(堕)天使と弟
本日は自称堕天使ルシファーさんに、弟のミカエル君について語っていただきました。
「ミカエルのことか?よっくぞ聞いてくれたのぅ。ふふ、よく出来た自慢の弟じゃ。いつもわしのあとをチョロチョロ追いかけてきてのぅ…とにかく可愛いぞ。
わしは天使時代は天使長などという、名前ばかりが重くて詰まらん地位にいたのじゃが、あの頃は本当、ミカエルだけが癒しじゃった。ラファエルもガブリエルも騒動の種ばかり持ち込んで来よるし、ウリエルは基本裏方だったからの。毎日毎日働きづめの日々だったわ。わしの身体を心配し、様々な形で気遣ってくれたのはミカエルだけだったの。…そういえば、今でこそわしはこんなぷりちーでらぶりーな身体をしているが、一昔前はよくいる美男子でな、よくおなごにきゃーきゃー騒がれたものじゃ。聞きたいか?聞きたいじゃろ。仕方ない聞かせてやろうわしの若い頃を、いかにわしがモッテモテでブイブイ言わせとったかを。ついでにミカエルの可愛らしさと、他の天使のグダグダさを。
あれはわしがまだ現役バリバリに働いていた時じゃった、そのときの上司というかなんと言うか、まあ神なのだが、神は本当に天使づかいが荒くて労働基準法?などというのもない時代でわしは馬車馬のように働かされて疲れて倒れて帰っても次の日また出勤という有様でな。本来癒しの天使のはずのラファエルは気まぐれだし、人間で言うところのマッドドクターとかいうやつらしく、実験と解剖にしか興味ない輩でな。全然癒されんのじゃ全く。
ガブリエルは仕事上では有能な、頼れる副官じゃったがしかし、その分容赦がなくての、仕事を滝のように降らせてくる。本当にな、仕事内容の書かれた紙をばさばさばさーと降らせてくるのじゃ。そうして一言『やっといてくださいね』、じゃ。鬼じゃろう、悪魔じゃろう。本当はガブリエルこそ悪魔っぽいのじゃ。
ウリエルにいたっては、わし以上に働かされておったわ。どこで出会おうがいつ出会おうが、わし以上にずたぼろぼろで…かける言葉が見つからんかったなぁ…まぁ、苦労人なポジションなんじゃろう。今度街で見かけたら応援の言葉をかけてやってくれ。
む、そういやわしのモテモテ話が全然…何、それはいらぬというか。残念。他の天使たちのグダグダさは伝わったじゃろうし、ではミカエルの可愛らしさじゃな。
ミカエルはの、わしの弟で、今はわしの跡をついで天使長をやっておるらしい。わしが堕天したあとの話しじゃから、活躍は知らぬが、きっと立派に勤め上げていることじゃろう。長身、ゆるくウェーブのかかった金髪、碧眼という容貌での、人間たちが描く宗教画にも数多く残される美男子じゃ。わしを慕っていて、様々な気遣いができ、疲れて玄関で倒れた次の日に、やわらかなベッドで目覚めた時の感動といったら…っ!シーツも新しく、枕も新調され、布団がふっかふかだったのには涙が出た。大きくなるにつれ若干やんちゃっこな気質が出てきたが、何おのこはそれくらい元気なほうがいいじゃろう。
わしがこうして堕天して以降、あってはおらぬが…心配じゃ、野菜はきちんと食べているか。好き嫌いの多い子だったからの…」
「ここか、あの野郎が居る洋館ってのは。はっ、ずいぶんボロっちいじゃねぇか」
自室の窓を破って現れた、やけに柄悪い口調の天使は、入ってくるなりそう吐き捨てた。
長身、ゆるくウェーブのかかった金髪、碧眼。大雑把ながら、ルシファーがたっぷりと語りつくしてくれた「弟」の特徴に当てはまっている。
はまっちゃいるが、なー…。
「おい、そこのちんちくりん。ボケッとしてないで俺のために動け。あの野郎をつれてこいよ」
まさかまさか、このチンピラもどきみたいなのが天使なわけ…しかもルシファーが溺愛しまくってる、可愛い可愛い「ミカエル」なわけがない。
「訊いてんのか、早くしねーと屋敷ごとやっちまうぞ」
あの馬鹿野郎にミカエルが着てやったぞと伝えて来い。
尊大すぎる態度で堂々と僕の自室に居座り、椅子に座ってふんぞり返るミカエルを見ながら、僕はこっそりとため息をついた。ルシファー、たしかお昼寝するって言ってたけど、どこにいるんだろ。
そんでもって。
あなたの弟、ずいぶんやさぐれてしまってますけど…。