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彼女にフラレて山を彷徨ってたら妖刀拾った  作者: きつねこ(仮)
一章

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第16話 ブチブチ……ジー


 金曜日、すべての授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。その瞬間、体全体にどんよりと積もっていた疲れが一気にどこかへ吹き飛ばされる。心の中は、雲ひとつない空のように晴れやかで、土日何しようかなと期待感に満ち溢れる。他のクラスメイトが「終わり―!やったー」なんて言うのを横目に聞きながら、俺は席を立った。


 影静と、一ノ瀬と共にショッピングモールへ行ってから約一週間ほどが過ぎていた。学校での一ノ瀬は相変わらず静かで、ほかのクラスメイトとは喋っていない様子だった。俺は影静に言われた”あの子の心には、大きな傷があるようだったので”という言葉から以前より、一ノ瀬の姿を目で追うようになっていた。


 一ノ瀬は、目元まで伸びる前髪を少し煩わしそうにしながらも、教科書をカバンの中に入れて、帰る準備をしていた。前髪の隙間から覗く目と目が合う。一ノ瀬は俺を見て、軽く頷いた。今日は柊子と一ノ瀬と一緒に帰ることになっているのだ。


 俺たちの家は、同じ方向で、まず学校から一番家が近いのが、一ノ瀬で、そこから少し離れたところに俺んちのボロアパート、そして一番遠いのが柊子の家だった。俺たちは、週に一度ほど予定が合えばみんな一緒に帰っていた。今現在、柊子は、図書館に本を返しに行っており、教室にいなかった。


「……」


 最近、生活で変わったことと言えば、第一に影静の格好である。あの日、ショッピングモールでいくつかの服を購入してから影静は、家の中でもそれを着てくれるようになった。ただ、それで少し困ったことがある。


 なんというか目のやり場に困ることが多いのだ。スキニーパンツやセーターなど身体にフィットするような服は元より、ジーンズだとしても、影静の身体のラインがはっきりと分かってしまう。影静の体型は、欧米のモデルのように出るとこは出ていて、腰回りはキュッとくびれている。それに脚は、同じ人間かって言うほど、長く美しい。


 あっ、人間じゃなかった。妖刀だった。


 正直めっちゃタイプだった。


 自分の中にある、女性の理想の体型を思い浮かべれば、間違いなく影静の姿が浮かんだ。そのくらい俺にとって影静の姿は、艶かしく映った。


 だからこそ俺は辛かった。


 もっと影静を見たい! でもそんな性欲まみれの男とは思われたくない!そんな葛藤が常に俺の中で渦巻いていた。


 一昔前の漫画の主人公のようにもっとスケベに生きたい。

 だが、駄目だった。俺はチキンなのだ。影静との生活は、居心地がよく、それを壊したくなかった。俺は、所詮影静の姿をバレないようにチラ見することしかできない、カス野郎なのだ。


 モテたい……というかモテなくてもいいから彼女が欲しい。


 朱里と別れ、時間が経つにつれて”彼女欲しい”という欲は強くなり、俺をダークゾーンに導いていた。自分でも意味がわからないが、それそろ暗黒界に落ちそうなのだ。よくわからない?俺もよくわからない。


「恋詩くん、柊子ちゃん遅いね」

「それなー、なんかあったんかな」


 気づけば、俺の席の前にある田中くんの席に一ノ瀬が座っていた。

 教室からは、もうほとんど生徒がいなくなっており、残っているのは、俺と一ノ瀬、それに女子数名だった。


 一ノ瀬と他愛も無い話をしながら、柊子を待つ。俺たちの会話に、残っていた女子たちが平然そうにしながらも聞き耳を立てているのがわかった。一ノ瀬が、饒舌に喋るのが珍しいのだろう。ちなみに一ノ瀬の声は、小さいが、よく透き通る声で「あっ、こいつ絶対カラオケ上手いわ」なんてことを思わせる。そいや、最近カラオケ行ってないっけ。


「ごめーん、ちょっと先輩に捕まっちゃってさ」


「あっ、おかえり柊子ちゃん」

 

 柊子が教室の後ろ扉から帰ってきていた。

 どうやら、誰かに呼び止められていたらしい。


「部活のパイセン?」


「そう、それに結構面倒くさい話だった」


 柊子が所属している部活動は新聞部。文化系ながらもうちの高校では割と伝統ある部活だった。とは言っても、それほど忙しい部活ではなく、ほかの部活動と掛け持ちしている生徒も多いそうだ。新聞部ということもあり、柊子は基本的にカメラを所持していて、いつも何かないかと探している。ただ、先輩が少し厳しいらしく、柊子はよくその先輩について愚痴を言っていた。


「じゃ、帰ろうぜ」


「そうね、あっ、帰りに”おのとら”寄ってかない?」


 柊子が言う”おのとら”とは、うちの高校から出てすぐ近くにある簡易店舗のことだ。正式名称はタコ焼き小野虎というお店。名前の通りたこ焼きが売っていて、値段は、これで利益大丈夫なのかなと思うほど安く、学校から近いこともあってかうちの高校の生徒がよく訪れる。たこ焼きは、ソースがたっぷりかかっており、特別美味しいというわけではないが、学校終わりで腹を空かしているときに食べる”おのとら”のたこ焼きは学生の胃袋を掴んで放さない。俺は”おのとら”のたこ焼きは思い出すと、口の中に涎が溢れた。というわけで柊子の誘いに乗る。


「おっ、いいね。一ノ瀬は?」


「……行きたいかも」


「じゃ決定~。ちなみに恋詩の奢りね」


「嫌です……」


 そんな会話をしながら、俺達は学校を後にした。

 




「美味しかった~!」


 柊子が、車のいない小道の真ん中でくるくる回りながら言った。

 肩に掛けられている黒のスクールバッグが遠心力に従って一緒に回っていた。


「ご飯食べた後に止めとけって」


「えへへ、今の私は幸せです」


 柊子はにへらと笑みを浮かべながら言う。

 確かに、”おのとら”のたこ焼きはいつものように美味しかった。

 やはりソース、ソースはすべてを解決する。


「ほんとに美味しかった」


 一ノ瀬も小声で言う。目元は見えなかったが、口角は少し上がっており、笑みを浮かべていることがわかった。


 しばらく歩いた後、一ノ瀬のマンションについた。そこで一ノ瀬とは別れ、柊子と二人きりで適当に喋りながら歩みを進めた。気づけば、俺のおんぼろアパートが見えていた。


「じゃあ、帰りきーつけろよ」


「うん、またね恋詩」


 そう言って柊子と別れ、ギシギシ音が鳴る砂鉄階段を登り、自分の部屋につく。そして扉を開けた。


「ただいまー」


「おかえりなさい恋詩、?手に持ってるそれは?」


「たこ焼き」


 俺はお土産に買ったたこ焼きが入った袋を影静に見せた。





※ここから暴力描写、残酷描写あります。注意!


 ——町南西にある大きな工場。数年前に会社が倒産し、その後どこの会社も購入せず、処分することすらできなくなった場所。そこは、もう誰にも正式に管理されておらず、朽ちていくしかなかったはずの場所である。


 その工場から数百メートル離れた空き地に、2台の車両が止まっていた。

 2つの車両の左右のドアが一斉に開く。

 そこから緊張感を漂わせた顔で降りてきたのは、黒のスーツ着た男性警察官3名と、女性警察官1名だった。


「ここか?」

「はい、恐らく彼らはここに逃げ込んでいる可能性が高いと思われます」


 頬に傷のある男性警察官の問に、女が答えた。

 彼らは刑事であり、ここに着たのはある集団を追ってだった。


 その集団は、連続誘拐強盗を繰り返す凶悪犯たちであり、ここにいる4名の警察官は、捜索隊としてこの場所に訪れていた。

 中に、その集団がいるのが確認できれば、すぐに多数の警察官が駆けつけ、逮捕する手はずになっていた。


 4人の警察官は、少しずつ工場に近づいていき、ついにそのシャッターの前までたどり着いた。


「どうだ?」

「聞こえます。やはり間違いないかと」


 女が、集音マイクをシャッターに当て男に言った。

 中からは、多数の男がいるようだった。

 下卑た声だ。女は聞いているうちに顔を歪めた。


「よし、斎藤さいとう高峰たかみねに連絡しろ、すぐに来させる」

「はい」


 率いていた頬に傷のある男の刑事がまだ若い男の刑事に言う。

 若い男は、無線機を取り出し、連絡……しようとした。


「え?」


 後ろに大きな影があった。

 全員が一斉に振り向く。


 そこにいたのは、嫌らしい笑みを浮かべた金髪の大男だった。

 大男の手には、若い刑事が持っていた無線機があった。


「なっ!」


 さっきまではいなかったはずだ。全員がそう思った。

 それほどまでに男は唐突に現れた。


 ブチブチ……ジー。

 大男の手にあった無線機は握りつぶされていた。


「オイ!!!!しゅん! てめぇ、何見張りサボってんだ!!!」


 工場全体を震わせるような大きな声だった。

 いや、実際に震えていた、そう思うほどの怒声であった。


「あ、竜次りゅうじさん、すみません!!!!!」


 工場のシャッターの近くにある高い電柱近くから声が聞こえた。

 茶髪の軽薄そうな男が陰から出てきていた。


高瀬たかせさん、こいつです。指名手配犯の志波竜次しばりゅうじです」


 頬に傷のある刑事高瀬は、腰にあるそれを抜き取った。

 拳銃。


「おい!!! 志波竜次!!! 貴様を連続誘拐の容疑で逮……」



「高瀬……さん?」


 女が、傷のある男の言葉が止まったことを不審に思い、高瀬を見た。

 そして高瀬と目があった。こちらに背中を向けているのに。


 高瀬の首だけが、後ろに折れ曲がっていた。

 

 刑事の中の誰も、その状況を一瞬で理解することが出来なかった。


「嫌アアアアアアアアアアアア」


 女の悲鳴が響く。高瀬は絶命していた。

 

「ハハハ、うける。何も言えなかったら逮捕とか出来ないんじゃね?」


「貴様ァァァ」


 残りの二人の男性刑事が銃を抜いた。

 そして天に向かって撃つ。威嚇射撃であった。

 次はお前に向かって撃つぞという脅し。

 

「動くな!でないと……」


「だからサァ!」


 破裂音。何かが壁に向かって飛んでいった。

 威嚇射撃を行ったもう一人の男性刑事。彼の首から上が、なかった。


 女は、これが現実かわからなくなりそうだった。


「アァァァァ」


 パン!パン!

 銃声が響いた。


 残っていた男性刑事が大男を撃っていた。


 だが。


「いってえぇぇな!!オイ!!!」


「え、あ、やめ」


 大男が男性刑事の顔を掴む。

 そして、工場の壁に力強く叩きつけた。

 轟音と共に壁に血の花が咲く。


「な、なんで……なんで……おかしい、これは夢だわ……そうよ」


 なんで、銃で撃たれているのに血が一切でていないのだ。女の脳裏をその言葉が支配した。


 大男が着ていた黒のシャツには、小さな丸い穴が開いており、その素肌を見せていた。つまり、彼は防弾チョッキなどを着ていないはずなのに、その身体から血は出ていない。


「ハハッハハハ!!やっぱ、最高だぜこの身体ァ!」


 大男が近寄ってくる。

 女は、震える手で拳銃を取り出そうとした。


「まだ、分かんねぇのか?」 


 男が銃口を掴んでいた。

 そして、押しつぶす。

 女の持っていた拳銃の銃口が、粘土のように形を変えた。


「女ァ、お前は生かしておいてやるよォ」


「あ、ああ、イヤアアアアア!」


 女の髪が掴まれる。

 そして髪を掴んだまま、大男は顔を近づける。


「しばらくは可愛がってやるよ、飽きるまではさァ。その後はそうだ……」


 女はその言葉を最後まで聞くことは出来なかった。

 脳が理解を拒み、意識を閉ざしたのだ。


 女は意識を失う寸前、それに気づいた。

 大男の首が、奇妙に蠢いていたことに。

 まるで中に大きな虫がいるように。







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