天使長と里帰り1
「いつまでここにいるんですか、兄上様」
「そうじゃのう、わしは巡に召還されとるからな。巡が死ぬまでかの」
「…お前、いつ死ぬんだ?」
「なに、死んでほしいのかよ」
「違う。逆だ。お前が死んで兄上様が地獄へと戻ってしまえば、次に会えるのはいつかわかんねーかんな」
「僕が死んでも次の人が召還するだろ?」
「いや、俺が知る限り兄上様の召還に成功したのはお前だけだ」
「わしが知る限りでもそうじゃの」
「へー、僕天才じゃん」
「神の欠片が入っている人間と、あの古書。二つとも揃わんとわしは呼び出せぬからの」
「…また神の欠片か」
「…神の欠片を持つ人間の寿命は、およそ100年といわれておる。事故や天災に合うことは、ほぼない」
「100年…たったの」
「100年か。ははっ、長生きだなぁ、僕」
そんなに生きなくてもいいのに。
物心ついたときから、ずっとずっと兄上様を尊敬してきた。いなくなったときは悲しみで死ねるかと思った。再会した時は、それまで溜め込んでいた恨み言を全部忘れ去ってしまった。
ブラコンと呼ばれても正直その通り過ぎて仕方がない(でもいわれると腹が立つ)俺だが、現在はその兄上様から離れた場所で何故だか人間の小娘なんぞを見守っている。何故だ、暇なわけじゃないのに。
『おおよく来たの、ミカエル。ゆっくりとしていくがいい…う?巡か?巡ならばほらソコに…あぁ、もう行くのか。入れ違いになってしまうの。巡は本日里帰りなんじゃ。久しぶりに家族と過ごすと』
久しぶりに家族と過ごす。その言葉に自分自身を重ねてしまったのだがしかし、その少女の様子はお世辞にも楽しそうとは言えず、それどころか今にもぶっ倒れそうな感じだった。そのくせ兄上様の言葉に対し、無理に笑おうとするのだからこれまた痛い。
結局少女が出てって、兄上様と家族水入らずになってもそわそわそわそわ…。見かねた兄上様が笑いながら、「ちょっと巡の様子を見てきてくれんかの」と仰られるまで、俺は挙動不審のままだった。
ま、まぁ…兄上様の召還者だしな。死んだら兄上様も地獄へと戻られてしまうしな。人間界は危険がいっぱいの恐ろしいところだしな!1日くらい守護したって問題ないだろう、むしろ守護しないほうが問題だ(神の欠片が入っていることはスルー)。
そんなこんなで現在俺は、ぱっと見ただの人間である少女を影ながら守護しているのだが…本当に、家族に会いに行くのか?あれは。どんどん顔色が悪くなるような…。
電車という乗り物に乗り、降りて、しばらく。
…このコンビニで、あいつはいったい何をしているのだろう。もう20分はとっくに過ぎている。そろそろ陽も翳ってきているし、気温はともかく不審者が出たらいったいどうするつもりだ…。
声をかけるべきか、かけるべきなのか、いやいやそしたら着いてきてることバレちまうそれはねーわ。
いいからお前さっさと動けよ早く帰れよと念じてさらに10分、視界の先の少女はポケットから携帯電話を取り出すと、悲痛な表情で何事か操作しだした。
…そんな顔するくらいなら携帯なんか捨てちまえ、危うく俺は少女の前に姿を現すところだったが、『え、なに、ストーカー?』頭の中で少女の声が響き(妄想だ)、何とか踏み止まった。
「ミカエル、そろそろ戻っていただかないと本日のノルマが…あれ?」
「おおガブリエル、ミカエルならいないぞ」
「おかしいですね、入れ違ったのでしょうか?」
「違う違う。ミカエルはいま、巡の守護についておる」
「は…?失礼、千年の時はあなたの脳みそを腐らせたようですね、いまなんと?」
「ずいぶんないいようじゃな。だが真実は変わらんぞ。ミカエルは、巡の守護についておる」
「…腐っていたのはわたくしの耳のほうですか」
「残念じゃが、どちらも違うと思うぞ。受け入れてしまうといい」
「ミカエルが、あなたを置いて他の人間の守護に着く…?ナニソレコワイ」
「やれやれ、意外と頭固いのぅ…何でもいいが、今日は邪魔してくれるなよ」