3話 ギルド
その後2人は特に会話をせずに歩いた。だが不思議と、気まずさは無かった。やがて目の前に大きなレンガ造りの建物が見える。ゆずき達から見て右には装備屋。左にはポーションなどを売ってる店がある
「はぐれないように、しっかりついてきてくださいね」
ベルがゆずきの前に立ち、両手でゆっくりと扉を開ける。すると賑やかな声と酒の匂いが充満していた。しかし珍しい格好をしているベルを見つけると、ギルド内はシーンと静まり返る
しかしベルは構わず真っ直ぐギルドの受付に進む。呆気にとられていた受付の女性が、ベルが目の前に立っていることに気づき、すぐに気を取り直して対応を始める。キレイな黒髪をたなびかせており、少し幼さが残る可愛らしい顔立ちだ
「こんにちは!えっと…冒険者登録ですか?」
「はい…私とこちらの人の二人です」
受付の女性は素早く引き出しからカードを2枚取り出す。The異世界みたいな色合いのカードだ。そして受付の女性はベルに羽根ペンを差し出すと、にっこり微笑む
「では、こちらのカードにお名前とキーワードをご記入ください」
「キーワード…?」
頭の上にハテナを浮かべているゆずきに説明しようとしている受付の女性よりも先にベルの口が開いた
「ゆずきの世界で言う暗証番号のようなものです」
「あーなるほど…」
その会話を聞いてギルド内がざわつき始める。おかしな服装。別の世界の話。彼らの中で一つの真実に辿り着いたようだ。すると一人の男が立ち上がって、ゆずきとベルに近づく。すると男は震える手で指を指す
「あ…あんたら…。異世界人か?」
「そうだけど?」
即答だ。にしても何故異世界人がこんなに怯えられているのだろう。周りを見渡すと皆少しゆずき達から距離を取っている
「あの…異世界の人が何かしましたか?」
ゆずきが恐る恐る聞いた。まさか同郷の人がここを荒らしたのだろうか。そんな不安がよぎる
「違う…お前らはバケモンだ…。能力値がずば抜けてやがるんだ…」
「なるほど…単なる妬みですか」
言葉を発したのはベルだった。短い言葉だったが、その言葉はギルド内の空気を凍らせる程の威力を持っていた。するとギルド内の者達が一斉に立ち上がる。彼らの顔には怒りがあらわになっている
「なんだと!?」
「おいガキ!俺等に喧嘩売ってんのか?」
「テメェ…」
すると一人の屈強な男がベルに近づき、胸ぐらを掴んだ。小柄なベルの体はすぐに浮き上がった。しかしベルは、うめき声一つ上げることなく、呆れたようにため息をついた
「事実ですよね?」
ベルの一言が更に周りを怒らせた。そのタイミングでゆずきが挙手。しかし目が笑っておらず、真剣な顔だ
「能力値だけで差別するとか…。ここの人達、人として終わってる」
「テメェ…殺す…」
ベルの胸ぐらを掴んでいた男がベルを落とす。しかしベルは何事もなかったかの様に着地。男の目には怒りとゆずきしか映っていない。男が拳を握りしめ、殴りにかかる。ゆずきはその際も表情を崩さない。ゆずきに男の拳が到達しそうだ。その時―――
「冒険者カードを記入してください!」
叫んだのは受付の女性だ。カードを2枚ベルに突き出している
「ギルド内で揉め事を起こしたことにつきましては謝罪いたします…」
ゆっくりとベルが頭を下げる。そこから顔を上げるまでの動作が凄く丁寧だ。それを見た男は舌打ちをし、ゆずきから離れる
ゆずきは冒険者カードを受け取り、羽根ペンで書こうとする。しかし一瞬手が止まる。しかしベルが耳元で何かを囁くと、またスラスラ記入し始める。そしてゆずきは名前の所にユズキ・アンドウと書き込んだカードを提出。ベルも記入を終えて提出。キチンとこっちの世界の言語で記入を終えて
「あ…」
カードを受け取った受付の女性が少し困った顔をしている。そしてゆずき達の目の前にカードを置いた
「えっと…ゆずきさんのご職業の学生というのは、どちらの学校の?」
ゆずきが「しまった…!」という顔をして手で口を覆う。学生の意味を理解出来ずに適当にスルーされると思っていた。しかしこの世界にも学校があるようだ。しかしゆずきにこの世界の学校なんて分かるわけがない。そしてゆずきが言い訳をしようとするが、ベルがゆずきの前に立ち、代わりに答えてくれた
「ゆずきはハイスキル魔術学校に通っていました」
すると受付の女性は目を見開いた。まさかベルが適当な学校名を言ったが、実際はそんな学校存在しないというのだろうか。しかし―――
「えぇ!?ハイスキル魔術学校!?名門学校じゃないですか!」
「え…あ…まぁ!魔術の真髄?とは何かを叩き込まれましたので」
そしてゆずきとベルは無事に冒険者登録を終えた。2人は寝床を求め、近くの宿に向かう事にした。時間は昼過ぎ頃だが、ゆずきは年越しの為に起きていたのでかなり眠い。暫く歩くと木造建築の宿を見つけた。今日はそこに泊まることにした
受付にはガタイが良く、背が高い坊主頭の男が立っていた。だが不思議と怖い雰囲気は無く、親しげな雰囲気だ。すると男は、ドアの上に付いてるベルの音で、入って来た二人に気づいた
「いらっしゃい!」
男がニッコリと笑い、ゆずき達を出迎えてくれた。店の中は暖色で落ち着いた木造建築という印象だ
「部屋を2つ頼めますか?」
ベルが指で2つを示して男に問う。すると男は腕を組んで、少し困った顔をした
「わりぃな…今空き部屋が一つしか無くてよ。2人で同じ部屋に泊まってもらっても構わねぇか?」
その言葉で場の空気が凍った。ベルは振り返り、ゆずきを見つめる。ゆずきは気まずそうに見つめ返し、暫くの間沈黙が訪れる
「分かりました。別に構いませんよ」
「え…?」




