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(堕)天使と“僕”  作者: 水住うゆに
天使長と“僕”の話
15/19

天使長のいないある日の騒動3  前編

夏休みも残すところあと10日ほどとなったある日。

「最近ミカエル来ないよな」

「ガブリエルも来ないぞ」

僕達は暇だった。そろっそろ溶けるぞ。

「ええぃ、うら若き乙女が室内で溶けていてどうする気じゃ」

「だって暑いんだよ外…」

あーでもかき氷とか食べたい、買いに行こうかなーでも暑いしなー。

そんなこんなでダレ続けていると、ピンポーンと間抜けな音。

…この音の後って、たいてい面倒くさい展開にしかならないんだけどなー。

けれど出ないわけにも行かない。宅配便だったらどうする気だ僕。

「はーい」

「こんにちはー」

「うわやっぱり」

面倒くさいほうだった。開けなきゃ良かったよ。

「真白野さんこんにちは。師匠、遊びに来ましたー」

天草先輩だった。この暑い中黒髪のもじゃもじゃ具合は加減を知らない。前髪で目が完全に隠れきってしまって暑くるしい。切ればいいのに。

天草先輩の声に気づいたルシファー、てこてこ玄関まで現れる。

「よくきたのぅ、つつじ」

「や、呼ぶなよ」

一応家主は僕だぞ。

「固いこというでないぞ、巡。つつじも、いつまでも玄関で立ち尽くしていては暑いじゃろう。中に入るといい」

「…はぁ。ま、確かにここじゃなー。どうぞ先輩、麦茶くらいしか出さないけどどうぞー」

「いや、今日はこれ渡しに来ただけだから」

天草先輩は小さめのクーラーボックスを掲げてみせた。中にはコロコロ、カップアイスが10個ほど。

「わ、どうしたんですかコレ」

「バイト先のコンビニがさ、いきなり冷凍庫壊れちゃって。このままじゃアイスもったいないから、みんな2、30個もって帰っていいぞーって店長が」

でも2、30個って結構量あるんだよね、天草先輩が苦笑する。

「そんなわけで貰ったはいいけど、俺も食べきれないし。せっかくだから友達に配って周ってたんだ。真白野さんたちがよければ、貰って欲しいんだけど」

「…なんっか、わざわざありがとうございます」

クーラーボックスにまで入れてもらっちゃって、本当気遣いの人だよなこの人。これでオカルトマニアじゃなければ彼女の一人や二人、絶対にいるだろうに。

「アイスか、つつじは本当に気がきくのぅ」

ルシファーニコニコ。本当に甘いものが好きだなこの堕天使。

「じゃ、俺帰るから」

「え?いや、お茶くらいどうぞ」

面倒くさいとかいってごめんなさい、アイスありがとうございます、このまま帰すってなんか良心が痛むからお茶くらいだしますよ!麦茶しかないけど、代わりにクーラーつけるから!涼んでってください!

さらりとさわやかに帰ろうとした天草先輩を引き止めた。「別に貰いものだから、そんなに気にしなくても…」気にしますって!

玄関口でそんなやり取りをしているものだから僕の体温、上がる上がる。先輩は先輩で、妙に強情張るものだから双方引っ込みがつかなくて、さてどうしたものかと思案する。

と。

「めぐちゃん、玄関で何を騒いで…」

お久しぶり、日和ねーちゃんの登場。…また厄介なタイミングだ。

けれどおねーちゃんはそれどころではないようで。僕の隣、天草先輩に視線を固定し、どこか呆然として呟く。

「天草、君?」

「加藤さん…」

…会いたくなかったなぁ。

天草先輩が小さく小さく呟くのを、僕は聞いてしまっていた。



「あ、いっけね」

俺がせっせと似合わない書類仕事をしているその横で、ガブリエルはわざとらしく声を上げる。

「この間ミカエルを捕獲した時にぐちゃっとした椅子や机、直すのを忘れていました」

「そんなん、今度でいーだろ」

っていうかそんなに暇そうにしてんなら手伝え!叫びそうなのをぐっとこらえる。

大分機嫌が回復しているようだがこの天使、こう見えてまだねちっこく怒ってる。いま下手につつくと仕事が倍以上に増やされるのは自明だった。

「いえ、善は急げといいますし。ってことでわたくし、直しに行ってきますね」

「…」

俺がここに縛られてる(比喩じゃなくて実際に両足を拘束されてる)ってのに、お前は兄上様+αに会いに行く気か。叫びたい、叫びたいがしかし、いってもどうにもならないんだから耐えろ俺。

けれどガブリエルはそんな俺の努力をあざ笑うかのように、羽を広げながら独り言を落とす。

「あっちはなんだか面白そう…いえ、大変そうなことになっていますねぇ。あら、三角関係でしょうか?」

「はぁ!?」

三角、三角って何だ、誰と誰と誰だ、って言うかお前、いったいどんな光景を見てやがる!

「ふふ、巡も中々人気者ですね…では、行ってきます」

「おいちょっと待」

俺の言葉なんぞ一切きかないガブリエル、バサッと羽をはばたかせる(ちなみに天使ははばたかなくても当然飛べる。揚力浮力推進力など関係ない。つまり羽をばさばさするのは気分だ)。そのまま俺の執務室の窓から飛び去ったガブリエルの背に、俺は力いっぱい叫んだ。

「テメー!ちったぁ人の話ききやがれってんだ!」

あとはばたいたのって絶対嫌がらせだろ書類ぐちゃぐちゃだぞ!俺が立ち上がれねーのわかっててやってんだろ!


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