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1 ゲームとリアル

「うおぉぉおおおおおお!」

 俺、安西龍太郎は走っている。というと何かの競技かと思うかもしれないが実際は違う。

 後ろから追いかけてくる怪物から逃げているのだ。


 それは突然の出来事だった。

 何の変哲もない昼下がり、地響きと共に東京のど真ん中に怪しげな塔が現れたのだ。

 俺は高校の自分の教室から一部始終を見ていた。おそらく、ってか間違いなく俺の教室のやつらは全員が見ていただろう。

 そこからはあっという間だった。何かのゲームのように街中に怪物が次々と現れ人を襲い出した。怪物は例外なく俺達の学校にも出現したため、一目散に逃げ出して今に至るというわけだ。


 叫びながら逃げるもここは俺の地元ではない。高校までは電車で1時間。正直駅から学校までしかきちんと分かる道はない。闇雲に走り回っても曲がったところで行き止まり、逃げ道がなくなる。

 だが俺は妙に冷静だった。それはあの塔に見覚えがあったからだ。

 今では珍しくもない、精神ダイブ式の通信機器を活用した数多くのゲーム。

 その中でも1ヶ月ほど前から人気になり始めたゲーム『フィーニス・タワー』。

 今も見えている塔は 『フィーニス・タワー』、通称フィーニス に出てくる塔にそっくりだ。更に出てくる怪物まで。

 だから俺は試してみた。

「……冒険者の剣」

 フィーニス・タワーはオール音声コマンド式のゲーム。メニューを表示するのも武器を装備するのも指での操作は必要ない。勿論キーボードを使ったりすることも出来るが、戦闘時はどうしても音声の方が早い。

 俺は初期に持っているはずの装備名を口にする。光のエフェクトと共にいかにも弱そうな剣が俺の右手に収まった。

 眼前に迫る怪物を見据える。

 蜘蛛を模した怪物は俺より少し大きいくらいで威圧感があるが、実際はLevel1〜3の雑魚。名前もスパイダーと適当で、冒険者の剣でも十分に倒せる。

 牙を向けてきたスパイダーに向け剣を一閃。スパイダーは雄叫びを上げて消えていった。

 怪物の死体が残ることがないあたりも正しくゲームだ。

「どうなってんだよ……」

 手首に付いている端末を見る。

 今主流の腕輪型の端末はこれで全ての通信の機能をまかなっている。前までは頭に付けていたのだが、腕に付けても良いように誰かが開発したらしい。

 俺は端末からとある番号を呼び出した。

 画面越しに顔を突き合わせての会話も出来るが、相手も怪物に追われてた場合邪魔になる。

 普通の通話を選択して電話をかける。

 昔から変わらない電子音が脳内に響き、直後に相手が出た。

『うおぉぉぉおおおおおお!』

 ……どうやら会話ができる状態じゃないらしい。

 呼び出したのは佐久川麗也。高校からの友人で、かなりのゲーマーだ。

「おい麗也、フィーニスみたいに武器装備してみろ」

『うおぉぉぉおおおおお冒険者の剣ぃぃいいい』

 その召喚の仕方ダサいぞ馬鹿野郎。

 間抜けな召喚だったもののアイツもゲーマー。麗也は無事に敵を倒せたらしく、消滅した音が聞こえてきた。

『龍、助かった。それで今どこにいる?』

 クールに決めようとしているが無駄だ。さっきの失態は落ち着いたら引っ張り出してやる。

「変な路地裏だよ。闇雲に走ってたら道が分からなくなっちまった」

 ここはいかにも路地裏といった場所だ。清掃ロボが開発されてからは街は綺麗なものだが、こんな所があったとは。

『俺はマルタスーパーの近くだ。とりあえず合流したいが……』

「マルタスーパー?」

 周りを見ると建物の間からその看板が見える。

 うちの高校の周りにマルタスーパーは1つしかない。

 結構走った気でいたが実際は近場を回っていただけらしい。

「何となく場所分かったから俺が行く。麗也はそこから動くなよ」

『了解だ。あの怪物に場所ばれたくないから、一旦切るぞ』

 そう言って通話は切れた。ゲーム通りなら怪物は耳も良いだろうから。

 俺はマルタスーパーの看板を横目に袋小路から出た。念のため装備はアイテムBOXにしまって。

 周りに注意をしながら進み、とりあえず状況を整理をしておく。

 まず、ゲームの世界が現実になっている。

 普通に考えてありえないが、事実今見えている塔はまさしく『フィーニス・タワー』だ。

 フィーニスがリリースされたのは半年ほど前。だが人気が出始めたのは1ヶ月前だ。理由は分からないが、誰かがフィーニスの布教活動をしたらしい。今では日本国民の2人に1人がフィーニスをやったことのある人気ぶりだ。

 そしてこの事件。

 どんな仕掛けをしたらこんな大掛かりなことが出来るのか……

 と、銃声が辺りに響いた。

 壁に身を寄せ、そっとそちらを覗き見ると警察官がスパイダーを打っていた。

 でも弾はスパイダーを貫通して地面にあたる。

 それを警察官は気づいていなかった。

「うわぁあああ来るなぁぁあああ」

 ……どうやらあの警察官は2分の1でやってない側の人間らしい。

 助けてやりたいが、状況を把握していない警察官の前で剣を振り回すのは如何なものか。下手したら俺が捕まる。

「そうだ」

 武器が装備できるのなら、もしかしたら防具も装備できるんじゃないか。

「冒険者の鎧」

 呼び出したのはやはり初期装備。武器や防具はクエストをクリアしたりボスを周回して落とさなきゃゲットできない。おそらく、今でも例外じゃないだろう。

 冒険者の鎧は茶色が基本の初期装備。だが首元にスカーフが巻いてある若干オシャレにも気を使っている装備だ。

 俺はそのスカーフで口元を覆い、

「冒険者の剣!」

 剣を呼び出したのと同時に飛び出した。

 まずは俺が撃たれたら適わないから、警察官が持つ銃を剣で下から上へ薙ぎ払う。

 弾みで手を離したのを確認して迫るスパイダーを一閃。

 スパイダーはゲーム特有の効果音をたてて消えていった。

「お、おい!お前業務執行妨害で逮捕するぞ!」

 遠くに飛ばした銃を拾いに行きながら警官が声を荒らげた。

 ……絶対そんな展開になると思ったんだ。

 だがフィーニスに出てくる敵は普通の武器では倒せない。

 プレイヤーは例外なく天の加護を受けた勇者となり、加護を受けた武器でしか攻撃が通らないようになっているのだ。

 ゲーム内でもパニックになるとその辺の石を投げたりするが、全てさっきの弾のように素通りしてしまう。

 説明してやりたいが、後ろにいる警察官は極度の興奮状態。これで話しかけたら間違いなく逮捕される。

 俺は猛ダッシュでこの場を離脱した。

 助けてやっただけ良いと思えこのやろう!

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