表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(堕)天使と“僕”  作者: 水住うゆに
天使長と“僕”の話
12/19

天使長と里帰り2

「巡は危なっかしいからの。ミカエルは優しい子じゃから、放っておけなかったのじゃろう」

「その意見には賛同しかねます。ですが…そうですね、大きな変化だと、私は思いますよ」

「違うぞガブリエル。変化ではない、成長と呼ぶのじゃ」

「はいはいブラコンブラコン」

「…ぬしは本当にわしのことが嫌いじゃな…」

「そんなの一万年と二千年前からずっとじゃないですか」

「何の話しじゃ…」



無機質なコール音は嫌いだ。不安になるから。

1回、2回、3回…ぴ。

『はい、真白野です』

「あ、母さん?」

『…巡』

「うん」

あと少ししたら帰るね。

それだけいって、電話を切った。

…。

……。

いまから洋館戻っちゃ、駄目かなぁ…駄目か。

っていうか、戻らないために電話かけたのに。どうしよう、電話かけてもなお実家帰りたくない。

あーもう絶対、今情けない顔してる。泣きそうな顔してる。

こんなとこ絶対に知り合いには見せられないよな……。

ん?

「気の、所為か?」

いま特徴的な金髪が見えた気がした、んだけど。

やーでもミカエルはいま、大好きな兄上様と一緒だし、こんなところにいるわけが…あ。

「…」

駄目だ。隠れ切れてない。隠れ切れてねーよ、ミカエル。その髪の毛やっぱり目立つわーっていうか、何してるのあの人。

普通の人の目には見えないとはいえさ、民家の屋根の上でこそこそしてたらわかるから。視線は向けないけどな!

たぶん、僕が気がつかなかっただけで、ずっと着いてきてたんだろうな…コンビニで30分近く悩んでたのも、見てたんだろーなぁああ恥ずかしい!

もういい、早く帰ろう、いまさら洋館戻れないし不審者怖いし、何よりもう少ししたら帰るっていっちゃったし、とにかく帰ろう。

一度足を動かすと、あとは惰性で進み始めた。背後の天使が羽を広げる音が聞こえたが、当然シカトだ。


「ただいまー…」

「おかえりー」

帰った僕を出迎えたのは4つ下の弟だった。

「お土産はー?」

「隣町に住んでるのにあるわけないでしょ」

…ほっとしている自分が、心底嫌になる。

廊下を抜けて、リビングへ。新聞を広げている父さんの姿を見て、わずかにからだに力が入るのがわかった、が。

……父さんの向こう、窓の外に、自己主張の激しい金髪が見える。

「巡、帰ったのか」

「え、あぁ、うん…ただいま」

「おかえりなさい」

直前まで頭の中を駆け巡っていたあれこれは、その金の光に押し流されてどっかへ行ってしまっていた。



…気がついてる。アレは絶対、気がついてる!っていうかこっち見てやがる!呆れ顔が『なにやってんだ』って語ってる!

俺、いまなら羞恥で終末のラッパ吹き鳴らせる自信あるわ。しねーけどな。

覗き見る光景は、よくある一家の団欒へと変わっていた。

いままでのもだもだが嘘みたいに、少女は家の中で笑って見せている。父親らしき人間と母親らしき人間と、弟らしき人間。

…その三人を相手にいつも通りを振舞おうと、必死に笑って見せていた。

なんだってんだ。

どうして家族相手に、そんな無理をする。

どうしてそんなお前に、誰も違和感を抱けない。

いや、違和感を抱いていても、どうにもならないのか?

光景だけ見れば幸せな団欒なのに、流れる空気はどこかしらぎこちなく、軋みを上げていた。

結局少女は食べるのもそこそこ、会話を切り上げてさっさと一人寝るようだった。自室の寝台で「うえー」とうめく少女に、俺は近づいた。

「…おい」

「んー、なに」

いまはもう、さっきまでの無理な様子は見られない。あの洋館で過ごす時と同じ、失礼な少女に戻ってる。

「何でお前、家族の前であんな緊張してんだ」

「…緊張、かぁ…ミカエルにもそう見えてたんなら、父さん達も勘付いてんだろうなぁ…」

駄目だな、僕。

自嘲気味にはき捨てる少女は薄く笑っていた。

そしてこらえていたものを吐き出すかのように、全部全部口に出した。

「…僕さ、この家から逃げ出したんだよ。見たならわかると思うけど、僕の見た目、父さんにも母さんにも、それどころか親戚の誰にも似てないんだよ。…中学校入る前くらいかな、一度それが原因で夫婦喧嘩に発展しちゃって…それ以来、なんとなく居づらい」

でも、それは。

「お前が誰にも似てねぇのは、神の欠片が入った人間だからだろ」

「うん…うん、でもさー」

軽い言葉を装って。仕方のないことだと諦めて。

けれどその言葉の裏に隠された悲しみを、俺は結局見つけてしまった。

「そんな理由じゃ、父さん達は一生納得できないよ…」


いっそ、泣いてしまえばいい。そう思ったくせにどうしてだか口には出せなくて、俺は少女が眠るまで、その枕元に存在していただけだった。

あぁ、俺は無力だったのか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ