(堕)天使と弟と僕 前編
どうしようかこのチンピラ。っていうのが正直な感想だった。
だって絶対面倒くさい。ルシファーに会わせても、会わせなくても面倒くさい!
大体この弟君の変わりよう、ルシファー知ってるのかな…知らないよなぁ、ガブリエルとも千年振りって言ってたし。人だって数年で変わるんだから、天使とはいえ千年たってりゃココまでなるか…なるか?だって天使なのにチンピラって!
「おいこら人間、話し聞いてんのか」
「聞いてるよ…」
面倒くさいなぁ、もう。大体ルシファーお昼寝中だし、どこにいるのかなんて僕もわからない。
「なんかルシファーの話しとずいぶん違うなぁ…」
「…テメー、どんな風に俺のこと聞いてやがった…?」
ミカエルの眉間にしわがよる。せっかく整った容姿なのに、そうするとやけに子ども染みて見えた。
「よく出来た自慢の弟だ、って」
「…」
正直に言ってやったのに、ミカエルは黙り込む。気まずい沈黙。
するとそれをぶち壊すかのように、すでにぶち壊された窓からまた一人人外がやってきた。
「ここですかミカエル覚悟!」
剣を持ったガブリエルだった。
「っぶね」
「っていうか何で天使って人んちで刃物振り回すの…」
しかもこの人一応、天使長だという話なのに。謀反?
「ああ、まだルシファーとは出会っていませんね。よかった。ほら帰りますよミカエル、このお家のことは忘れなさい」
「うるっせーよ!だいたいガブリエル、お前俺にルシファーのこと黙ってたろ!そこのやつらがおどおどしてたから締め上げたら、お前に口止めされたと白状したぞ」
窓の外には以前ルシファーに突っかかってきた「ひよっこ」天使3人組。と、苦労人ウリエル。
締め上げて吐かせたって、ますます天使じゃないなこいつ。
「当然じゃないです、あなたにそんなこと知らせた日には、天界の危機ですもの」
「訳のわからねえことを…」
あー本当、帰ってくれないかなこいつら。訳がわからないのは僕の方だってのに。
目線でウリエルが申し訳なさそーにしているのもいたたまれない。苦労人だな、こんな人たちに振り回されちゃって。
「とにかく!俺はあいつに会うまで帰らねーからな」
「このチンピラ天使長が…」
あ、やっぱり天界でもチンピラ扱いなのね。っていうかガブリエルも口悪いな。
しかし、部屋に天使が二人。その上片方は、この間の来訪時に、僕に攻撃を仕掛けてきた人。…あれ、僕やばくない?
この間はルシファーに助けてもらったけど、今はお昼寝中。今回はやられ放題だ。
僕の視線に気がついたのか、ガブリエルと目が合った。と、初対面時と変わらぬ、よすぎる笑顔を向けられた。
「あぁ、ご安心ください。事情が変わりました。今回は攻撃しませんよ」
…よかった、んだろうなー。それって事情が変わらなかったら攻撃してたってことだし、このあともまた事情が変われば敵対するんだろうけど。
しかしそれを考えていてもしょうがない、んだろうなぁたぶん。開き直って会話でコミュニケーションを試みた。
「あの、ガブリエル、さん」
「呼び捨てでいいですよ」
「じゃ、ガブリエル。その、ミカエルって本当に天使なの?」
「ええ、あのルシファーの弟です。似てないでしょう」
「そりゃまあ。ルシファーから聞いてた話しと、全然違うっていうか…」
「どのように?」
僕はルシファーから聞いた、『よく出来た自慢の、可愛い可愛い弟ミカエル』の話を出来るだけ忠実にガブリエルに伝えた。ミカエルのほうは見ないようにして。なんだか段々顔が赤くなっていっているけど。「…っ、あの野郎」とか呟いてるけど。
聞き終わると、ガブリエルはなるほどと笑った。
「つまりはルシファーはアホだということです」
言い切る。
バッサリだなー、この人。前回来訪時も思ったが、この人はルシファーのことが大嫌いなのかもしれない。
「実際のミカエルはこんなです」
こんな、とミカエルを指差した。眉間にしわを寄せたミカエルは、自身のチンピラっぷりに自覚があるのか、「うるせー」とガブリエルを睨む。その程度じゃこの人、動じなさそうだけれど。
「まぁ昔々、ルシファーがまだ天界にいたころは、そんな弟の存在が確認されることもありましたけれどねぇ」
「はっ、天界を裏切って俺に討たれて堕天して、さらにはガキの姿になってるやつを、兄だなんて思うわけねーだろ」
わぁ、ルシファーがこれ聞いたら泣くかも。ショックは受けるかもな、受けるよな、よし絶対あわせないようにしよう。
けれど空気が読めないことに定評のある堕天使様。
「む、誰か来ておるのか?」
──何故気づいたし!
空気が一気に冷える。椅子にふんぞり返っていたミカエルが立ち上がり、衝撃で椅子が倒れる。けれど立ち上がった状態から、何故かミカエルは動かない。
代わりにガブリエルが「しまった」と舌打ちを一つし、己の甘さを嘆いていた。
「斬り捨ててでも連れ帰るべきだった…」
「それは天使の発言じゃない!」
「天使?またガブリエルか…おぉ」
ミカエルではないか。
ルシファーはそういって、本当にうれしそうに笑った。
あまりに幸せそうに笑うものだから、その場にいた天使たちと、ついでに僕は、一切の言葉を失って立ち尽くしたのだった。一瞬。
一瞬だけな!