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見てくださってありがとうございます。

ディーク・コードは今年で二十七歳になる。

今はなき小さな村の出身で、彼が十歳になったときにパロの街の教会に住み込みで奉仕しに来た。


その時に担当を申し出たのがセブンスター・フルク教の司教、オジインであった。


オジインはディークを優しく、時には厳しく教え、まるで親のように接した。

それに答えるようにディークも一生懸命働き、学び、鍛えた。

ディークが十五歳になったときに彼の村はなくなった。賊に襲われたのだ。

生存者の中に彼の両親はおらず、そのことを知った彼はオジインにすがりつき、一晩泣いた。



それからより一層訓練に励んだ彼は十七歳の冬、一週間ほど姿を消した。

皆が心配する中、服を赤く染めて帰ってきたディークの持つ袋の中には彼の村を襲った盗賊達の首が入っていた。

どこで盗賊達の情報を知ったのか、なぜこんな危険な真似をしたのか。周りの質問に答えず自身を泣きながら抱きしめていたオジインに呟いた。


俺の復讐は終わった。これからは、あんたみたいに誰かを助けて生きていく。


ボロボロになった顔の鋭い瞳は、復讐心ではない、強い意志がこもっていた。






「あの言葉を聞いた時、私はなんて優しい子なんだろうって思ったんですよ」


オジインがにこにこと笑いながらスープをよそう。

ディークは顔を引きつらせながらそれを受け取る。


「勘弁してくれよじいさん…俺はもうそんなやつじゃねぇよ」


強くなり、いくつになってもこの人に勝てる気がしなかった。


「ふふ…昔と少しも変わらない。優しいままですよディークは」


「そうかい…それよりも依頼書と報酬、あれでよかったか?」


ホクホクとした芋を頬張りながらディークが露骨に話題を変えようとする。

オジインはますます笑いながらそれに乗っかる。


「ええ、不備なしでした。…いつもあなたばかりに危険な仕事を任せてすみません」


オジインが笑うのをやめ、申し訳なさそうにディークと向き合う。


「私がもっと頑張っていれば」


「ストップだ、やめてくれじいさん。俺がやりたくてやってることだ」


食事をする手を止めてディークも向き合う。

セブンスター・フルク教ははっきり言って小さな宗教である。地方の村などでは人気が高かったりするのだが、現状、パロの街では信者が数百人、神官はオジインとディークを合わせて十人ほどである。

そのうえ神官は八人が高齢、一人はまだ見習いで戦闘を行えるのがディーク一人だけであった。


「別に荒事の依頼を俺が受けなかったらいいだけの話でじいさんが気に病むことなんかじゃねぇよ」


「ですが…」


「あー、じゃああれだ、また新しい魔法教えてくれよ。それで対等!」


はい終了!と笑いながら食事を続けるディーク。そんな彼を穏やかな顔で眺めるオジイン。そこには司教と神官という仕事だけの関係ではない、家族とも友達ともつかない奇妙な、されど優しい絆が存在した。


そうして穏やかに時間は過ぎていくのであった。







「そういえばディーク、あなた受付の女の子をいじめたそうですね?それに話によると酒場で飲んだくれて防具を売ったとか。すこしお話ししましょうか」


「いや、違うんだよじいさん。それには事情があって」


「ディーク。そこに座りなさい」


「オ、オジイン司教?もう夜だし、風呂上りに石畳の上で正座なんかしたら身体が冷えちゃうなって思うん」


「コード神官?」


「…はい」



たとえ二時間正座をさせられて説教されたとしても、穏やかに時間は過ぎたのである。






窓から差し込む朝日と鳥のさえずる鳴き声でディークが目を覚ます。

ベットの上で全身の骨を鳴らしながら意識の覚醒を待つ。


正座と説教の後、遠慮するオジインを彼の家まで送り届け痺れる足でなんとか教会の部屋へ戻ってきた彼は、二週間の旅の疲れが出たのかすぐに休んだ。


(今日やることないしな…)


まだ燻る(くすぶ)眠気を感じながら今日の予定を思い出す。だが今日は何の予定も入れておらず、一日フリーであった。


(…もうちょい寝るかぁ)


襲い来る睡魔に抵抗しようともせず、のそのそとベットの中に潜り込むディーク。その姿はダメ人間であった。


パタパタと遠くで聞こえる足音を聞きながらディークは眠りについた。


意識が遠のく。忘れかけてきていた夢を鮮明に思い出してくる。ああそうだった。こんな夢を見ていた。さて続きを見るとしよう。

なにもかもがあやふやになって、自分が溶けて意識が途切れるその瞬間。




「おっはようございまーす!!!」


鶏も真っ青な元気な挨拶と共に木の扉がバァンと開いた。




数分後、一番気持ちのいい眠りを妨害されたことで眉間にしわを寄せたディークが椅子に座っていた。


「ディーク先輩帰ってたんですね!」


ばたばたとシーツを回収しながら子供が言う。

神官見習いの証である黒色の修道院服のうえにエプロンを付けた、十歳になったばかりの彼女にはだらりと垂れた茶色い犬耳と、ふさふさの大きなしっぽが生えている。

大きな目と元気な表情は見ているだけで誰しもが笑顔になれた。


「ああ…昨日な…」


眠そうに顔を掻くディークは笑っていなかったが。なんだこいつ。


「あれ?どうしたんですか?もしかしてしんどいんですか!?」


あわあわと子供が動く。その顔はころころと表情が変わって面白い。


「大丈夫だ…ちょっと眠いだけだから…」


それにしっぽをぴんと立てて反応する子供。嬉しそうにディークに近づく。


「じゃあ一昨日覚えたとっておき使いますね!せぇーのっ【リフレッシュ】!」


子供の突き出した両手の先から薄紫色の光がディークに降り注ぐ。光が当たった瞬間に眠気やだるけと言ったものが薄まり、身体がスッキリとしたことが分かった。


「リフレッシュまで使えるようになったのか…やるなぁコルト」


わしゃわしゃと犬耳ごと頭を撫でる。

きゃーと嬉しそうにしながら子供、コルト・レトリバーはにこにこと笑った。


「ねぇねぇすごい?」


興奮して言葉遣いを崩したコルトがしっぽを振りながらディークに聞く。


「すごいすごい。ただリフレッシュの説明が出来たらもっとすごいんだけどどうだ?」


「えへへ…」


照れ笑いで誤魔化すコルト。それに苦笑をしながらディークが説明をする。


「状態異常回復魔法【リフレッシュ】は解毒魔法【デポイズン】とか麻痺解除魔法【パラライズリカバリー】に比べたら効果はさほどでもないが、一番は眠気や疲労にも多少の効果があるってことがメリットだ。野外活動では使えたら便利だな」


じっと話を聞くコルトを笑って撫でる。


「まぁつまりリフレッシュが使えるコルトは偉いってこった!」


「やったぁー!」


しっぽをぶんぶんと振り回しながら撫でられるコルト。

ひとしきり撫でられたところで上機嫌で掃除を開始したのであった。





(追い出されてしまった)


掃除が終わるまでお散歩でもしていてください!と上着と財布を渡されて部屋を追い出されたディークはとりあえず教会の外に出ようと廊下を歩いていた。


仕方がないから店でも見に行くとしよう。いいものあったら買おう。と若干ウキウキしながら廊下を突き進むディークの顔が途端にひきつった。


ディークの視線の先には一人の神官を複数の神官が取り囲んでいるのが見えた。

仲が良いようには見えず、囲まれている神官はしゃがんでいるため誰だか分らない。しかし周りを取り囲む神官は悪質な勧誘を行う団体として幾度となく注意されていたのをディークは覚えていた。


聞こえてくる話も、


「なーうちにこいよ」


「俺らのとこに来たら口添えしてやれるぜぇ?」


「まぁちょっといい思いはさせてもらうけどよ」


などといったチンピラ極まりない言葉しか出てこず、同じ神官として情けなくてため息をこぼした。

話を聞く限りでは相手は女性であるらしく、ディークは女性を誘う手本を見せてやろうとわざと足音を立てながら歩き始めた。


足音に気が付いた神官たちがディークを見ると驚愕した表情で我先にと逃げ出した。

なんだあいつら、と不思議そうにそれを見送った後、うつむいている神官に手を差し伸べて立たせようとした。


「ケガはないか?立てるか?」


ディークの腕を両手で掴んだ女性が立ち上がり、顔を上げるとディークはまた顔をひきつらせた。


短く切りそろえた赤茶色の綺麗な髪。透き通るような緑色の瞳は少し驚いたように開かれていた。

中性的な顔立ちに加えズボンを履いているため一見男に見えなくもないが、白いカッターシャツの胸部の膨らみが彼女が女性であることを表していた。


「ありがとうディーク」


「なんでツァルンデーレ教幹部様が絡まれてんだ…」


「彼らは僕が誰か分かってなさそうだったよ?」


「それはそれで大問題だよ…」


ぱたぱたと服をはたきながら女性がくすりと笑った。


「それはそうとディーク。うちに入る気にはなってくれたかな?」


「お断りだぜラヴィーさんよ。俺はセブンスター・フルク教の神官戦士だ」


ツァルンデーレ教幹部、ラヴィニア・ラティーナはその言葉に肩をすくめる。


「僕のところは結構大きいし苦労はさせないよ?…って毎回言ってるんだけどね」


ラヴィニアの言う通りツァルンデーレ教の規模は大きい。このパロの街の信者数は数千を超え神官の数は三百近くになると言われている。

そんな大手幹部のもらう給料はそこいらの下級貴族と変わらない生活を過ごすこともできるほどであり、そんなラヴィニアが弱小宗教の神官を勧誘していることが第三者から見ればおかしかった。


「その気になったらいつでも僕に言ってね」


「おーそれじゃあなー」


少しも気持ちのこもっていない返事を返し、その場から去ろうとするととラヴィニアがディークの手を掴んだ。


「待った、どこに行くんだい?」


「朝飯ついでに買い物だよ。中等区と下等区しか行かねぇぜ」


「なるほど…ちなみに僕は今日久しぶりに空いてるよ?」


手を後ろで組み上目遣いでディークを見るラヴィニア。その顔には誘えと書いてあった。


「ほら、女の子が暇そうにしてるよ?」


「そうかい。そんじゃあ一日ゆっくりしてたらいいさ」


「…お、女の子が暇そうにしてるんだよ?」


「悪いがな、お前さんのところの信者とか神官は嫉妬深いから一緒に買い物なんかしてたらって…」


ラヴィニアが下を向いて落ち込む。可愛い子は何をやっても可愛いのだ。

その様子を見たディークが諦めた顔で頭を掻いた。


「分かったよ!ったく…よかったら俺とデートしていただけませんか?」


そう言いながら手を差し出す。その手を嬉しそうに笑いながらラヴィニアが取り、そのまま腕を組もうとした。


「やめろォ!お前んとこの神官が見たら殺されるだろうが!」


「いいじゃないか。デートに誘ってくれたのは君だろ?」


やいのやいのと話しながら二人は教会出口に向かって歩き出した。

他宗教の人間は立場も宗教も違う二人を不思議そうに眺め、ラヴィニアを崇拝する人間は血の涙を流しながらディークを睨みつけた。


なおこれから数日、ディークは夜道を歩くことはなかった。勘のいい男である。

ありがとうございました。よければ評価や批評お願いします。

頑張って書いたんでほんとにお願いします

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