天使長のいないある日の騒動
唐突だが、ちょこちょこ存在だけ匂わしている僕の『従姉のおねーちゃん』こと、加藤日和について説明しようかと思う。
現在僕は祖母の残した洋館で一人暮らしをしている。実家は電車で三十分、いつでも帰れる距離だが、だからこそ滅多に帰らない距離ともいえるだろう。
家族はここまで来ない、僕も家まで帰らない、そんな中で世話を焼いてくれるのが日和おねーちゃんだ。
近所に住んでる日和おねーちゃんは、女子高に通う女の子らしい女の子で、なんだかとってもきらきらしている。比喩だけどさ。
たぶん僕が本当に男の子だったら、初恋は日和おねーちゃんだっただろう。料理が出来て裁縫が得意でおしとやかで世話焼き。よくできてんなー。
昔から僕に対して過保護(…まぁ、幼少時の僕は酷かったけど)なので、一人暮らしに一番反対したのはこの日和おねーちゃんだったのである。
いわく、「絶対まともにご飯作らないでしょ!」である。真理だ。
結果おねーちゃんはよくこの家に来る。ご飯を作りに、あとは家事をしに。んでもって僕が家の中で行き倒れていないか確認しに。
ちょっぴりありがた迷惑なところもあるが、心配してくれているのは純粋にうれしいのだ。
…けれど。
「…めぐちゃん、この子誰?」
「む、巡の言っていたおねーちゃん、か?」
そうだよなあぁ、いつかはこうなるよなぁ、僕の馬鹿、すっとこ馬鹿!
どうしてルシファーに隠れててってお願いしなかったんだろう!
以下、僕の下手な言い訳。
『近所に住んでる子どもなんだけど親が忙しくって一日中一人ぼっちだから(大嘘)、近くに住んでるよしみで預かってるっていうか(僕そんなに社交的じゃない)、面倒見てるっていうか(自分の世話もままならないくせに)、なんていうか…そんな感じ!』
いや無理だって誤魔化しきれてないって!ほら日和おねーちゃん胡散臭そうに見てるし。
「めぐちゃん、なんか様子が変」
「いつも通りだよ」
「いや、わしも普段の巡とは様子が違う気が」
「ルシファーは黙る!」
余計なこというなぁ!
「ルシファー?って、堕天使の?」
おおっとおねーちゃん、予想外のところに食いついてきたよ。え、ルシファーって意外にメジャーな名前だったりするの?
「ふっふっふ、小説漫画にゲーム、最近ではラノベやオンラインゲームにも登場しとるからの。超有名人じゃ」
つい最近まで千年の惰眠を貪っていたくせに、妙に現代サブカルチャーに詳しいルシファーがいう。ちょっと得意そうなのがイラっとした。
「あだ名!その子のあだ名なんだよ!なんか好きなんだってさ自称ルシファーなんだってさ!」
そう呼んであげてねっ!強引に押し切るとおねーちゃんは首をかしげながらもうなずいた。
「えっと、ルシファー君?」
「なんじゃ」
「めぐちゃんと仲良くしてくれてありがとう」
真面目に頭を下げるものだから、なんだかとってもいたたまれない感じになったよ僕は。コレじゃまるで、僕がルシファーに世話されてるみたいじゃないか。
おねーちゃんはそんな僕の様子には全く気がつかず、頭を上げると今度は小首をかしげた。
「でもこんな時間までご両親が迎えに来ないのは、ちょっと問題だと思うわよ」
現在時刻は23時。確かに、小学校低学年(見た目のみ)が人様のお家に居ていい時間はとうに過ぎている。
…ミカエル、出てくるなら今だぞー。ルシファーの家族、来い。
けれど半端に常識人な彼が、夜中に訪れたことはない。ピンチ継続中です。
けれど神は、っていうか天使は、困った僕を見捨てなかった!
ピンポーン。
…あ、間抜けなチャイムだ。
「はーい」
「っ、待ってぇ!僕、僕が出るから!」
嫌な予感がする。っていうかこのタイミングでこのチャイム、嫌な予感しかしないから!
僕の必死の制止を軽やかに聞き流し、おねーちゃんは扉を開けた。どうでもいいけどこの家、覗き穴がないから防犯上とっても危険だな。
「どちらさまでしょうか」
「すみません、遅くなりました。あの子を引き取りに来たのですが」
そういって、見慣れた笑顔を浮かべるのは、どこからどう見ても仕事帰りのOLにしか見えないスーツ姿のガブリエル。背後には巻き込まれたのか、これまたスーツでびしっと決めたウリエルが、あきらめ顔で立っていた。
…本当に、ドチラサマですかあんたがた…。
神様天使様、コレなら見捨ててくださったほうがよかったです。正直説明がさらに面倒くさくなっただけだからこの状況!
「あの子の母親です」
堂々と嘘をつくガブリエル。
「ち、父です…」
顔が引きつるウリエル。
「わー、おかーさんおとーさん(超棒読み、でも楽しそう)」
二人に駆け寄るルシファー。
…ミカエル、いま来てくれミカエル、このよくわからない状況で一緒に混乱してくれるのはミカエル、君しかいないよ。
「ほら、今日もいい子にしていましたか?」
「いい子にしてたよー」
「それはよかった。ほら、巡おねーちゃんに挨拶なさい」
「うん。じゃーねー、巡おねーちゃーん」
「お世話になりました…」
いえ、あなたのほうこそお疲れ様です。
そうしてのりのりなガブリエルとルシファー(後半口調変わってた)と、二人に振り回されたウリエルの即席偽家族は、僕に途方もない心労だけ残し夜にまぎれていったのだった。
「めぐちゃんも意外とご近所づきあい、頑張っているのね。見直しちゃった」
「うん…うん、もー、それでいいよ…」