けを求めるその声は神には届かない。そう、神には。


「誰か私たちを助けてよぉ!!」


姉が叫んだ瞬間、窓の硝子を割りながら男が家の中に飛び込んできた。

思わず何事かとそちらを見ようとした武器を振り上げていたゴブリンの顔面に短剣が突き刺さる。

空中で身体を捻りながら着地した男がゆっくりと姿勢を正す。


ようやく何者かが自身の楽しみを奪おうとする敵であることに気が付いたゴブリン達が武器を持って男を取り囲む。

その後ろで大きなゴブリンが怒りに震えながら叫んだ。


「ギヤァァァァ!!」


姉弟が身を震わすその叫びを聞いても男は眉一つ動かさず二人を見てにこりと笑った。


「嬢ちゃん聞こえたよあんたの声。二人でよく頑張ったな」


無視をされたことに気が付いた大きなゴブリンが怒りのあまり顔を真っ赤にする。

そんな仲間の様子を見てゴブリン達が騒ぎ、男に近づく。


「魔物如きに分かるとは思わんが…一応名乗ってやるよ」


男が端正な顔立ちの眼を鋭く尖らせ、ゴブリン達を睨みつける。そして音を立てながら腰に薙いだ長剣を引き抜いた。


「セブンスター・フルク教神官戦士ディーク・コード。こいや畜生共」


「ギイィィィ!!」


ディークが名乗り終えると同時に一匹のゴブリンが近づいてきた。不用意に寄ってきたそのゴブリンをディークは大きく袈裟斬りにする。その動きは大きく、部屋の奥にいる姉弟にもよく見えた。


ゴブリンが崩れ落ちると同時に姉弟の表情が少しだけ明るくなった。

その様子を確認したディークは動揺するゴブリン達に踏み込むと適当な一匹の腹を切り裂き、そして瞬時に長剣を逆手に持ち替え、後方のゴブリンの頚部に突き刺す。


奇声を上げながら襲い掛かってきたゴブリンの攻撃を死骸が刺さったままの長剣で受けると空いている左腕で横っ面を殴りつけた。


追撃を加えようとしたディークだったが死骸が刺さった長剣から手を放しテーブル近くまで跳んだ。

瞬間大きな木の棍棒が先ほどまでディークがいた場所を叩いた。


叩き潰されたゴブリンの血で濡れた棍棒を振りかぶりながら近づく大きなゴブリンの攻撃を避けながら椅子の背もたれを掴むと、お返しと言わんばかりに投げつけた。


飛んできた椅子に直撃し、ふらついた大きなゴブリンの真正面からディークが駆け寄る。逆手で後腰のダガーを引き抜きぬくと目にも留まらぬ速さで大きなゴブリンの頚部を切り裂き、その勢いを殺さずふらふらと立ち上がっていたゴブリンに回し蹴りを叩き込んだ。


そのままピクリともしなくなったゴブリンを確認すると、ダガーの血を払い鞘に納めると姉弟に向き直った。


「大丈夫だったか?」


「あ…は、はい…」


小さな声で姉が答える。


「動けそうなら何か服を着てきてくれ、その間に弟さんを治しておく」


ディークの言葉に頷き、ふらふらと二階に上がっていった姉を見届けた後、弟の身体をしゃがみ込んだディークが触診する。


「骨は…折れてないな、打撲と裂傷が大半か」


キュア、と緑色の光を生み出しながら手を弟の傷に近づける。すると緑色の光が球状になって傷口を塞いだ。

自身の傷が塞がっていき、身体が楽になっていくのを感じながら弟が目を点にしていると、ディークが優しく笑って弟を抱きしめた。


「坊主、よく頑張ったな。かっこいいぜ」


その言葉を聞き幼い身体で受けた痛みや恐怖を実感したのか、しゃくりあげながら涙を流しディークに抱き着く。そんな弟をディークが宥めながらその小さな背中を優しく撫でる。


「ううっ…ひっく、うぇぇん!」


「坊主が頑張ってくれたおかげで間に合った。ありがとうな」


ぐずぐずと鼻を鳴らしながらディークの肩を涙で濡らす弟。そこへ姉が服を着て降りてきた。

その様子を見たディークが弟の頭をポンと優しく叩き立ち上がった。


「二人共もっとケアしてやりたいんだけどな。他の人達を助けないといけないんだ。…ごめんな」


申し訳なさそうに言うディークにしがみつきながら首を振る弟に近寄り、まだ青ざめた顔をした姉がディークの言葉に答える。


「いえ…皆が心配です。どうかお願いします」



自身の恐怖を押し殺し、村人を気遣う姉の頭を優しく撫でると死骸から長剣を引き抜き姉弟を引き連れて玄関に向かう。


「…大丈夫でしょうか」


弟の手を握りながらディークに続く姉の言葉を聞き、ディークが笑いながら玄関の前で二人に向き直る。


「なーに、セブンスター・フルク教の神官として必ず二人や他の村人は…」


「うっ後ろ!!」


ディークの後ろに向かって指を指した姉の瞳には獲物を振りかぶったゴブリンの姿が映っていた。


自身を助けてくれた人の頭が割れ、崩れ落ちる想像をした姉が顔を伏せ弟に抱き着く。

瞬間刃物が肉を貫通した音が響き、ぐしゃりと何かが倒れる音がした。


そして、ゴブリンが襲ってこないことを不思議に思った姉が恐る恐る目を開き顔を上げた。


そこには先ほどと変わらない笑顔で二人を見るディークがいた。その手には長剣が逆手で握られており、玄関のすぐ先で倒れたゴブリンの血で濡れていた。


「安心してくれ」


長剣を握り直し、血を振り払ったディークが表情を変えて真剣に二人を見つめる。


「二人も、他の村人も必ず守って見せるさ」


外を見て目を鋭く尖らせる。そしてそのまま玄関を出て、振り向いた。


「それが俺の仕事だ」














傷を負い倒れ込んだ村人に喚き鳴きながら大きいゴブリンが近寄る。恐怖に震える村人を見て醜悪な顔を歪ませ、血で濡れた剣を構えた。

そして振りかぶろうとしたその醜悪な横顔に短剣が突き刺さる。思わず剣を落として顔を抑えた大きなゴブリンにディークが駆け寄り袈裟斬りにすると、噴き出た血を物ともせずその大きなゴブリンに長剣を突き刺し押し倒した。


動かなくなったことを確認すると返り血で染まったまま村人に近づき回復魔法をかける。

そして村人がお礼を言う前に助けを求める村人の声が聞こえた家に向かって走り、そのまま家の中に飛び込んでいった。


あっけにとられる村人にクレイモアを肩に担いだチルが近寄る。そのすぐ後ろにはエレーナや姉弟、助けられた村人たちがいた。


「我々は教会ギルドの者です。大丈夫ですか?」


「あっああ、はい…えっと今のは…」


「頼りになる仲間ですよ」


「いやそうじゃなくて…」




あの後、ディークが置いていった神具箱や荷物を持ったチルとエレーナが合流し、手分けして救助を行っている時に、とある村人から村長の家ならまだ魔除けの加護が効いているかもしれない、という話を聞き、生きている村人を集めて村長の家に向かうことした一行。


そして護衛と治療をチルとエレーナに任せ、村長の家までの道の掃除と村人の救助を受け持ったディークが先行しているのだった。


そんな話をしていると、家から老婆を背負ったディークが出てきて一行に合流し、エレーナに治療を任せてチルに近寄る。


「どうだった」


「あの家にもホブゴブリンがいた」


「…集団のリーダーだとしたら数が多いな」


「…まだ上がいると思った方がいいなこりゃ」


「ふむ…」


ディーク達が一行の速度に合わせて歩いていると男の声が聞こえた。


「おーい!」


その声がした方向を見ると村長の家の前で木こり用の斧を持った男が一行に向かって手を振っていた。

彼の周りには鋤や鍬などの農具を持った男たちが座り込んでいて、その誰もが安堵したように笑っていた。


名前を呼び合いながら互いに無事だったことを喜び合い、涙を流す村人達をすり抜け斧を持った男にディーク達が近寄る。


「神官戦士ディーク。こっちがのチルとエレーナだ。あなた方が無事だった事を嬉しく思う」


「木こりのダイオルだ。来てくれて助かった!どうぞ中へ、怪我人がいるんだ」


そう言って案内する木こりのダイオルの後に続いて家の中に入り奥に進むと、十数人程の村人がいた。女子供や老人などに囲まれて寝かせられている男達は皆血で滲んだ包帯が巻かれ、脂汗や呻き声を上げていた。


ディーク達が入ってきた事に気付いた老人が立ち上がり近づく。


「おおダイオル…そちらの方々は?」


「喜べ村長!神官様方だ!」


「おお!それはそれは…どうかこの者達を助けてやってくださいませんか」


「任せてください。エレーナちゃんはそっちを頼む」


そう言いながらディークが近づいた村人の胸部には深い裂傷があった。


ディークが回復魔法を使うと緑色の光が村人の数を包む。


しかし光が消えても傷は完全には治っておらず、すぐに戦う事は出来そうになかった。


「し…神官様!どうして…」


思わず首筋を掴んで食ってかかろうと村人の腕をディークが掴み上げる。


「いいかよく聞け。回復魔法ってのは万能なんかじゃない。傷を治す時に俺の魔力だけじゃなくてあんたの体力や魔力も微量ながら使ってる」


掴んだ腕をゆっくりと下ろし、村人の目を見てディークが続ける。


「自然の理に抗って無理矢理治してるわけだ。流した血は戻らないし、回復痛や深い傷跡が残ったりする。つまり今のあんたを全快させると身体に悪いんだ」


「…」


「言いたいことは分かる。でも、神官としてあんたにこれ以上回復魔法は使えない」


「…分かりました。神官様の言うことですから、従います」


力無く呟いた村人の肩を軽く叩き、近くにいた女性に任せると次の怪我人の元へと近づいて行った。


ありがとうございました。良ければ評価や批評お願いします。


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